見出し画像

新生アイリッシュウイスキー蒸溜所”クロナキルティ”へ#2

時差ボケと短時間で沢山飲んだので、昨日はミドルトンから宿に戻ってからとろけるように寝てしまいました。気を取り直して今日はクロナキルティ蒸留所に行きます。

ミドルトン蒸留所にあった謎シャツ
クロナキルティ

この蒸留所は2018年にアイルランドのクロナキルティに建てられ、2019年の3月から蒸留を開始。8世代に渡って農場を営んできたスカリー家が設立者なんだそうです。昨年2022年3月にウイスキーのリリースが始まりました。

新しい蒸留所なのにも関わらず、海を越えて遥か遠くの日本でも見かけるクロナキルティ...一体どんな蒸留所なんでしょうか?

では早速向かいましょう。

コークからバスに乗り1時間少々で着くようです。意気揚々とバス停に向かいますが、Googleマップに表示されているところに停車場がありません。近くにいたバスの運転手さんにクロナキルティに行きたいと聞き、バス停を教えてもらいましたが、時すでに遅し...。乗る予定のバスは行ってしまった模様。

バス停の前に流れる川

ツアーを予約している12時に間に合いません。仕方がないのでクロナキルティ蒸溜所に電話し、16時から始まる次のツアーに変更してもらいました…とほほ。次の予定が無かったのが不幸中の幸いです。

さて気を取り直して蒸溜所に向かいましょう。

この黒いバスで向かいます

自然豊かな道を走り、1時半ほどでクロナキルティに到着。バス停から目と鼻の距離に蒸留所がそびえたっています。

クロナキルティ蒸溜所

蒸溜所らしくない造りです。どうやら元は銀行として使われていたそうな。銀行を改装して蒸溜所になったところに来たのは初めてな気がします。昔ここにお金を預けに来ていた人は、将来ここでウイスキーが造られるようになると思っていたのでしょうか。思っていたはずがありません。

蒸溜所前にはラウンドアバウト(ロータリー)
クロナキルティの街並み

パラパラと雨が降っていますが、それでも絵になる街並みです。さて、雨に打たれて上着も濡れてきたので、街散策はこのへんにし受付をしに向かいましょう。

受付に行くとスタッフの方が棚にウイスキーを並べていました。そっと声をかけ、ツアー時間を変更してもらえたことにお礼を伝えます。すると、どこから来たの?と聞かれ、日本から来ましたと伝えると、実は30年前に日本で英語の先生をしてたのよとにっこり笑顔で話をしてくださいました。昔覚えた日本語は右耳から左耳に抜けていきましたと朗らかに。チャーミングです。

クロナキルティがずらり

そうこうしているとツアー開始時間に。ではガイドさんに付いていきましょう。まずはパネルを見ながら蒸溜所の歴史などを教えてもらえます。

スピリッツを樽に詰めるところまでは、街中にあるこのクロナキルティ蒸溜所内で、熟成は潮風を浴びる南部の海岸沿いで行っているそうです。貯蔵庫がある場所は熟成にもってこいなんだとか。あと、街中に熟成庫を新たに作るのは、火災の危険などあるので難しいとも言っていました。

ちなみに造られているジンの説明もあり、これがまた面白かった。なんと、チーズなどを作るときにできるホエイ(ヨーグルトから出てくる液体)からアルコールを生成してジン造りをしているとのこと。ホエイに糖類は含まれるのか分からず、どのような仕組みなのか理解できませんでした。

後から調べてみましたが、やはりホエイにそのまま酵母を入れて蒸留前のアルコール度数に持っていくのは難しそう。クロナキルティの場合はどうしているのか…もう聞けないのでモヤっとしますが、とにかくどうにかしているのでしょう。どなたか教えてください。

さて、次は精麦の工程へ。詳しい説明はありませんでしたが、ミルルームがあったので粉砕はここの建物で行っていると思います。また発芽したモルトと、アイリッシュウイスキーに欠かせない未発芽大麦の食べ比べをさせてもらえました。

未発芽大麦
発芽した大麦、通称モルト

正直見た目ではどちらがどちらか分かりません。わさわさっと混ぜられたら、もうお手上げです。しかし、それを口の中に放り込み噛むと明確に違う。発芽させた大麦の方はスナック感覚で噛めます。そして美味しい。未発芽のものは固くて美味しくもありません。

これらの大麦は自社畑のものを使っています。その畑は南部の熟成庫近くに。

地図

これらの大麦にお湯を混ぜ糖化させていきます。クロナキルティ蒸溜所では、タイプの違う糖化槽が2つありました。珍しいです。

2つ
これは何式だろう
フルロイター式

フルロイター式の方が中身を撹拌しやすく、沈殿を促すことができます。結果、よりすっきりとした麦ジュースを取り出すことができる。

一方、もう一つの方はあまり撹拌できそうにありません。こちらの方は前者と逆の個性が現れそうですね。

甘い麦ジュースができたら次は発酵の工程へ。

ステンレス製発酵槽が8つ

外から見たら木製に見えますが、ステンレス製です。7,500リットルのものが8つありました。それぞれのタンクに冷却機が備えられていて、適宜温度管理ができるようになっています。

発酵時間は72時間。昨日行ったミドルトン蒸留所が60時間なので、そこよりかは長めです。よりフルーティーな香味を目指しているのでしょうか。ここで生成されるアルコールの度数はおよそ8%です。ちなみにミドルトンは10~12%(他の蒸溜所と比べて高い)

酵母さんのおかげでアルコールができ、次は蒸留の工程へ

上から見た図
下から見た図

ポットスチルの数は、伝統的なアイリッシュウイスキー造りに必要な3つ。左から1、2、3回目蒸留に用いるスチルです。形状は全てランタン型。

ラインアームの向きは1.2番目は地面と平行、3番目のスピリットスチルは下向きでした。軽やかな酒質を目指していることが窺えます。

スチルはフォーサイス社製のものではなく、イタリアのバリソン社(Barison)のものを使用。イタリア製のものは初めて見た気がします。

1回目の蒸留は84度で加熱し、 7,500L (8%) → 4,600L (約25〜40%)に。普通は100度以上の熱に対し、ここはかなり低い温度で加熱されています。なので、ローワイン(スピリッツ)のアルコール度数が高いのでしょう。アルコールが蒸発温度は78度です。低い温度でゆっくり蒸留されることにより、軽やかな酒質になりそうですね。

2回目の蒸留でアルコール度数は70〜72%になり、3回目でおよそ83%となるそうです。

昨日のミドルトンでは分からなかったのですが、クロナキルティでは2回目の蒸留の際に、スピリッツを3つのパートに分けてカットするようです。最初に出てくるヘッド部分には危ない成分があり、最後に出てくるテール部分は好ましくない香味があるので、取り除きます。真ん中のハートだけを3回目の蒸留へ。

そして3回目もスチルマンがカットし、83%でニューメイクは完成。

ジンとウォッカ用の蒸留器

同じフロアでジンとウォッカも造られていました。スチルはドイツのミューラー製です。ベースとなるスピリッツは、ツアー最初に教えてくれたとおり、チーズをつくる時などからできるホエイからできたものを使用。ホエイプロテインのホエイです。

ボタニカルを入れて蒸気を通すバスケット式と、スピリッツに漬け込む浸漬法、どちらともを用いているそうな。ボタニカルによって使い分けているようです。面白いですね。

以上で蒸留工程は終わり。熟成庫はここから離れた南部にあるため今回はいけませんでしたが、きっとこだわりが詰まった造りだと思います。

では最後にテイスティングをしてツアーは終了。

テイスティングは3種類
その3種類

ダブルオークはここの定番商品だと思います。アイリッシュらしく優しい味わいですが、余韻がとても長かったです。若さがあるのは熟成期間が短いのでいたし方ありせんが、いやな若さではなく、華やかでフレッシュな感じでした。

グラスの脚がクジラの尾みたい
ラインナップが豊富
蒸溜所のトレードマーク”クジラの尾”

ここクロナキルティはクジラやイルカの保護活動もされているようで、蒸溜所のマークにはクジラの尾が描かれています。蒸溜所の外に出ると大きな尾ヒレのオブジェがあり、一際目立っていました。

ではガイドさんにお礼を伝え、クロナキルティ蒸溜所を後にします。


プレゼントされたアイリッシュウイスキーMAP

見学を一通り終え、ガイドさんも中で造りに励んでいる方も良い表情をされていて、ここでウイスキーを造っていることに誇りを持っているんだなと。

「ウイスキー造りに必要なのは、麦と酵母と水、そして辛抱と愛よ!」とガイドの方が力強くおっしゃっていたのが印象的です。1度は沈んでしまったアイリッシュウイスキー文化ですが、今はなんと44もの数の蒸留所があるそうな。新生蒸留所の方のパッションに触れ、アイリッシュの勢いを感じました。

明日はアイルランドでスコッチウイスキーの製法を貫くウォーターフォード蒸溜所に行ってきます。

↑香川県琴平町で小さなバーを営んでいます。ふらっとお越しくださいませ。

素敵なウイスキーライフをお過ごしください🥃