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エッセイ(2) 還暦になったわたしと、子どもだったわたし

子どもの頃から、早く大人になりたかった。
大人になれば、母の発作のような激怒と束縛に苦しめられることはない。
つまらない学校に行かなくて済む。
この家を出て自由に生きられる。

家にも学校にも居たくない小学生のわたしの放課後は、ひとりで、道草レベル以上に、近所をぶらぶら歩き回るのが常だった。
田んぼや川辺、いろんな家の庭、ちょっとした雑木林など、田舎ならではの風景を眺めながら歩いた。
疲れて眠くなると、よく、神社の床下で昼寝をした。

あー、どこか遠くに、知らない場所に行きたいなあ、といつも思っていた。

あれれ?
今とやっていることが同じじゃないか。
そして、子ども時代の夢を今、実現していることに氣がついた。

きっかけは、2020年1月(当時56歳)から始めた四国八十八ヶ所区切り打ち。
田舎道や山道を歩いていると、童心に帰る瞬間がある。
小学生のわたしが、ワクワクしながら歩いている氣分になるのだ。

ここまでの道のりは長かった!(当たり前だよ、60年だもん)
20代半ばで結婚し、40代までいろいろあった。
50代に突入した途端、更年期障害になり、数年後に軽度のリウマチを発症。
いつかは動けなくなるという不安が生まれた。
夫のウォーキングについて行ったら楽しかった。
幸い、投薬治療で痛みが出ないので、動ける今のうちに、行きたい場所へ行き、したいことをしようと決めた。
そして、前から行きたかった四国八十八ヶ所巡りに出発した。

早く大人になりたかったわたしは、今現在のわたしを見て、どう思うだろう。
子ども時代のわたしに伝えたい。

大人になったわたしに、誰も狂気の怒りを向けないよ。
束縛しようものなら、全力で抵抗するし、逃げるしね。
コンビニ勤めはなかなかおもしろく、通うのがイヤじゃないの。
夫と暮らす家はとても居心地がいいんだよ。
状況は変わるの。
今は苦しくても、ホッとできる時が来る。
あなたがしたかったことを、大人のわたしが楽しくやっているよ。
だから、心配しないでね。
今日を、今を、生きてね、感じてね。

還暦になったわたしの話を聞いて、子どもだったわたしは「うん、わかった。」と答えてくれるだろうか。
笑顔になってくれたらいいな。

ー2024.8.30ー


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