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#02 薬は「悪」ではなく、使いよう

10_心配事

~過去投稿はマガジンから~

昨今は「薬を使わないで病気を治す」というテーマの本が、たくさん書店に並んでいます。
ベストセラーの本もあったりと、薬の功罪は関心を集めやすいテーマなのでしょう。私自身も「むやみに薬は使わない」というスタンスではありますが、「薬を一切使わない」という考えに対しては警鐘を鳴らしたいと思います。

 薬は使うべき場合には使わなければいけません。

患者さんの症状を正しく診断して、正しく薬を使えば、適正に処置できるのですから。
私は入院施設を伴った大学病院に勤務していますから、クリニックよりは重い症状の患者さんが多くいらっしゃいます。
最近は、患者さんや家族が本を読むなどして勉強されている方も多く、時に「先生、絶対、薬を使わないでください」といわれることがあります。
それは、薬の副作用・慢性的な服用への危惧でしょう。今、そういう患者さんが結構いらっしゃるのです。
なかには「このような(重い)症状ですから、やはり薬を使わないと」というケースもあるのです。そのような場合は、患者さんと信頼関係を築
いて説得し、どうにか納得して薬を飲んでもらいます。

精神科の場合は、薬を用いると「自分が自分でなくなってしまう」という思い込みがあるのでしょうか……。

ですから薬を嫌がる患者さんには、メンタルヘルスにおいても、フィジカルのこととして「翻訳」して伝えるようにしています

たとえば、糖尿病を考えてみましょう。毎日お酒をいっぱい飲んで、豪勢な料理もたくさん食べ続けていると、糖尿病になります。
生活習慣の問題ですから、食事制限をして、今日から規律正しい人間になりましょう――。といわれても、すぐには難しいでしょう。

まずは血糖値を下げる薬を使って、少しずつ一緒にやっていきましょう。徐々に生活習慣を直していけば、やがて薬を使わなくても済むようになります。
その段階で薬を止めましょう――と、そのような例えを用いて、薬を飲んでもらうようにしています。

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※本コンテンツはCOCORO 8号をもとに再構成しています

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著者プロフィール

高橋 一志( たかはし ひとし)


1995年秋田大学医学部卒業。医学博士。
秋田大学医学部付属病院、横手興生病院、厚生連由利組合総合病院勤務を経て、米国エモリー大学医学部精神科留学。
2007年東京女子医科大学医学部神経精神科勤務。
東京女子医科大学医学部神経精神科・心身医療科講師、ウェルリンク株式会社顧問。
日本医師会認定産業医、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。
専門分野は、臨床精神薬理学、精神科治療学。学術論文を多数執筆。