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#05 これからのメンタルヘルス

12_家族関係

~過去投稿はマガジンから~


日本では1998年以降、14年連続して自殺者数が3万人を上回っていましたが、今では2万人を少し上回るくらいまでに減少してきています。

その傾向を見ると、社会全体としては、薄明りが見えてきている状況ではないでしょうか。リーマンショック後の厳しい経済状況を経て、今では全体的には少し余裕が出てきたと感じています。もう少し経済的な安定が図られれば、自殺者数はもっと減っていく可能性があります

そして、企業のほうでもストレスチェック制度が導入されるなどして、メンタルヘルスへの関心は高まっています。

メンタル不調を軽症な段階で気づきやすくなっているということは、明るい兆しです。なぜなら、健康な方が急にうつ病になるというケースは、多くはないからです。

なかなか仕事が追い付かない、いろいろなことが気になって夜も眠れないといった適応障害などを経て、うつ病になるというケースが多いのです。

私自身は、大学病院勤務ということもあり、これまで比較的重い症状の方々を中心に診察してきました。
しかし、これからの精神科は重い症状だけでなく軽症も含めた広い臨床経験が求められると考えています。

EAP企業を通じて産業医としても働いているのは、そのためです。

おおよそ産業医は軽症な方々を扱い、大学や総合病院は比較的重い症状の方々と、現状は別れてしまっています。

しかし、両方の経験値がないと、重い症状の患者さんと同じように軽症の患者さんにも処方してしまう危惧があります

やはり両面のトレーニングを積んでいくということも、これからの精神科には課せられてくるでしょう。

そして、心の疾患は医師と患者さんだけが向き合うのではなく、いかに周囲がサポートしていくのかも、忘れてはならないところです。

多方面から「(当事者の)心の問題」を観察し、どこに「淀み」ができているのか。

担当医だけではなく、家族や企業、産業医、臨床心理士が一体となって患者さんを支援していくことが、結局は近道になるのではないでしょうか。
患者さんが安心する体制をいかにつくっていくか、ということです。

メンタルヘルスにおいて、予防や早期の発見へと裾野が広がっている昨今、薬を用いるか用いないか、いかに患者さんを安心させる体制をつくれるかということは、今後ますます重要になります。

たとえ心の疾患によって「その人らしさ」が失われても、人は以前の状態に戻れます。戻れると信じます。

「その人らしさ」を取り戻すお手伝いをこれからも精力的に続けていきたいと思っています。

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※本コンテンツはCOCORO 8号をもとに再構成しています

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著者プロフィール

高橋 一志( たかはし ひとし)

1995年秋田大学医学部卒業。医学博士。
秋田大学医学部付属病院、横手興生病院、厚生連由利組合総合病院勤務を経て、米国エモリー大学医学部精神科留学。
2007年東京女子医科大学医学部神経精神科勤務。
東京女子医科大学医学部神経精神科・心身医療科講師、ウェルリンク株式会社顧問。
日本医師会認定産業医、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。
専門分野は、臨床精神薬理学、精神科治療学。学術論文を多数執筆。