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#04 患者さんとの密なコミュニケーション

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~過去投稿はマガジンから~

医師を長く続けていると、臨床経験が積み重なります。
かつては私自身、薬を飲んだ方が早く良くなるのではないかという考えのもと、比較的軽い症状でも薬を処方していた時期がありました。

実際に、副作用が目立ってあまり治療効果があがらなかったという経験もしています。

「じゃ、お薬止めてみましょう」と提案してからの方が、調子がいい、体もだるくない、吐き気も少なくなった――といったように、「押しの一手」ではダメで「引いたら」良くなったという症例は数多くあります。

やはり薬は慎重に使っていかなければならないと、改めて考えさせられました。

ただし、薬を安易に用いないということは、患者さんとの密なコミュニケーションが必要になります。

誤解を恐れずに申しますと、その分手間暇がかかるものなのです。

薬を用いずに環境調整を行っていくということは、「どういう場面で調子を崩すのか」「ストレスの要因となっているものは何か」「その他の要因はないか」と、細かく患者さんと現状を探っていかなければなりません

しかし、医師は忙しいですし、精神科のクリニックでは数多くの患者さんを診なければ経営面で安定しないという実情もあるでしょう。

つい忙しくて、診察の時間が短くなってしまうと、どうしても「まずは薬を使ってみましょう」、効果が薄いと「別の薬を使ってみましょう」となりがちです。
そのほうが患者さんも、先生と長く話はできなかったにせよ、「しっかり対応してくれている」「何か別の方法を試してくれている」と感じてしまうものです。

そういう両者の関係で、下手をすると薬に依存してしまったり、過剰投与ということにもつながりかねません

そもそも精神科の病気の発症というのは、「その人らしさを失う」ということです。

その人がどのようなタイプの人間で、どのような人生を送ってこられたのか。
もともと物静かな人が「溌剌としていない。元気がないように見える」といっても、それは病気ではないでしょう。

たとえば会社で5年勤めていて精神疾患になったというのであれば、その5年間はどんな仕事ができて、どれくらいのパフォーマンスを発揮できていたのか。
 
病気になる前がどうだったのかということをよくイメージして、現状と過去が大きく乖離している場合は、なるべく積極的な介入をしてあげようと思います。

あまりギャップがないような場合は、その人の「応援団」として、1か月に1回会って声をかけたり励ましたりしてアドバイスをしたりと、個人個人で変化を持たせるように対応しています。

「その人らしさを失う」ということは、裏を返せば、精神科の医師というのは、患者さんを以前の状態(病になる前)に戻してあげたいと願っているということです。

その人を元気な状態に戻してあげるということは、ご本人のみならず家族や会社、ひいては社会を元気にすることです。

また、精神科は他の診療科と違って、年配の患者さんが中心というわけでもありません。

若者と壮年期のオペレーションが多いというのは、精神科の特徴です。将来のある若い方々、一家の大黒柱のような働き盛りの方々が、たくさんいらっしゃるのです。本当であれば働けるのに働けなくなってしまうといった社会的損失を防ぐという意味で、精神科は医師としてやりがいのある診療科です。

医師が介入することによって、患者さんが明るくしゃべれるようになったり、いきいきしたりと、リカバリーを実感できるのは、医師としても嬉しいことです。

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※本コンテンツはCOCORO 8号をもとに再構成しています

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著者プロフィール

高橋 一志( たかはし ひとし)

1995年秋田大学医学部卒業。医学博士。
秋田大学医学部付属病院、横手興生病院、厚生連由利組合総合病院勤務を経て、米国エモリー大学医学部精神科留学。
2007年東京女子医科大学医学部神経精神科勤務。
東京女子医科大学医学部神経精神科・心身医療科講師、ウェルリンク株式会社顧問。
日本医師会認定産業医、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。
専門分野は、臨床精神薬理学、精神科治療学。学術論文を多数執筆。