幻獣戦争 2章 隠岐の島攻略作戦⑥
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幻獣戦争 2章 隠岐の島攻略作戦⑥
「――ならば、あいつにはそれが出来るというんですか?」
「……君は忘れているのかね? 彼は自らの責任を全うして佐渡島を奪還しただろう? 最後まで諦めず戦い抜き、たったひとりで満足に動かない戦略機に乗って帰ってきたではないか。これは君達にとって責任を取ったことにならないのかね?」
それでも不服そうに切り返す東師団長に、田代本部長は苛立ちを覚えつつも冷静に指摘する。あいつは多くの仲間を失いながら俺達の信任を勝ち取り、信頼に答え続けてきた……それはこの先も恐らく変わらない。あいつは仲間との約束、誓いを果たすためならおのが命すら躊躇わず捨てる……そう言う漢だ。だからこそ、俺達が支えるにふさわしい男とも言える。もっとも、そこまでしなければ幻獣に勝てない事実の方が問題だろうが。
「……失礼しました!」
東師団長はようやくあいつの功績を思い出したのか、そこで初めて自分の非を認め謝罪する。
「よろしい。では――」
「待ってください。今回の攻略作戦で生き残った者の中には当然九州要塞への異動希望をだすもの出てくるでしょう。せめて隊員のわがままくらいは受理して頂けませんか?」
「わかった。雲井本部長の異論がなければ受理しよう」
食い下がる東師団長に本部長は大きく息を吐き、頷くと雲井本部長を見る。部隊編制改めてしなければならない側すれば迷惑な話だが、この際やむを得ないだろう。ここで否定して話が遅滞してしまうよりマシといったところか。
「わかった。希望者が出た場合はこちらでも許可しよう」
「では、話を進めさせて頂く。隠岐の島攻略に当たって、関西要塞には若狭湾に展開中の海上艦隊と付近の航空部隊を供出頂きたい」
空気を読んで同意する雲井本部長に続いて、俺は改めて切り出し雲井本部長に目を向ける。
「それでは少ないだろう。日本海側に展開中の艦隊をすべて攻略作戦に参加させる。それから、航空部隊に関しては当該空域の安全が確保され次第適時爆撃させる。さらに、陸上は戦略機混成機工即応旅団を供出する」
「こちらは四国に振り向けている戦力を再編し、全て隠岐の島攻略に差し向ける。文字通り総力戦だ」
予想していたのか軽く咳払いして雲井本部長が宣言すると、東師団長は肩をすくめ言う。
「一時的に四国側の防衛ラインに穴が開くが、それはこちらの残存師団でカバーする」
「我々第一戦闘師団は、まだ装備が揃っていないため全力出撃はできない。供出できる戦力は大きく見積もって大隊程度だ」
九州要塞側の回答として述べる本部長に続いて最後に俺はそう付け加えた。
「君達、第一戦闘師団は今回新兵装の稼働試験も兼ねていると聞いたが――揃うのか?」
「ああ。四国攻略作戦に向けた前段階のようなものだ。無論手は抜かない。現兵装の部隊も随伴させる」
「それでも大隊規模か……」
東師団長の質問に俺が即答すると、後の事を考えているのか東はそう呟く。
「そうだ。四国攻略に全戦力を振り向けるためそれが限界だ」
「そうだな……それが妥当だな。期待しているぞ」
俺が敢えて念を押すように告げると、東師団長は頭である程度攻略の算段を思案しているのか、満足げに頷き笑みを浮かべる。そんなに自分達の功績を大きくしたいか……彼の元で戦う隊員が不憫に思えてくるな。
「それから、九州要塞としては北九州に展開している海上艦隊及び飛行大隊を援護に回す。申し訳ないが、他の部隊は九州近海の防衛に全力を注ぐ」。
「わかりました。こちらは殆どが陸上部隊です。関西要塞の方々に隠岐の島まで運んで頂きます」
まとめる様に言う本部長に続いて東師団長はそう述べ雲井本部長に目を向ける。
「任せてくれ。だが、肝心の侵攻ルートはどうする?」
「そうですね。作戦の第一段階として、隠岐の島に隣接する中ノ島、西ノ島群に防衛拠点を気づき、敵幻獣の目をこちらに向け、隙が生まれ次第本隊が隠岐の島へ直接橋頭保を確保、攻略する。これがセオリーかと提案します」
雲井本部長の問いに俺はモニター上に隠岐の島周辺の地図を映し提案する。詳細な戦略はあいつに任せるので、この場はこの程度の提案で十分だ。
「ふむ。その陽動を中ノ島、西ノ島群に展開する残存部隊と君達第一戦闘師団で行うわけか」
「そうです。作戦の第一段階は中ノ島、西ノ島群から火力を隠岐の島沿岸に集中させ、限界まで敵の注意を惹きます」
概要を確認するように呟く雲井部長に頷き俺はさらに詳細に語る。
「わかったが……もつのか?」
「比良坂陸将が本隊上陸まで持たせます」
モニターに映る地図に目を向けたまま問う東師団長に俺はそう断言する。
「よろしい。ならばそちらに注意が向いた後、こちらも隠岐の島正面から面制圧を実施。部隊を上陸させ敵主力、指揮官タイプ幻獣を速やかに撃破する」「なお詳細な作戦計画は、後程比良坂陸将と検討したのち提出させて頂きます」
「わかった。作戦決行日はいつにする?」
俺達のやりとりに特に意見がなかったのか、雲井本部長は本部長を見て問う。
「4週間後の2023年11月1日でどうかね?」
「――なるほど。神帰月か。なら作戦名は神来(かんらい)にしよう」
本部長の言葉に触発されたのか雲井本部長はそう提案してきた。精霊の力に肖る(あやか)か……悪くない名称だな。
「了解。では各方面との調整に移ります」
「こちらも次のブリーフィング時にまた会おう」
特に意義が無かった東師団長はそう頷き通信を終えると、続いて雲井本部長もそう告げ通信を終えた。
「一時はどうなるかと思ったよ」
「まあ、まとまっただけマシでしょう」
会議が終わりため息交じりにボヤく本部長に俺は肩をすくめ同意する。これでもまだマシな方だ。大体の場合、誰が主導権を握るから終始もめるからな……戦う隊員の命よりも自分の昇進が大事な奴らばかりで辟易する。
「そうだな。しかし、作戦計画書は間に合うかね?」
「間に合わせます。が、天照による偵察が必要です」
本部長の疑問に俺はそう答える。まあ、計画を立てるのはあいつの仕事だから、断言するのは少しひけるが、必要な情報収集を実施できる段取りは既に手配済みだ。
「何がいるか。か……あれがいたらどうする?」
「それを確認するための偵察です」
俺はあくまでそう答えた。大型幻獣……その強力無比な存在が居た場合の対案を出せる人間がここには居ない。
「そうだな、後は比良坂君に任せよう……急いでくれよ?」
「了解」
微笑む本部長に俺は立礼を返した。
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次回に続く
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