西嶌 徹

市民ランナー

西嶌 徹

市民ランナー

最近の記事

臨界パワーモデル(13)

 新谷仁美選手のハーフマラソン日本新記録に向けた練習の分析をやりながら、それが遅々として進まなくなったところに東京オリンピック2020が始まりました。ちょっとこちらの分析に寄り道します。またいつもの予備知識から。  「臨界パワー(critical power)」とは、運動において無限に保てる理論上の最大パワーです。ランニングはパワーと走速度が比例しているので、「臨界速度(critical speed=CS)」に置き換わります。CSより下のペースであれば、理論上は永久に走り続

    • 臨界パワーモデル(11)

       「臨界パワー(critical power)」とは、運動において無限に保てる理論上の最大パワーです。ランニングはパワーと走速度が比例しているので、臨界パワーは「臨界速度(critical speed=CS)」に置き換えられます。CSより下のペースであれば、理論上は永久に走り続けられます。  CSを超えると、酸素摂取量、血中乳酸濃度、クレアチンリン酸濃度などは上昇・下降を続け、限界値に到達して疲労困憊に至り、速度を保てなくなります。一方でCS以下では、これらの値は変動しつつ

      • 臨界パワーモデル(10)

         「臨界パワー(critical power)」とは、運動において無限に保てる理論上の最大パワーです。ランニングはパワーと走速度が比例しているので、「臨界速度(critical speed=CS)」に置き換えられます。CSより下のペースであれば、理論上は永久に走り続けられます。  CSより遅い場合、血中乳酸濃度や酸素摂取量など最初は上昇しつつも一定の値に落ち着き、定常状態になります。ところがCSを超えると、それらの値は上がり続け、疲労困憊に至って速度を保てなくなります。CS

        • 臨界パワーモデル(9)

           「臨界パワー(critical power)」とは、運動において無限に保てる理論上の最大パワーです。ランニングはパワーと走速度が比例しているので、「臨界速度(critical speed=CS)」に置き換えられます。CSより下のペースであれば、理論上は永久に走り続けられます。  CSより遅い場合、血中乳酸濃度や酸素摂取量など最初は上昇しつつも一定の値に落ち着き、定常状態のまま走り続けられます。一方、CSを超えると、それらの値は上がり続け、疲労困憊に至って速度を保てなくなり

        臨界パワーモデル(13)

          臨界パワーモデル(8)

           臨界パワーモデルのおさらいから。  「臨界パワー(critical power)」とは、運動において無限に保てる理論上の最大パワーです。ランニングはパワーと走速度が比例しているので、「臨界速度(critical speed=CS)」に置き換えられます。CSより下のペースであれば、理論上は永久に走り続けられます。実際には永久は無理で、筋肉の疲労やエネルギーの枯渇により止まらざるを得ず、現実的にはだいたい1時間が相場だそうです。  これまでの回で述べた通り、CSより遅い場合

          臨界パワーモデル(8)

          臨界パワーモデル(7)

          臨界パワーモデルのおさらい 「臨界パワー(critical power)」とは、運動において無限に保てる理論上の最大パワーです。ランニングはパワーと走速度が比例しているので、「臨界速度(critical speed=CS)」に置き換えられます。CSより下のペースであれば、理論上は永久に走り続けられます。  これまでの回で述べた通り、CSより遅い場合、血中乳酸濃度や酸素摂取量などは最初変化しつつも一定の値に落ち着き、定常状態のまま走り続けられます。一方、CSを超えると、それら

          臨界パワーモデル(7)

          臨界パワーモデル(6)

          臨界パワーモデルって何だっけ 臨界パワーモデルは、2分から20分の間のいずれか2点の維持可能な最大パワーが判明すれば、何分でも継続可能なパワーの上限値「臨界パワー」を割り出せるという考え方です。パワーは、ランニングにおいては走速度とほぼ比例するので「臨界速度(クリティカル・スピード:CS)」と言い換えられます。臨界速度は、最大乳酸安定状態 = MLSS(maximum lactate steady state)の時のスピードとされています。  CSあるいはMLSSは、最大酸

          臨界パワーモデル(6)

          臨界パワーモデル(5)

           臨界パワーモデルの本質に迫るため、先週の内容を受け、日本人選手のマラソン歴代上位者の記録を分析してみました。先日の東京マラソンの内容が反映されていないのが残念なところでしょうか。それはこんどやろうと思います。 日本の男子マラソン歴代上位選手を分析してみる  結果は上の表のとおりです。「臨界スピード」というのがこの表のミソでして、それぞれの選手の1,500mから10,000mの自己ベスト記録を元に計算したものです。 そもそも臨界スピードとは 臨界スピードの意味は、前回ま

          臨界パワーモデル(5)

          臨界パワーモデル(4)

           前回は陸上競技の男子日本記録を例に、臨界パワーモデルを適用して分析しました。臨界パワーモデルとは、パワーが一定の運動を継続できる時間は、反比例に似た分数関数にぴったり乗りますよという考え方です。ランニングはパワー(仕事率)が走速度に比例しているので、スピード一定の走りを継続できる時間は、分数関数にぴったり乗りますよ、ということです。 臨界パワーモデルは当たり前のことを示している これは一部当たり前の話であって、つまり一定速度で走る場合、スピードを上げれば、その分だけ維持で

          臨界パワーモデル(4)

          臨界パワーモデル(3)

          臨界パワーモデルを一言で表すと 2回ほど前置きが続いたので、今回は本題に入りたいと思います。臨界パワーモデルというのは、パワーが一定の運動を継続できる時間は、反比例に似た分数関数にぴったり乗りますよという考え方です。これをランナー向けに意訳すると、ある距離でのベストタイムが分かれば、他の距離のも決まりますよという意味です。  パワーというのは物理学でいう「仕事率」のことで、一定時間内にエネルギーがどれだけ使われているかを示します。スポーツクラブでエアロバイクに乗るとワット(

          臨界パワーモデル(3)

          臨界パワーモデル(2)

          「高強度」の意味を念のため確認 「高強度インターバルトレーニング」の「高強度」という用語について、補足説明をしておきたいと思います。英語の「高強度インターバルトレーニング」という言葉の使われ方は、陸上競技の長距離でやる「インターバルトレーニング」も包含した概念だと前回述べました。陸上長距離のインターバルトレーニングは高強度インターバルトレーニングと呼ばれている練習の一部かなと思ってます。  再び「ダニエルズのランニング・フォーミュラ」に戻ります。この本のお陰で、長距離ランナ

          臨界パワーモデル(2)

          臨界パワーモデル(1)

           インターバルトレーニングを数値で管理 長距離ランニングにおいて、インターバルトレーニングは走力向上のために必須のアイテムとなっています。そのペースや回数を決めるのに、以前は明確な指標がありませんでした。それを解決したのが、アメリカ人ランニングコーチが出した書籍で、邦訳も出ている「ダニエルズのランニング・フォーミュラ」です。この書籍によって、個人の走力に応じてインターバルトレーニングをどのくらいのペース、持続時間、回数でやればよいかが明快に分かるようになりました。  この本

          臨界パワーモデル(1)