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幻獣戦争 2章 2-4 英雄の役割②

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幻獣戦争 英雄の役割②

 黄泉を隣の救護テントで休ませ、すぐに仮設指揮所に戻り俺は戦況を確認する。モニターに更新されている戦域情報は、主力部隊優勢のまま。幻獣は美保神社一体の沿岸部から隠岐の島市街地まで一掃されつつあった。加えて、主力部隊と交戦していた幻獣は散発的に島の裏側へ後退する素振りを見せ始めている。それにしてもこれまでの戦闘では見たことがない行動をしている……おかしい。今までにない何かが起きるということか? 俺の考えがまとまるよりも早く、島の裏側に集中していた幻獣に動きをみせる――点在していた敵マーカーが一つのマーカーに集約されたのだ。

「――おい! 島の裏側の映像をこちらに回せ!」
 俺は傍に居た仮設指揮所付の通信士官に命じる。これは何かが起きている!

 士官はすぐに天照からの観測映像をモニターに表示する――嫌な予感はこれか……映像には、今までに見たことがない、中型より少し大きめの黒いオーガ型のような幻獣が映し出されていた……合体、いや統合というべきか? この行動はそれだったのだ。姿はオーガ型だが見た目が少し違う。等身大の斧に肩部はランチャーのような武装が付き、腕には小手のような大きさの隆起物が見られる。新種の幻獣と見て間違いない。

「――朱雀に繋いでくれ」
 俺は別の通信士官にそう命じる。士官はすぐに朱雀へ通信を繋いでくれた。
「陸将、どうかされましたか?」
 モニターに映された朱雀は状況が読めずそう問いかけてきた。
「タケミナカタの砲撃は可能か?」
「すいません。さっき砲撃したばっかりで装填中です」
 俺の問いに朱雀は申し訳なさそうに答える。

「そうか……すまなかった」
 俺はそう述べ通信を終えた。主力部隊に後退を進言するべきか? それとも面制圧か? しかし、幻獣は思案する時間をくれなかった。黒いオーガ型は高速で主力部隊へ向かって突撃。島の中央部、かつて大型幻獣が鎮座していたクレーター辺りから、飛び上がり市街地に向け光線を放つ。黒いオーガ型の口部から放射された光線は、扇状に市街地を焼き払う。結果、主力部隊の約3割が戦域図から消失した。

 俺を含む仮設指揮所に詰めていた通信士官の全員が――その映像を呆然と眺めていた。
「――直ぐに主力部隊司令部に撤退命令を出せ」
 俺は我に返り近くの通信士官に命じる。このままでは主力部隊が全滅する!
 通信士官はすぐに主力部隊司令部に連絡を取る。
 司令部はすぐに通信に応じて回線が開かれ東師団長がモニターに映し出された。

「おい、比良坂! あれはなんだ! 何が起きた!?」
 東師団長は驚嘆の声を上げ問いつめてくる。俺だって知りたいが、今はそれどころではない!
「詳しいことはわかりませんが敵の新種幻獣です。すぐに撤退してください。このままでは部隊が全滅します」
「わかった! しかし、あれはどうするんだ?」
 俺の言葉に少し冷静さを取り戻した東師団長はそう訊き返してきた。俺の腹は当に決まっている……佐渡島の二の舞はもうごめんだ。

「私が突撃して奴を倒します」
「お前一人でか? 止めろ! 無謀だぞ!」
 俺の決意に東師団長は咄嗟に声を荒らげる。誰だって光学兵器を目の当たりにしたらそう言うだろう。しかし、ここであいつを放置するわけにはいかない……俺は逃げるわけにはいかないんだ。

「佐渡島の二の舞はごめんですからね。責任は果たします。それでは――」
 俺はそう告げ通信を終えた。
「まさか一人で行くわけじゃないですよね?」
 やり取りを聞いていたのか、仮設指揮所に来ていた一樹がそう声をかけてきた。
「ああ――俺一人で行く。もう嫌なんでな、目の前で仲間が死んでいくのを見るのは」
「ダメですね。私も眺めているのはもう嫌ですからね」
 整然と告げる俺に一樹は肩をすくめ反論する。

「しかし――」
「しかしも案山子もありませんよ。ダメなのものはダメです。僕らは貴方の助けになるために再び集まったんですよ。自分から死に行こうとしないでください」
 一樹は俺の言葉を遮り告げる。
「一樹……」
 俺はそれ以上言葉が紡げなかった。

「それじゃあ、英雄らしく皆であいつを倒しましょうか」
 茶々をいれるように一樹の後ろからそう言って神代博士がやってきた。その横には、朱雀、真那、霞の3名が控えている。皆緊急事態を察して集まってきたのだろう。
「丁度5人です。特撮の戦隊みたいな感じで行きましょうよ」
「賛成だ。それに陸将一人で行っても取り巻きに袋叩きにされるだけじゃありませんか?」
 朱雀がふざけた調子で言うと、真那はもっともな疑問を口にする。

「お父さんが行くと言ってるんです。当然お母さんも一緒ですよ」
「その変な例え止めない? 何か空気が締まらないわ」
 霞の妙な例えに博士は眉をひそめツッコミをいれる。
「……皆、ありがとう」
 俺はそれ以外の言葉が見つからなかった。
「それじゃあ、機体の準備をしましょうか」
 話がまとまった事を確認して博士はこの場を閉めるように告げた。 

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く

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