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「さしすせそ」の「せ」

☆せうゆ(しょうゆ)のはなし☆

日本人にとって特別な調味料であるお醤油。一年365日、お醤油を口にしない日はおそらく一日もないでしょう。そんな私たち日本人ですが、一年間でいったいどれくらいの量のお醤油を食べているのでしょうか。

なんと、一人当たり約8.8リットル!一升瓶に換算すると約5本分ですから驚きです。(せんべいなどの加工品に使われる醤油も含む)現在国内だけで大きく分けると5種類のお醤油が製造されています。

この中でも85%を占めるのが「濃口醤油」です。濃口醤油は全国的に広く使われていますが、このほかにも土地ごとに浸透した、豊かなお醤油文化があります。濃口醤油の次に多く消費されるのが「うすくち醤油」で、関西地方で特に好まれています。うすくち醤油は、原料の小麦の炒り具合の調整など、様々な工夫によって色が濃くならないように作られたお醤油で、だしとの相性が良く素材の色合いや風味を生かす料理には欠かせません。

中部地方では、お醤油の原型に最も近い、とろりと濃厚な「たまり醤油」が嗜好されています。山陰から九州にかけては、濃厚で甘味の強い「再仕込み醤油」(甘露醤油とも呼ばれる)が食卓にのぼります。愛知県を中心に生産される「白醤油」は小麦を主原料として作られます。強い甘味が特長で、懐石料理などの上品な味わいを求めるお料理やお漬物などに使われるお醤油で、ただいま人気急上昇中です。
 
お醤油はどのようにして作られるのでしょうか。濃口醤油を例に、順を追ってお話ししていきましょう。昔から、お醤油作りの工程のかなめを表す言葉で、「一麹、二櫂、三火入れ」と言われるものがあります。

一番に「麹」蒸し煮した大豆と炒った小麦を混ぜて醤油麹を作り、塩水に仕込んでもろみにします。

二番目に「櫂」櫂とはもろみを入れた桶を混ぜる棒のことです。熟達した職人の厳しい目でタイミングを見極め、時々かき混ぜて発酵・熟成を促します。さまざまな微生物が、長い月日の中で互いに影響しあい、絶妙に働くための大変手間のかかる工程です。
その結果、小麦は糖分に変化して甘味となり、大豆のたんぱく質はアミノ酸などの旨味成分となっていきます。この二つがしっかりと結びついて、お醤油独特の色や味が作られていきます。

そして最後が三番目の「火入れ」。これまでの工程を経て充分に熟成させたもろみを搾り、加熱します。火を通すことによって、香りと色は一層強くなり、美味しさも増します。こうして完成したお醤油には、じっくりと時間と手間をかけてこそ生まれる、複雑で調和のとれた味と香りがあります。
 
これに対し、大量生産のお醤油とはどのようなものでしょうか。一昔前に比べると添加物が使われた劣悪なものは減ってきましたが、熟成・発酵を人工的に速めることは広く行われています。この方法は、微生物に無理やり仕事をせかすようなもの。科学的に計算された味や香りは作り出せても、自然の力による微妙な旨味をどれくらい生み出せるかは疑問です。結果として、香りが弱かったり味のバランスが悪かったりするお醤油になるわけです。
 
良いお醤油、悪いお醤油を見分ける簡単な方法がありますのでご紹介しましょう。お醤油をお湯で7倍ほどに希釈して口に含みます。人工的に発酵させたお醤油は、極端な渋味や塩辛さが口の中に残ります。これに対して、自然の力でじっくりと発酵・熟成させたお醤油は、舌全体にまろやかさが広がり、後味の良いすっきりとした旨味があります。

お醤油は長い歴史の中で洗練され、それぞれの土地の文化に育まれて発達し、今に至っています。あ我が家の食卓と相性の良いお醤油、自然の力が作り出す身体に優しいお醤油を選んで、その豊かな食文化を楽しみたいですね。

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