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幻獣戦争 1章 1-2 不在の代償⑩

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序章 1章 1-2 不在の代償⑩

「だから、関西と関東を楯にするわけか」
「今まで散々英雄を酷使してボロボロにしてくれましたからね。今度は我々の番です」
 察する本部長に俺は静かに宣言する。馬鹿共が政治的野心や私心を優先した結果が今のあいつだ。俺はあいつとはまだ付き合いはそれほどではないが、あいつの活躍はいつも耳に入ってきていた。あいつの活躍を聞くたびに何故か嬉しく勇気づけられる自分が居た。裏舞台で何が起きていたかを知っているからこそ俺は奴らを許さない。

「――それについては、私も罰を受けるべきなのだろうな」
「それをあいつは望んでいません。だから、私は貴方だけは許します」
「代わりに苦労しろという事か――はっはっは」
 俺の真意を理解してか本部長はそう言って軽く笑う。
「ええ。大変でしょうがよろしくお願いします」
「任せてくれたまえ。余計な横やりが入らないよう根回しはしておこう。が、君も無理は程ほどにな」
 頭を下げる俺に本部長は軽く応じる。

「――お心遣い、感謝します」
「はっはっは。しかし、準備する方は大変だな」
「ええ。まったく」
 本当は佐渡島の前にこのくらいの事はしてやりたかった。だが、彼女達は最後まで首を縦に振らなかった。それが当時の俺の限界だった。俺の相槌に本部長は話に一区切りついたと感じ、懐からフルベントシェイプを取り出す。

「ところでメタンハイドレートは確か海中にあるのだろう? 採掘は大丈夫なのかね?」
 そう質問しながら、本部長はシェイプに煙草をいれに火をつけ軽く吸う。
「現在のところ九州近海に限定していますが、これといった妨害もなく採掘できています」
「ふむ、採掘量の方は?」
 本部長は煙草を吸いながらさらに質問する。
「輸出してもおつりが返ってくる程度の貯蔵量だと聴いています」
「なら、当面はそちらより封魔鉄か……鉄鉱石は十分かね?」
 俺がそう答えると煙草を吸いながら、思案する素振りを見せ本部長はさらに訊いてきた。

「そちらも海底採掘の際に採取できていますので、当面は問題ないと思われます」
「よろしい。しかし、メタンハイドレート、精霊の死骸か……ひょっとすれば我々は太古の昔から守られていたのかもしれんなあ」
 俺が問題ないと答えると、本部長はロマンを求めるように呟き煙草を吸う。
「八百万の神々、精霊達にですか……」
「そう、でなければこんな非常識な戦争が起きるわけがない」
 俺が思案して言葉を漏らすと、長年思っていたのか本部長はそう言った。

「幻獣、我々の敵は一体何なのでしょうな」
「うむ。本当にたった一人の男が祈っただけで、あんな化け物どもが出現するとはにわかに信じられない」
 俺は何処か遠くを見るように応じる。お互いに答えを持ち合わせていないのだ。本部長はわかっている事実を確認するように感嘆と述べる。
「ですが、事実侵略された地域には青十字の旗が確認されています」
「そう。だが、それも答えのひとかけらに過ぎないのかもしれない」
 わかっている。と、本部長は煙草を吸う。

「もしかすれば、何者かがこうなるように予め世界を呪っていたのかもしれませんね」
「裏に控えている者が何者であれ、我々は倒さねばならない。後の世代に残さないようにな」
「その通りです。私も子供を戦場に送るようなことはしたくありません」
「私もだ――若本君、君に訊いておきたいことがある」
 煙草を吸いながら本部長は改めて俺を見て言う。

「はっ」
「人類は勝てると思うかね?」
 見つめ返す俺に本部長はまじまじと見て問うた。
「正直に言えば、わかりかねます。只、一つだけ言えることは私もあいつも諦めません」
「そうか。彼は返答に困っていたよ」
 真摯に答える俺に本部長は舞人を引き合いに出し満足げに言う。そりゃ誰だって困るだろう。

「あいつは真面目ですから、嘘をつくことはできない性分なんでしょう。真面目だからこけても立ち上がり、傷む体を引きずりながら戦い続けてしまった」
「その結果、ベッドから立ち上がることさえ難しくなる事態になってしまった……そこに気づいてやりたかった」
 本部長は後悔をにじませ煙草を吸った。
「気づいていれば助けていましたか?」
「当たり前だ。でなければ退官なんぞ承認しとらんよ」
 俺は敢えて試すように訊く。すると、馬鹿を言うなと、本部長は吸い終えた煙草とシェイプを片付けながら吐き捨てた。

「なるほど、やはりあなたも英雄のようだ」
「はっはっは。彼ほどではないよ……君もほどほどにな」
 本部長の言葉に俺は満足した。この人とならこれから先も大丈夫だろう。俺の苦労を知ってか、笑いながら本部長はそう労う。
「彼のこれまでの苦労に比べたら、私の忙しさは朝飯にすらなりませんよ」
「はっはっは。そうかね」
 茶化すように答える俺が頼もしく見えたのか本部長は笑い頷く。
 俺達の胸中には後悔がある。かつて、戦い続けた英雄を独りにしてしまった事。その事実があるからこそ互いに協力し合えるのかもしれない。今度は一人にしない……必ず支えると、それを証明するかのように。

次回に続く


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