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高齢者の「ごはんを食べなくなった」その先の治療について

「おばあちゃんがご飯を食べなくなったんです」

食欲低下を訴えてご家族が病院の外来を受診する光景はどの病院でもあります。

外来を担当した医師は食事量や体重低下の程度、日常生活動作がどの程度かを見て判断しますが必要とあれば入院して患者さんが再び食べれるように
治療を開始します。

1.ごはんを食べなくなった原因検索

ごはんを食べなくなったのにはきっかけや原因があります。
入院したら点滴で栄養と水分補正のために点滴をしながら原因検索のため検査を開始します。

どんな検査があるでしょうか?
まずはあまり苦痛を伴わない検査から始めます。
入院時に必ずとる採血。
採血は身体の内部の今の状態が分かる大切な検査です。
肝臓の機能、腎臓の機能、血液自体の働き、そして栄養状態も知ることができます。

次に放射線を用いたレントゲンやCTで身体の内部を画像で見ていきます。
ここでは主に消化管に問題がないかをみていきます。
消化管に通過障害がないか、胃潰瘍や十二指腸潰瘍といった消化・吸収を阻害する病変がないか。
大腸に腸閉塞などの病変がないかもチェックしていきます。

放射線による画像診断
CTによる断面画像

検査は続きます。
画像診断や採血データで原因か特定できないと今度は侵襲的な検査へと進みます。

消化管にカメラを入れて直接目視する検査をしていきます。
胃カメラ・大腸ファシバーが代表的な検査です。

消化管カメラは侵襲的で患者さんの年齢や体力を考慮してご家族と相談してするかしないかを判断していきます。

他にも侵襲的な検査では放射線を使った造影検査があります。


検査している間にも患者さんはご飯を食べれないため点滴で栄養状態を整えながら食べなくなった原因を特定していきます。


2.点滴による栄養補正


検査をして原因の特定と患者さんの身体の状態が分かれば今度は栄養状態の改善のための治療が開始されます。

もともと食事が入らないため点滴で栄養と水分を点滴で補っていきます、

患者さんの体格にもより輸液量は変わりますが心臓に負担をかけないように24時間点滴をすることもあります。

またリハビリや日々の予定を考慮し日中だけ、夜間だけ点滴をする選択もすることもあります。

ほぼ毎日続く点滴は血管に負担をかける

毎日、24時間点滴をする事ということは血管に負担となり血管炎を引き起こしたり新たな感染源ともなるため病院にもよりますが3日に1回の点滴の差し替えがあったり漏れることだってあります。

その都度の点滴差し替えをしていきます。

通常は点滴といえば末梢(手や足)に点滴をしますが点滴を繰り返すと血管が固くなったり脆くなったりするため場合によっては中心静脈栄養といった専門の点滴をすることもあります。

中心静脈栄養は鎖骨や首や鼠径にある太い血管から針を挿入し心臓の近くまでカテーテルを通して高濃度の栄養を点滴として投与していきます。


3.経管栄養

点滴での栄養状態の改善が見込めない場合、管を胃まで入れて栄養剤を流し込む方法で栄養改善を行います。

初めは鼻腔(鼻の穴)から管を胃まで通す方法を試みます。

ここから毎食、栄養剤を入れていきます。
チューブは1か月に1回交換していきます。

経管栄養は点滴とは違い口腔・食道はスルーしますが胃や腸では消化をするので身体の役割を果たすことが出来ます。

しかし、直接消化管に栄養剤を送るため本人は食べているという認識はありません。
それなのに栄養状態は整うので経管栄養を開始するだけで何年も何十年も生きることができます。

4.終わりに


以上が高齢者が「食べれなくなった」と外来受診して入院した場合のおおまかな治療の流れです。
病院や施設によってはもっと細かいプロセスがあるかと思いますが私の知り得る流れになります。

たくさんの検査で原因を検索しますがほとんどの原因は老衰による消化管機能の低下であり根本的な治療をすることはありません。

栄養補正のための点滴・経管栄養をする事で命を繋ぎ止めているのが現状です。

その間に筋力や体力は低下していきベットに寝ている時間が増えていきいわゆる「寝たきり」となっていきます。

入院中は動くことも少なくご自宅に比べてバリアフリーでもありご飯も運ばれてきます。

この活動不耐(動く機会が減る)こそが「入院してから更に動けなくなった」といわれる所以となっていきます。

おそらく、多くの医療者は気づいていることでしょう。

だけど、それでもあらゆる角度から取り組むのは「患者さんを元気にしたい」
「もとの生活に戻してあげたい」

という想いがあるからだと私は感じています。

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