摂食障害

もう一つ、わたしが明らかに壊れた時。

社会人1年目、母と義父の家、そして地元を離れ、初めての一人暮らし。
料理はしていたけど、洗濯はたまにやるくらい、掃除はほとんどしてこず
その他の名もない家事もやったことがない。
地元は車が必須な社会だったけど、少し都会だから電車や自転車で移動。
見慣れない場所、文化も違う。
勿論仕事も初めて。全く知らない人と関係を築くのも初めて。

ただでさえ人間関係をこじらせていて、コミュニケーションがド下手くそで、依存的で、悲観的で、優しさや温かさを上手く受け取れず、返せもせず、それなのに勉強だけは出来る私が、生活も仕事も人間関係も、上手くやれるわけがなかった。

ままならないことだらけ、できないことだらけ、
わからないことだらけ、失敗だらけ。
案の定、SOSも出せない。
母の家には1~2カ月に1回の頻度くらいで帰っていたけど、
相談も何もできなかった。

そんな私が頼れたのは、唯一できる料理と、
唯一管理できそうな食欲だけだった。

最初は、「脂質カット!」とか、「食べなかったことに!」みたいな
サプリを飲みだすことだけ始めた。
徐々にサプリの量が増え、片手いっぱいくらい常飲するようになった。
そして脂質や糖質が敵になり、こんにゃくや海藻、おからなんかの
ほぼ0カロリーのもの「だけ」を食べるようになった。

全く頭が働かない、夜も寝付けやしない。
それでも朝が来て、仕事に行かなければならない。
専門職なので、それなりの責任のある仕事になり、それに応えられない、
実績も出せない自分がまた嫌になって、ダイエットは加速した。

身長は150cmなのだが、一時期は35kgくらいだった。
バストのカップも3カップくらい落ちた。
仕事の制服は最も小さいxsサイズで、それでも緩かった。
写真をほぼ撮らなかったので、薄っすらとした記憶だが、
体重は軽いくせに顔が浮腫んでパンパンだった。

おかしいって、自分ではわかっていた。
休みの日は何もできない。エネルギーがなさ過ぎて動けないのだ。
友達とご飯に行くが、めいっぱいサプリを飲まなければ安心できず、
飲んだとしても脂質やカロリーをずっと気にしていた。
会話すら、覚えていない。
出先のお店で貧血で倒れたこともあるのに、迷惑をかけたことに反省もせず
「だからほうれん草が食べたかったんだ、、!体ってすごい!」なんて、
本当にバカの極みみたいなことを考えていた。

ある日、摂食障害を克服した方のブログが目に入った。
「そうじゃないはず。」と否定したい気持ちとは裏腹に、
自分の異常さが怖かったから、読んでしまった。
「あ、わたし、異常かもしれない。」と思った。

そう思った後、母の家に帰省したときに、限界が訪れた。
誰もいなくなったその瞬間、食べることが止まらなくなった。
手当たり次第に目の前にあるお菓子や果物やパンを食べつくした。
頭では危険信号が鳴り響くのに、手と口は止まらない。
自分が化け物になったような気分だった。
そして、吐いた。
「わたしは、摂食障害だ。」

異常者、心が弱い人、おかしい人、他人を困らせる人、何もできない人、の烙印を押された気持ちになった。
異常だ、どうしよう、どうもできない、と、パニックになった。

一人暮らしの家に戻っても、居ても立っても居られず
母に助けてほしいと、母の家に帰らせてほしいと連絡した。

「えーーー、、、引っ越すのに家電とか20万円くらいかかったから、
もう少し頑張ってよ。」

わたしの苦しみは、たかが20万円ぽっちに負けたのだ。
たかが、初めての一人暮らしのために用意した家電に、負けたのだ。

心の奥底で、ぎりぎりに耐えていた底が、ぶちっと切れたような音がした。
私はまだ頑張ってないんだ、もっと頑張らなきゃいけないんだ。
自分が弱いから、負けてしまったんだ。そう思いこんでしまった。




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