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previous color 1. ゲーム配信⑤

前話


 笠置が起動させていたゲームを配信画面に映した。

 通常のゲーム配信であれば、ゲームの画面を大きく取り、操作する桜の姿はそれより小さい枠にし、端に寄せるだろう。しかし、今回の配信はゲームに苦戦し悪戯される桜が主題だった。そのため画面の大部分を占めるのは、桜の全身でゲーム画面の方は右下に映っているだけだった。それ以外に桜の上半身と顔を映す枠、スカートの中を見せるものと、計四枠の配信だった。

「じゃあいよいよ始めていきまーす!あ、その前に今回の配信のルール説明しまーす」

 笠置が端末を操作し、あらかじめ作っておいたのだろう、プレゼンテーション用のソフトを画面に表示させた。

「桜ちゃん、読んでくれる?」

 笠置がにやけながら言った。その視線は桜の目ではなく、薄く汗をかいた胸元、もじもじと擦り合わせている太ももの付け根に向けられていた。あからさまな意図を含むそれに、呼吸が乱れた。心拍が上がり、吐く息にも湿度と熱がこもっているのが自分でも分かってしまう。――期待しちゃってる。

「んっ、その、まずかっしーの膝に座ってゲーム始めます……。まだえっちなことは、無し、です」

「うんうん、それから。ばーっと読んじゃってよ」

 笠置がうなづきながら、促した。

「一ミス、えっと私の操作するキャラクターが一回死ぬと、いたずらが解禁、です。軽いのから。二ミスで服の上から胸触られて、三回目はその、……上、脱ぎます」

「上、どこまで脱ぐって書いてある?」

 笠置がから指摘が入る。

「あ、上着を脱ぎます。下着は、そのまま、です」

 読んでいて恥ずかしくなる。桜は先ほど少し練習させられたが、幾つもの操作を同時に行う必要がある……笠置は易々と行っていたが、桜は手元を見ながら動かすのが精一杯だった。目標までとても到達できる自信はなく、つまり今読まされているのは、これから桜が間違いなくされることだった。

「四回で、その、下着を……えっと、胸、直接、触られま、す」

 画面には四回ミスまでのルールが表示されていたが、桜が事前に読まされた台本にはもっと多かった。これからもっと過激になるのだろう。

「うーん、ちょっと聞きづらいけど……、その恥ずかしがってる顔がめっちゃそそるからいっか!次行くねー」

 笠置が次のルールを表示する。十回目まで表示されたそれを見て、桜は心臓がぎゅっとするのを強く感じた。――これは、むり。

「ご、五回で、えっと、あ、あそこ……」

「あそこ、じゃなくてさ、書いてある通りにさ読んでよ。俺だってこのスライド書くの恥ずかしかったんだよ?桜ちゃんもさ一緒に恥ずかしい思いしてよ〜」

 『言わせたいだけじゃんw』『せくはら笑う』『いやその子関係ねーべ。読んで欲しいけど』好き勝手なコメントが飛び交った。

「お、おまんこ、をパンティの上からさ、触られ、ます」

「うーん?まー、いっか。次行こ次」

 笠置がこの上なく嬉しそうな顔で笑った。桜に恥ずかしいことを言わせて本人もご満悦なのだろう、笠置が呼吸が少しずつ荒くなり、スラックスでも股間のものが盛り上がっているのが分かった。視線を外したが、笠置の指が目についてしまう。それで触られるところ……今読み上げたように女性器を触られるところを想像しかけて、桜は振り払った。

「六回目のミスで、その、パ、パンティの中に、……手が、はい、ります」

「うんうん」

「七ミスで……」

 とても読めない。『頑張れー』というコメントが目に入った。そんな応援要らなかった。

「下着、ぬ、脱ぎ、ます。その、下の」

「そんなんなったら大変だよね〜。これ、生配信だから、無修正だよ〜。桜ちゃんの可愛いあそこが全世界に見られちゃうね〜」

 笠置が屈んで桜のスカートを覗き込んだ。

「はち、かいで、ゆ、指、入れられちゃいます」

「どこに?」

 どこまでも言わせたいらしい。桜は悔しさで俯いた。同時にそこまでされてしまうだろう自分を想像し、胎内の奥が疼くのを感じた。浅ましい。理性は泣きたいほどなのに、そういうものと改変された桜のあり方はそれをどこか望んでしまっていた。一言読み上げるたびに自分が引き返せないところに進んでいる気がした。

「お、おまんこ、です……」

 笠置が次を読むよう顎で指示した。

「九回で、……その、もう、読めない、です」

 あまりの内容に桜はいやいやをした。

「えー、せっかくだし桜ちゃんに最後まで読んで欲しいなぁ、ねぇみんな?みんなで桜ちゃん応援してあげてよ」

 桜は両手を強く握りしめた。目尻に涙が盛り上がる。もう逃げ出したかった。しかし、それでも逃げるということを身体は全く選ぼうとしなかった。電車の中で口淫してなお、周りの乗客は何も言わなかった。それは桜の性行為に関する限り、周囲の人間はそれがどこでどんな時であっても異常と認識できないためであるが、それと同様の強制力は桜にも働いていた。桜は、逃げられない。

「きゅ、九回目で、そ、そう、にゅ……うされます」

 本当にするのかなどという愚問はしない。笠置は本当にするし、これはそういうのもありなチャンネルだった。いや、日本国内からの配信であり、おそらく本来は違法だろう。しかし、それを違法と思うそうした認知に至るものすらいなかった。桜にかかった呪いは、りんごが木から落ちるのと同様にこの世界の理だった。そういう風に、されている。

「最後、十回目、ゲームオーバーで、セックス、配信、します」

 なんとか最後まで言い終えた。

「ありがとう〜!桜ちゃん、頑張った!!」

 喜色満面とはこのことを言うのだろう。それが桜を支配したい、屈服させたいというどす黒い欲望から来ているにしても。

「補足ね。流石にエンディングまでは時間もあって難しいし、桜ちゃん、このゲーム初めてみたいなので、目標は一章のボスに到達するところまでにします。あと、お助け機能があって、一回ミス扱いでその時のミッションは俺が代わりにクリアします」

 実を言うと笠置自身も気づいていないが、この配信のルールには穴があった。このゲームはロボットを操作してミッションという依頼を達成することで物語が進んでいくが、一章の最後の敵が登場する依頼は最短で七つ目である。つまり桜は全ての依頼をお助け機能で笠置にやらせてしまえばそれで終わる。

 視聴者でこのゲームをやったことがあり、気づいたものはいたのだが、言ってしまうとこの配信はつまらなく終わってしまうし、彼らが見にきているのはゲームではなく、桜の痴態である。言って得することはない。それでもコメントでは数人が『あれ?全部お助けすればよくない?』などと発言していたが、嗜められたり、雑多な会話に紛れて消えてしまった。

 無論、桜がそれを知るべくもなかった。


 笠置が桜の背後に座り、桜の背中にくっついてきた。

「ああ、桜ちゃんってすげー良い匂いするよね。フェロモンっていうの?なんかムラムラしてくる匂い」

 笠置が桜の首元に鼻を寄せて、視聴者に聞かせるように大袈裟に吸った。

「むっちゃ可愛いよね、その服。オフショル、たまんないよね。へそも出てるし。ああ!触りてーけど、まだタッチ厳禁なんだよね!じゃあ桜ちゃん、ゲームスタート!」

 触ってませんと、両手を上げる笠置。しかし、顔はしっかりと桜の耳元に寄せている。性的な接触はなしだが、喋らないとは言っていない。

「あ、みんなも桜ちゃんにアドバイスあれば送ってあげてね。桜ちゃんは読んでる余裕ないかもだけど、俺が拾うからさ。俺がアドバイスするのは、うーん、ちょっとアンフェア?だしね」

 笠置は手元の台からコントローラーを持ち上げ、さっさとゲームを最初から始め、桜に手渡した。

「え、あ、れん、しゅう」

 桜は小声で抗議した。配信を気遣う自分が馬鹿らしかったが、そうしてしまった。

「あ、ごめん、押してるから無しで。さっき教えたし」

 笠置はあっさりと答えた。ゲーム画面ではオープニングが流れていた。笠置は桜を無視してゲームの説明を始めていた。

「桜ちゃん、ミッション始まってるよー」

 気づいたらもう始まっていた。桜は必死に先ほど教わった操作を思い出した。左のスティックで動く、丸のボタンで早く動く。バツのついたボタンで飛ぶ。

 画面上では操作するロボットがぎこちなく動き出した。画面が暗くて何をすれば良いかよくわからない。廃墟のような場所だった。

「桜ちゃん、コメントコメント」

「きゃっ」

 急に耳元で喋られて桜が小さく悲鳴を上げた。しかし、言われたことを理解して、配信画面のコメントを見ると、『とりあえず奥に進んで』『画面の真ん中あたりに四角いマーカー出てるから、それ目指して』とあった。画面を見ると確かに小さなマークと、脇に小さく数字が書かれていた。

「あの黒い四角のやつ、ですよね?」

 桜はコメントに従い、先に進もうとしたが、ほとんどゲームをしない桜にとってそのゲームはあまりにも操作が複雑だった。最初の目的地点に到達する前に1ミスしてしまった。

「はい1ミスでーす。あー、やっと桜ちゃんの身体に触れる」

 笠置の楽しそうな声が聞こえる。

 桜は気を取り直して、ゲームを再開した。始めたばかりよりは動かし方が分かった気がした。ゲームの指示に従い、目標地点に到達すると次の場面へと移った。

 画面が切り替わり、真っ白な雪原にたどり着く。前へ進もうとした時、笠置の指が桜の鎖骨を撫でた。

「ひっ」

 画面に集中していたせいでびくりとした。

「ん……」

 笠置の荒い息遣いを耳元で聞きながら、鎖骨や剥き出しの肩、腕を撫でられ、上着の襟を真横にそーっとなぞられる。

「や、ちょっ」

 桜は身を逃がそうとしながら、コントローラーを操作してロボットを前に進めた。

「あっ!」

 耳朶を舐められた。コントローラーを取り落としてしまう。慌てて拾う。

「あー、ほんと桜ちゃん可愛いし、肌触りすげーいい……。すげー滑らか」

 まだ際どいところは触られていないが、笠置の手と指が無遠慮に桜の身体を這い回った。剥き出しの太ももをさすられ、脇腹をくすぐられる。じんわりとした接触だが、こそばゆい刺激が微かに響いていく。

「あ……んん」

 桜はもどかしい触感に耐えながら、ミッションを進めようとしたが、広い崩壊した市街地を模したと思しき場所で目標を探してうろうろしている間に敵の攻撃を喰らって二ミス目をしてしまった。

「あっ……」

「ツーミスだね」

 桜の胸に笠置の片手が伸びた。もう片方の手は相変わらず太ももを撫で、片手でじっくり胸を責められた。

「んっ!あっ、あっ」

 服の上からとはいえ、桜は胸が――いや胸以外もだが、弱い。ぴりぴりと脳裡に快感が走り、頭と身体が熱を帯びていく。

 乳首を探し当てられ、引っかかれる。じわじわと増していく快感を堪えながら、桜は敵の攻撃に当たりながら、時折反撃をしながら、目標を探した。

「ん、頑張ってるね。ああ、すげー揉み心地いい。でもさ、そろそろ先進めないと、みんな飽きちゃうよ」

 そう言うとゆっくりと胸を弄んでいた動きを変え、両手で激しく揉みしだき始めた。

「あっ!あんっ、んぅ!」

 いきなり強くなった快感に背筋を反らして感じてしまう。それでもなんとか機体を動かし、満身創痍で最後の目標に到達する。

 ――これで最初は終わり?

 と思ったのも、束の間。桜の前に巨大なヘリコプターが現れた。


 ヘリコプターの攻撃の前に桜の操るロボットは、あっという間に破壊された。

「え、なに、これ……」

 それまでの敵の散発的な攻撃と違う、激しい攻撃に桜は呆然とした。

 コメント欄には『うわーでたー』『いやこれ倒すの無理でしょ…』『落ち着けば大丈夫だよ』と様々なコメントが並んだ。

「はーい、このゲームの最初の関門でーす!みんなもこれには苦しめられたよねえ。じゃあ桜ちゃん、頑張って」

 笑い声を殺しきれない、笠置の解説が入る。

 それから十分足らずのうち、桜はロボットに負けず劣らず無惨な姿になっていた。

「はあ、桜ちゃん、全然ダメじゃん。あーあ、ここももうぐちょぐちょだし」

 笠置の指が桜の大事なところ、その入り口を何度も行き来する。その度に桜の耳にはぴちゃぴちゃと湿った音がする。マイクに拾われてなければ良いなと思う。

「あっ、んっ……!あ、くちゅくちゅ、いやっ」

 オフショルダーの袖と襟は引き摺り下ろされ、その下のストラップレスのブラジャーも留め具を外され、服に引っかかっているだけだった。真っ白で形の良い乳房がむき出しになり、水色と白のエプロンチェックの服が胸の下を締め上げ、胸の形の良さを彩っていた。

 その胸が弄ばれこねくり回されるところはカメラに映っている。触られるたびに桜が喘ぐのを見て、視聴者はコメントと投げ銭を送って喜んでいた。

「んー、どうする桜ちゃん?このままだとここで終わっちゃうねぇ?」

 乳首を摘み、こりこりとしごきながら、耳を舐められた。

 こんな触られ方を桜は好きでない。性欲を解消するための物のように扱われるのは慣れているし、会社の先輩も揶揄うような性行為はしてくる。しかし、こうやって辱められることはない。桜を気持ち良くさせるためではなく、快感を引き摺り出されてその様子を嘲笑われる。悪意を持って苛まれるなら、ただ物として扱われる方が桜にとってましだった。何よりも、そんなことをされているのにしっかりと快感を覚え、疼く自分の身体が耐え難かった。

「あぁ……っん!」

 気をしっかりしないと、自分から求めてしまいそうだった。

 配信画面は依頼を再開するか、諦めるかを選ぶ画面のまま止まり、コメント欄でも先を促す声が増えていた。

「次は、七ミス目だね。パンツかぁ。パンツ脱げば、このヘリコプター、俺が倒してあげるけど、どうしよっか?」

 ――もういっそ降参、しちゃおうか。

 そんなことを桜は考えた。このままゲームを続けても今回のクリア、一章の最後の敵に辿り着くのは不可能だろう。どうせ最後までされるなら、さっさと降参して犯されてしまった方が早く終わる、そうも思ってしまう。

 『ぱーんつ』『みてー』そのコメントを見て、桜は心にひびが入るのを感じた。優しいメッセージも確かにたまにはあった。しかし、画面の向こう側にいるのは、桜がこうやって辱められて、責められ、感じるのを見たい人たちなのだ。

「……代わりに、倒してください。もう終わりにしたい、です」

 桜はそう懇願した。桜としてはゲーム自体、降参したつもりだった。もう世界中に向けて笠置に犯され、どうしようもなく感じてしまうあられも無い姿を配信されてもいい。早く終わって欲しかった。

「はーい!七ミス目いただきましたー!!いよいよご開帳です!」

 笠置は桜からコントローラーを取り上げた。

「え、あの、もうゲーム無理……」

 桜はゲーム自体の降参であると伝えようとしたが、笠置は首を振った。

「いやいや、桜ちゃん、まだ早いって。まだゲーム始めて三十分経ってないよ。もうちょっとさ、頑張ってよ」

 笠置はゲームを再開すると、桜と同じゲームをやっているとは思えない指の動きで、ヘリコプターを追い詰めていった。

「このゲームはねえ、こうやってやるんだよ。あ、あと桜ちゃん、俺今手が離せないからさ、パンツは自分で脱いでね?」

 桜は自分の裡に暗い気持ちがのしかかってくるのを感じた。

 なかなか動き出さない桜を、笠置が腰で押してきた。お尻に先ほどからずっと固いままの笠置の男性器の感触があった。桜の子宮がぎゅっと感じた。頭を振った。

 仕方なく、桜は腰を少し浮かせると、自らショーツを脱いだ。なるべく見せないよう、すっと足を抜くと丸めて、カメラに見えない位置に放った。

 ベッドに腰掛けると、配信画面の隅、それまでスカートの中を映していたカメラに、影の中に淡い茂りが見え、それはてらてらと煌めいていた。

「はい、撃破!」

 ヘリコプターを落とした、笠置が桜にコントローラーを手渡した。

 桜はそれを受け取れなかった。


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各短編の後日談の掌編をご覧いただけます! 短編自体は無償範囲ですが、掌編はご購入の方の特典となります。

桜物語の様々なシチュエーションえっち、コスプレえっちを描いた短編集です。 短編本編は無償で閲覧可能で、後日談の掌編部分が有償となります。 …

主に官能小説を書いています(今後SFも手を出したい)。 学生時代、ラノベ作法研究所の掲示板におり小説を書いていましたが、就職と共にやめていました。 それから20年あまり経ち、また書きたい欲が出てきたため、執筆活動を再開しました。 どなたかの心に刺さる作品となっていれば幸いです。