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人前で成果物をレビューするときに、あなたは主語を意識していますか?
こんにちは、うえんつ(@wentz_design)です。
SmartHRのプロダクトデザイン本部でマネージャーをしています。
今回は、私自身の振り返りも兼ねて、自分がデザイン組織の中でレビューやフィードバックを行う際に、ピープルマネジメントの観点で意識していることを言語化してみようと思います。
前提となる私個人の考え方として、ピープルマネジメントには様々な手法や理論がありますが、確実な正解や答えは存在しないという思想を持っています。なぜなら、人によって成長や成功の定義も、それに必要となる環境や手段も異なるはずだからです。
私なりにイメージするピープルマネジメントの熟達者とは、すなわち、一つの洗練された手法を一貫して行う人ではなく、多岐にわたる技術の引き出しを持っており、あらゆる手段を講じて人を成長・成功へ導ける人だと考えています。
これも私の引き出しのひとつ(プラクティス)として、参考にしてもらえればと思います。
人に何らかの指摘を伝えるとき、あなたは主語が「ヒト」か「コト」かを意識していますか?
私は、誰かと会話や議論をする場で、指摘する対象が「ヒト」なのか「コト」なのかを意識することが、「ピープルマネジメント」で最も重要な技術の1つだと考えています。そして、その場の関心の対象が「ヒト」になっている場合に細心の注意を払います。
たとえば、あなたが成果物レビューの場で、あるプロダクトの画面モックをFigmaで作成したものを共有したときに、テーブルの意匠がデザインシステムのガイドラインから逸脱したものだったとします。これを指摘される際に、以下の2通りの尋ね方をされたとします。あなたはそれぞれどのように回答するでしょうか?
A: 「このテーブルの意匠は、デザインシステムのガイドラインから逸脱しているように見受けられますが、どのような意図があるのでしょうか?」
B: 「このテーブルの意匠は、デザインシステムのガイドラインから逸脱しているように見受けられますが、それを認識されていますか?」
この微妙な表現の違いが伝わるでしょうか。ここに「ヒト」と「コト」の意識の差が出ていると私は思っています。そして、私はレビューの場で何かを指摘したりフィードバックする際の表現は「A」であるべきだと思っています。
解説すると、Aは「コト」について尋ねる指摘であり、Bは「ヒト」について尋ねる指摘になっているのです。見分け方は、質問に回答するときの主語が「ヒト」か「コト」かが見極めるカギになります。
Aの場合は、「あなたがそうした理由」を求められているように聞こえますので、「その意図は...」というようにコトを主語に答えると思います。この場合、レビューの対象は「コト」に向いている状態といえます。
Bの場合は、「そのようにした理由をあなたは認識・自覚できているか」を尋ねられているように聞こえます。おそらく「私は認識しています」または「私は認識できていませんでした」とヒトを主語に回答すると思います。つまり、レビューの対象は「ヒト」に向いている状態といえます。
では、なぜ「A」であるべきかを説明していきます。
パブリックな場所では、ヒトに対して特に批判的な理由で注目させるべきではない
パブリックな場で「ヒト」に対してフィードバックとして伝えると、そこに参加している人の視線はフィードバックを受けた「ヒト」がどのような回答をするかに関心が集まるため、視線も「ヒト」に集まります。逆に、「コト」に対して伝えた場合は、前述の例だとおそらく画面共有されているであろうFigmaの画面モックが注目されるはずです。
この、「視線や注目が自分に向かっている」と感じる状況は、当事者にとっては心理的に大変な負荷がかかっている状態なのです。原因は様々あるとされていますが、程度はあれどこうした状況に不安や緊張を感じる人は多いはずです。
わかりやすい例だと、衆目の前で登壇した時に緊張したり、グループワークで演劇を発表する時に恥ずかしかったりした経験があると思います。こうした場面ではヒトからヒトへ視線が集まるため顕著に負荷を感じやすいです。
オンラインミーティングでも同じで、Webカメラをオフにしたくなる心理があるとしたら、ここからきていると私は考えています。言い換えれば、相手にWebカメラをオンにしてほしいと思う心理は、ヒトに向けた発言に対してそのヒトがどう反応するかに注目したいから、なのだと思います。
過去に注目された状況下で失敗してしまった体験や経験によって心に傷を負い、注目を集めることと負の経験が結びついてしまっている方は、この心理が強化される傾向にあると思います。私自身にも心当たりがあります。
そして、組織で仕事をする上でこれが起きやすいのは、前述のレビューやフィードバックなどの場において、「コト」ではなく「ヒト」に向けた指摘をしてしまう時なのです。
前述の「B」の指摘の仕方だと、まるで自分の勉強不足を指摘されているように感じる方もいるのではないでしょうか。
ヒトの行動や態度に対して批判的と捉えられる指摘をパブリックな場で行うと、受けた人は注目と失敗が結びついた体験として記憶します。こうした状況が重なると、やがてパブリックな場で意見を求めることを恐れるようになったり、極端な場合はこうした場に参加することすら抵抗を覚えるようになると思います。
これが、典型的な「心理的安全性が低い状態」の1つだと私は考えています。
例外として、パブリックな場でもヒトの行動などに対して賞賛や感謝といったポジティブなことを伝えることはとても良いことと思いますが、注目を集めるために大袈裟に伝えたりする行為は、やはりストレスになることもありますので、やりすぎは禁物と思います。
そして、これは大事なことですが、レビューなどの場でこうした場面に気づいた時、この記事のことを思い出したとしても、反射的に「あなたのその指摘はヒトに向いていますよ」などと指摘してはなりません。それ自体がまさに危惧すべきパブリックな場でのヒトへのフィードバックなのですから。
ヒトへのフィードバックはクローズドな場で
とはいえ、組織の成功やその方自身の成長や成果につなげるために、行動変容をしてもらわなければならないケースも当然あると思います。そうした場合は、必ずクローズドな1on1ミーティングなどの場で本人にギャップ・フィードバックとして直接伝えるようにしています。
自分が直接の上長でない場合は、フィードバックしたい方の上長に間接的に伝えることもあります。
クローズドな1on1ミーティングの場は、当然視線や注目はひとつしかありませんので、注目による負荷は最小限にできます。しかし、たった1人でも注目されると緊張しますし、やはり負荷はゼロにはなりません。
オンラインの1on1ミーティングの場合、視線や注目をヒトに向けないための有効なテクニックがあります。それは、「議事録を画面共有すること」です。これは、オンライン会議ツールだからこそできる有効な手段の1つだと思います。
画面共有された議事録に映るのは、お互いに話したことを書き留めた文章になります。議事録を視線の向き先にすることで、注目をヒトから逸らすことができるのです。結果として、ヒトへの注目に対する負荷を減らす効果があると感じています。
オフラインの場合は、お互いの体が向かい合わないように座ることが有効です。座席の都合で対面になってしまう場合でも、ホワイトボードなどがあれば、お互いに視線が同じ場所に向かいできますので、同様の効果があると感じています。
副次的に、発言を議事録に書き込むことで、指摘する際も議事録を指して「この発言は..」というように、文章にある「コト」を主語にすることでヒトへの直接の指摘を避けられるため、より事実情報や俯瞰的な視点からフィードバックを伝えやすくなる効果もあります。
加えて、自分が思っていることを間接的に認知するジャーナリングの効果もあり、自分を知るメタ認知の観点からもコトに集中して整理しながら会話を展開できる点でも便利だと思っています。
まとめ
長々と書きましたが、まとめると以下3行になります。
レビュー会などのパブリックな場では「ヒト」に対してフィードバックすることを避ける
「ヒト」に対してフィードバックが必要なときはクローズドな1on1の場で伝える
1on1ミーティングなどで「ヒト」から「コト」に関心を向けるには議事録の画面共有がおすすめ
繰り返しになりますが、私はこれが正解とか、こうでなければならないなどとは思っていません。あくまで私の経験則から導いたプラクティスなので、もし機会があれば試してもらったりして、うまくいった・うまくいかなかったなど気づいたことをぜひ発信してほしいと思います。
おまけで、私がメンターとして1on1ミーティングをするときの代表的な会話の流れのひとつを共有します。これも何かの参考になればと思います。
## 念仏
1on1は〇〇さんのための時間です。〇〇さんが話したいことをテーマにしましょう。
私は、1on1を通じて〇〇さんのモチベーションや成長スピードを高めたいので、2人の協働で考えていきましょう。
## アイスブレイク
- 基本的にはメンターから話題を振る(相手から話し始めたらそちらを優先)
- 話題に困ったら
- 最近食べて美味しかったものを聞く
- timesなどで話題にされていたことについて聞いてみる、など
- 関係値によりけりで、マインドシェアの共有から始めることもある
## マインドシェアの共有
- 現在脳内のリソースを食っている関心・課題などを話してもらう
- 仕事のこと
- 言語化できていないモヤモヤしていることなど
- (本人が話したければ)プライベートのこと
## 前回の1on1からの差分の共有
- やったこと、わかったことなどを話してもらう
- 省略することもある
## 今日話したいこと
- 事前に本人が話したいことがあれば書いておいてもらう
- メンターから伝えたいことがあれば一番最後に話す
採用情報
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