臨界パワーモデル(2)

「高強度」の意味を念のため確認

 「高強度インターバルトレーニング」の「高強度」という用語について、補足説明をしておきたいと思います。英語の「高強度インターバルトレーニング」という言葉の使われ方は、陸上競技の長距離でやる「インターバルトレーニング」も包含した概念だと前回述べました。陸上長距離のインターバルトレーニングは高強度インターバルトレーニングと呼ばれている練習の一部かなと思ってます。

 再び「ダニエルズのランニング・フォーミュラ」に戻ります。この本のお陰で、長距離ランナーが自己ベストを元にしてインターバルトレーニングを含めた練習メニューを組む手法が提供されました。練習ペースを遅い方から順に「イージー」、「マラソン」、「スレッショルド(《乳酸》閾値)」、「インターバル」、「レペティション」の5種類に規定し、すべてのメニューをこの5ペースに落とし込んでいます。この書籍の第1版では「この5ペース以外はジャンク」と急進的なことを言っていたらしいですよ。

「レペティション」てどんなペース?

 5つのペースのうち最も速いのが「レペティション」であり、これは「インターバル」ペースより400mあたり6秒速くしたタイムを設定しています。

 そのインターバルペースは、15分半継続できる一定最高ペースの98%に設定しています。5,000mを13分20秒で走るようなエリートランナーならインターバルペースはトラック1周64.6秒の想定です。レペティションペースはそれより6秒速いので58.6秒となり、2,000mタイムトライアルくらいの速度です。

 5,000mを19分くらいで走る私のようなランナーを例にとると、15分半継続できる一定最高ペースはトラック1周90秒くらい、レペティションペースは6秒引いて同84秒となります。

「レペティション」より速かった

 「高強度インターバルトレーニング」として注目を集めた運動は、カナダのマクマスター大学のマーティン・ギバラ教授の場合は30秒全力6分休みの繰り返し、あるいは立命館大学の田畑泉教授が発見した20秒ほぼ全力10秒休みの繰り返しでした。ダニエルズのレペティションよりもかなり強度の高い、速いペースです。だからこその「高強度」なんだと私は理解していました。

 ダニエルズの指南書には出てこないような速度でのインターバルは、持久力を上げる目的ではなく、短中距離走的により速く走るための脚の速筋に刺激を集中させた筋力トレーニング、あるいはフォームを整えるトレーニング、あるいはランニングエコノミーを改善するトレーニングだととらえられていたのではないでしょうか。しかしそれだけではなかったのです。

「スピード練習」にとどまらない

 2012年のギバラ教授のレビュー論文は、ダニエルズのレペティションを超えるような高速(高強度)のインターバルトレーニングが、全身持久力の向上に効くということを証拠をそろえて宣言しました。単なるスピード強化練習ではなかったのです。高強度のトレーニングによる身体への刺激は、持久力の向上、つまりミトコンドリアの活性化につなげる体内での仕組みまでを提示したことが、パンチ力のみなもとです。

 では「高強度」はどこを境に高低分けているのかが気になります。そこで再び登場するのが前回紹介した「Science and Application of High-Intensity Interval Training: Solutions to the Programming Puzzle」です。この指南書の定義でいうと、疾走部の速度が臨界パワー(スピード)より上と定義しています。というわけで臨界パワーって何?となります。

 あれこれ説明する間にまたもや「臨界パワー」の中身に入れませんでした。次回こそはそろそろ入りたいところです。

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