「健康経営」を改めて理解しよう|これで語れる健康経営(1)
6月になりました。新年度の慌ただしさを乗り越え、ようやく体調が整うかと思ったら、高温多湿の過酷な環境。熱中症から大雨災害対策まで、気の抜けない季節がやってきます。
いざというときにも落ち着いて対処し、強くしなやかに動くためには、日頃からの備えが大切です。失いかけたときはじめて重要性に気づくのは健康も同じ。いまのうちに改めて、基本を理解しておきましょう。
6月は、企業における戦略的な健康管理である「健康経営®」をおさらいします。次の内容でシリーズにしてお届けする予定です。
健康経営とは ←本日の記事
健康経営の歴史を学ぶ
健康経営でやるべきこと
健康経営事例集
すでに健康経営を推進しているみなさんは、基本の再確認やアップデートに、これから健康経営を検討されているみなさんは、全体像の把握や取組みのヒントに、それぞれご活用ください。
健康経営とは
まず、健康経営の定義のおさらいから始めましょう。健康経営は、企業が進める健康管理の取組みです。経済産業省では、次のように記載しています。
この説明を分解していくと、健康経営には次のような特徴があることがわかります。
健康管理を経営の視点でとらえる
従業員の健康管理を戦略的に実践する
経営理念に基づく健康管理を行う
健康を投資と考える
健康管理によって企業価値の向上など好循環をつくる
企業が行う健康管理は現在、従業員の人事コストの範囲を超えた経営戦略の重要な柱となっています。
投資家(を通じた社会全般)、経営者、従業員が「三方良し」となる戦略、それが「健康経営」なのです。
「守り」の健康管理から「攻め」の健康経営へ
健康経営を具体的に進めていく施策は、従業員の健康管理です。そう書くと、健康経営=健康管理のように見えますが、両者は異なります。
単なる健康管理と健康経営の違いは、従業員の健康を「コスト」とみるか「投資」とみるかです。
従来の健康管理は、従業員の安全と心身の衛生を確保する職場環境をつくるものでした。固定費に上乗せされるコストとして効率的な管理が求められ、従業員の個人的問題とする「守りの姿勢」が目立ちました。
これに対し、健康経営は、従業員を企業経営に不可欠な資源、人的資本としてとらえます。従業員の健康が、企業経営の戦略の中で投資として扱われる「攻めの姿勢」に変わったのです。
健康経営が求められている社会的背景
健康問題が経営戦略の重要な柱となった背景をみておきましょう。
大きくは、少子高齢化に伴う生産年齢人口の大幅な減少という社会的事情があります。
上の図の推計グラフをみると、高齢者(65歳以上)の割合は40%近くへと上がる一方なのに、それを支える生産年齢人口(15~64歳)の割合は1%台と大きく減少しています。
この傾向は急激に変わることはありません。このため、高齢者を定義する年齢を75歳以上に引き上げて、高齢化率と支える割合のバランスを現実的なものにしていく必要があるとされています。
つまり、これからの社会は、少しでも長いあいだ働いて、社会を支える側に回っていかなければ立ち行かなくなるかもしれないというわけです。
どんな人でも長く働けるようになるには、一人ひとりが心身ともに健やかに暮らせる環境が不可欠です。
不確実な時代、企業の生き残り戦略としても
通信ネットワークの技術や、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットの技術革新(第4次産業革命)により、モノの獲得が飽和し、コトの消費へと変わりつつあります。
感染症の世界的拡大も拍車をかけました。これまであたりまえとされていた知識やノウハウが、しばらくすると非常識とされてしまいます。単純には見通しが立たない不確実な世の中(VUCA)になっているのです。
さまざまな価値観が早いサイクルで世界に広がる現在、働くことの意味も、働き方も多様化しました。せっかく確保した貴重な人材が、体調がすぐれないからという理由でパフォーマンスを下げてしまうのは、大きなリスクになるでしょう。
病気に至らずとも「働くのがつらい」「自分には合わない」などとモチベーションを下げた状態は、通信ネットワークや個人デバイス(スマートフォンなど)が浸透した現在、企業イメージにも大きな影響を与えてしまいます。
経営視点での健康管理は、このように、現代を乗り切る生き残り戦略のひとつとしても、積極的に取り入れていく必要があるのです。
健康経営で取り組む「三方良し」の健康管理
では、積極的に健康経営を企業戦略に取り込むとどんなメリットがあるのでしょうか。
投資家目線、経営者目線、従業員目線の3つの方向からみていきましょう。
投資家の視点で考えた場合、健康経営で大きなメリットとされるのは、企業イメージの向上です。
投資家からすると、これからますます注目されるであろう「ESG」の「S」に対する姿勢がわかります。
経営者が積極的に人的資本の充実を図っているかを測る指標があります。
「健康経営度調査」です。経済産業省が主軸となって取組みを進めており、健康経営の可視化を図っています。優秀な取組みは「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」といった形で公表される顕彰制度もあります。
(詳しくは「3. 健康経営でやるべきこと」の記事で説明します)
経営者の視点で社内の運営を考えた場合、健康経営は、従業員の生産性(パフォーマンスやモチベーション)の向上、人材の確保・定着の向上、企業負担の医療費軽減、SNSなどによる企業評価など社会的認知の向上といった点がメリットとして挙げられます。
従業員の視点で考えてもメリットは大きいといえます。社内全体で健康管理と労務管理を一元的なしくみにすることにより、心身ともに健やかな働き方や社内のコミュニケーションなど、従業員の(家族も含めた)働く環境が改善されます。
健康が目指す理想のありかた-身体的・精神的・社会的に満たされた状態、Well-Being に近づいていくのです。
健康経営はこれからの企業に必須の視点
以上、健康経営とはなにかについて、簡単にみてきました。
次回は、健康経営がどのような経緯で浸透してきているか、歴史をふりかえりながら、その意図や影響をみていくことにしましょう。
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「これで語れる健康管理」シリーズ 目次
(1) 健康経営とは ←本日の記事
(2) 健康経営を歴史から学ぶ
(3) 押さえておきたい健康経営ワード15選
(4) 知っておきたい国内の取り組み事例
※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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