previous color 1. ゲーム配信③
前話
押したくない。
深くため息をつく。笠置の住むマンションの玄関口に桜は立っていた。目の前には部屋番号を押して呼び出すインターフォン。
桜は三度ためらい、ようやく笠置の部屋番号を押した。
能天気な呼び出し音が鳴り、スピーカーから笠置の声が聞こえた。
『桜ちゃん?おー、よくきたね、今開けるよ』
通話が切れる音と合わせて、ガラスの自動扉が開いた。
桜は扉をくぐると、エレベータに乗り、笠置の部屋のある階へ向かった。上昇するエレベータと反比例して、桜の気持ちは下がっていく。このままついてほしくない気持ちを置いてけぼりに、機械仕掛けのエレベータは無慈悲に指定した階へと到着する。
廊下を歩けば程なく、笠置の住む部屋についた。また一つため息をつき、桜がインターフォンを押そうとしたところで、扉がいきなり開いた。
「きゃっ」
「あ、ごめん。迎えに出ようかと思ったんだけど」
ドアの向こうには、にぃと笑う男がいた。彼が笠置だった。薄桃色のポロシャツに薄茶のスラックスと言う服装の色合いもさることながら、全体的にぽっちゃりしている彼に、服装の意匠、色使いはどうにも似合っていなかった。生地や、仕立ては桜の目にも質の良さそうなものに見え、おそらくそれなりの値段はするのだろう。しかし、悲しいことにそれを着ている人物にはそれを着こなす器量がなかった。
本人なりにデザイナーなどのような創造力を武器にする職業を気取っているのかもしれない。坊主頭にうっすらと色の入った眼鏡をかけ、顎にだけ髭を生やし、それもやはり顔の造作には見合っていなかった。
「さ、おいでおいで」
笠置が扉を押さえたまま、後ろに精一杯退いた。
ファミリータイプの物件とはいえ、玄関はさほど広いわけではない。桜は笠置と触れ合いそうな距離で玄関に入った。
「ん、いいね。よく似合ってる」
笠置がひょいと手を伸ばし、桜の胸元を引っ張った。ゴム留めの胸元が伸び、露わになった胸を笠置が覗き込んだ。
「お、おお。セクシーなブラしてるねぇ。かっわいい〜」
ゴムから手を離すと、笠置は一言もなく桜の胸を掴んだ。
「んっ、ちょっ……」
桜は身をよじって逃げようとしたが、ドアを押さえていた手を離し、笠置は背後から抱きついてきた。ねっとりとした手つきで服の上から胸を揉みしだいてくる。
「あー、やっぱり良い手応え。これ定期的に揉みたくなるんだよねえ」
「あっ、やめ、っん」
嫌な相手に無理やり触られているのに感じてしまう自分の身体が、桜は本当に厭わしかった。先ほどより強く体を捻ると、さすがに笠置も手を離した。
「あとでじっくり堪能させてね。ほら、ちょっと触っただけなんだけど、こんなんなっちゃった」
笠置は桜の手を取り、自分の股間を触らせた。服の上からでも固い感触がわかり、桜は手を引っ込めた。
「これもさ、収まりつかないからさ。撮影でやらなくてもさ、そのあとさ、お願いね」
「嫌です」
明確に、なんなら嫌悪感もむき出しに断ったのに、笠置はまるで堪えている様子がない。
「そう?まあ良いけどね、いつもそう言いながら、あんあん言いながらやらせてくれるし。あ、今日は寝室の方ね。準備するから待ってて」
そう言い残しがてら、笠置は桜の尻肉を鷲掴みして、リビングに去って行った。
笠置の部屋は一人暮らしにしては部屋が多く、3LDKあった。賃貸ではなく持ち家だった。リビングに趣味の部屋、寝室、ゲームなどの配信部屋があり、フィギュアや漫画、ゲームが詰まった趣味部屋以外には、動画の配信や編集ができるだけの性能の端末や設備があった。
笠置の本業はサラリーマンで、インターネットなど様々なことに詳しく一人社内にいると何かと便利な奴とは思われていたが、それ以外は社内外の評判も芳しくない。となると、これだけの部屋にそれだけの機材を揃えられるだけの収入は本業ではなく、副業の動画配信業で稼いでいた。ゲームの配信者としても活動しており、そちらは中堅どころだが、成人向けの動画作成や配信は才能があったらしく、本業の数倍の金額を稼いでいた。金に物を言わせて、お金に困っている容姿に優れる女性を動画に出したり、成人動画で稼ぎたいがノウハウのない女性をプロデュースしてチャンネルを作らせたりと、手広くやっていた。
桜についても動画サイトにチャンネルを作り、そこで生配信をさせられたり、動画の販売をされているが、桜に報酬の折半はない。桜の会社が副業禁止のため、それを収益にすると問題になることもあるが、笠置が勝手に作ったもので収益はすべて笠置に行き、契約書なども何もなく、桜としてもいくら収益があるかすら把握していない。
それならせめて、笠置が街中やSNSで捕まえた女の子と交渉しているように、出演料でも払えば良いものだが、笠置曰く「だって桜ちゃん、えっち好きでしょ?いつも気持ち良さそうじゃん」と宣い、払う気は全くなかった。もっとも桜とて、そんなお金を受け取りたくはないのだが。
結果、桜はただ弄ばれ、犯され、挙句それを見返りもなく配信され、しかも縁が切れないと言う最悪の状態にあった。
ゲームの配信なら配信部屋でいいはずだが、先ほどの「撮影でやらなくても」と言う発言や、やけに細かい衣装の指定などからすると、ゲームをねたにするだけで実際には猥褻な動画の配信なのだろう。
それに笠置は、桜を題材にしたときに性行為以外の動画を撮ったことがない。
機材の箱やフィギュア、積まれた本でごちゃごちゃした廊下を抜け、言われた通りに寝室で待つ。
配信で使うこともあるからだろう。リビングや寝室、配信部屋は綺麗に整頓されていた。寝室もベッドは洗濯されたシーツがぴんとしわなく敷かれており、掃除も丁寧にされていた。こういう細かいところの手を抜かないのも、動画で稼ぐこつなのだろう。
八畳あるやや長方形の寝室は、壁際に配信用のデスクトップやディスプレイ、カメラやマイクが設置され、反対側の壁際にベッドが置いてあった。自動昇降式の机は、ベッドと高さを合わせられ、椅子は脇にどかされていた。
桜が寝室に入って、まもなく笠置が来た。
「ごめんごめん、お待たせ」
笠置は部屋にすでにあるもの以外にも、数台のカメラと紙を持っていた。
「はい、これ台本。流れ、確認しておいて。その間に俺はセットしちゃうからさ」
笠置は桜に紙を押し付けた。
嫌々受け取り、脇にどかされた椅子に座ろうとして、笠置に止められた。
「あ、カメラのセットもしたいからさ、ここ座って。画角決まらないからさ」
笠置はベッドをぽんぽんと叩いた。薄ら気味悪かったが、諦めてベッドに腰掛けた。ミニスカートを履いているせいで、ベッドの前にかがみ込めば下着が丸見えになるだろう。
「おお〜、そうそういいね」
と言うよりそれも狙っている画だったのだろう。笠置は床に直接、カメラを一台置くと桜のスカートの中が映るよう角度を調整した。そのほか手持ちのカメラと机に設置したカメラの角度を決めていた。桜のスカートを映すカメラ、バストアップを狙うもの、全身を映すもの、あとはゲーム画面は端末からの取り込みだった。それと桜の近くに腰高の台を持ってきた。
その間、桜は台本――と言うには薄い、二枚ほどのものに目を通した。
流れは、桜自身のインタビュー、卑猥な質問例がついていて、笑顔で答えることと指示書きがあった。それからベッドの上で桜にポーズを取らせながら、インタビューの続き。インタビューを終えると、これは視聴者の興味を薄れさせないためだろう、軽い愛撫や自慰の撮影と続いていた。
――気持ち悪い。
それから笠置と少し話をして、ゲーム配信の開始という流れだった。
配信するゲームは桜の知らないものだった。桜は知らないが、それは難易度の高いゲームを作ることで定評のある会社が出した、ロボットを操るアクションゲームだった。桜はゲームを基本的にしない。スマートフォンのゲームをたまにやるくらいだった。ニュースにもなるような大手の会社の有名なものなら、名前程度は聞いたことがあるし、子供の頃に兄と一緒に遊んだ記憶はあるが、大人になってからはさっぱりわからなかった。
台本にはゲーム開始後の流れと、配信のルールが書いてあった。それを読んで桜はげんなりした。
「そのゲーム知ってる?」
ゲームの準備をしながら笠置が聞いてきた。
「いえ知らないです」
「ああだよね。じゃあ配信の前に少し練習しようか。台本にも書いたけどさ、配信始めた後も少し操作教える時間取るけど、あんまりそれで尺取りたくないんだよね。やっぱりさ、視聴者のみんなが期待してるのって、桜ちゃんが難しいことで有名なそれに頑張るところだからさ」
――期待してるのは私がミスすることでしょ。
なぜこんな下劣なことを思いつくのか、桜は考えたくもなかった。
「じゃあちょっとだけ練習ね」
笠置は桜にコントローラーを手渡すと、桜の後ろに座った。
桜がコントローラーを握ると、笠置が身体を寄せて桜と手を重ねてきた。
笠置は桜より頭ひとつ分背が高い。笠置が桜の胸を覗き込むように顔を寄せてきた。
「ああ、良い匂い」
ぞくっと桜の鳥肌がたった。
笠置は桜からコントローラーを取り上げると、スタート画面からひょいひょい操作してテストモードの画面を出した。
「いい?この十字キーの左右はあんまり使わない。メニュー画面でカーソル動かすくらい。上で回復、下で敵を探す。基本的な操縦は、この左右のスティック。左の方が動かした方向に機体が動く。右は視点を移動させる」
笠置は自分が操作しながら、桜に教えていくが、コントローラを見慣れない桜にとって、操作を見ながら画面で動きを見るのは難しかった。よくわからない。これが攻撃と笠置は矢継ぎ早に操作しながら、説明を続けた。桜が理解しているかは気にするそぶりもない。一通りの操作方法は話し終えたらしい。
「じゃあやってみて。そろそろ十五時だから、少ししかさせてあげられないけど」
桜にコントローラーを手渡す。桜はまず左右のスティックを動かしてみた。がっちゃがっちゃと画面でロボットが動くが、先ほど笠置が操っていたように流暢な操作ができない。
悪戦苦闘する桜を尻目に、笠置は桜のオフショルダーの胸をずり下ろすと、下着の隙間から手を入れてきた。
「あんっ、ちょ、ちょっと、いや!……んっ」
「ああ落ち着く。ほら、ちょっとさ身体暖めておこうよ」
笠置の掌が桜の丸い乳房を撫で回す。汗ひとつかいていないさらっとした笠置の皮膚が、汗でしっとりとした桜の乳房にぴたりと張り付く。笠置が手を動かすと、柔らかく揺れる。
「ああ、あと丸ボタン押してブースト噴かさないと動き遅いよ。ほら、まーる。丸だって」
桜の右の乳首をくりくりとこねる。
「はい、こっちでじゃーんぷ」
ふざけて言いながら、今度は左の乳首を押し潰してくる。
「あっん」
「んー、良い反応〜。こっちはどうかな?」
笠置の指が桜のショーツの隙間から侵入してくる。
「およ?なんかすでにぬるぬるしてない?そんなに俺の指よかった?」
閉じられた部分を撫でられると、言われた通りそこはすでに湿っていた。
「ち、ちがっ。あっ、んぅ、そ、そこ、はっ……あん、さっき電車で、ん〜!あっ、ちか、ちかん、された、から」
ぬぽぬぽと指を出し入れされ、その間ももう片方の手で胸を弄ばれ続ける。
「へ〜痴漢ねえ。まあ無理もないよねえ。こんなに可愛くてえっちだもんね、桜ちゃん」
笠置が桜の耳朶をぺろっと舐め、桜の身体がぴくんと反応した。
「じゃあそろそろ配信だからさ、おっぱいしまっておいてね。最初からサービスしたいなら良いけど」
桜の胸から手が引き抜かれる。手からコントローラーが取り上げられ、手元の台に置かれた。笠置が桜から離れ、手持ちのカメラを片手に、配信を開始すべくマウスに手を置いた。
「じゃあ良いかな?始めるよ」
桜は手を入れられたことでずれた乳房を押し込み直し、服の胸元を引き上げた。
「3、2、1、開始」
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桜物語〜colorful days〜
桜物語の様々なシチュエーションえっち、コスプレえっちを描いた短編集です。 短編本編は無償で閲覧可能で、後日談の掌編部分が有償となります。 …
主に官能小説を書いています(今後SFも手を出したい)。 学生時代、ラノベ作法研究所の掲示板におり小説を書いていましたが、就職と共にやめていました。 それから20年あまり経ち、また書きたい欲が出てきたため、執筆活動を再開しました。 どなたかの心に刺さる作品となっていれば幸いです。