![週G0127-6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/18441116/rectangle_large_type_2_c2219f5e361a65d0446f569426f1ece5.jpeg?width=1200)
2020年、北川一成の頭の中。(前編)
2020年、年が明けてすぐ。
GRAPH代表取締役にして、ヘッドデザイナーを務める北川一成さんにインタビューしてまいりました。
お聞きしたのは、ずばり「今、考えていること」。
・・・なんとざっくりしたテーマでしょう。笑
GRAPHのこと、個人的にやりたいこと、進行中のお仕事のことなど、いろいろお聞きしたことをまとめました。
GRAPHは、どう変わり続けるのか。
八木(以下、ーーからはじまる太字の部分は八木です):ーーいま考えていること、というざっくりしたテーマでお話伺うのですが、そのとっかかりとしてひとつ挙げさせていただきたいのが、GRAPHのホームページにある「北川一成」というコンテンツの文章です。(こちら)
昨年の8月に一成さんに伺ったことをまとめたものですが、その中でおっしゃっていたのが「GRAPHの本質は完全変態だ」ということでした。
蝶が卵から幼虫、さなぎ、成虫へと完全変態するように、“変わり続ける”ということですね。このことについて、もう少し具体的にお聞きできればと。
GRAPHは創業当時、織物をつくっていたことがあり、そこから函(はこ)屋、印刷屋、デザインと、実は時代に合わせて業態を“変えまくってきた”、というお話でしたよね。
一成:「変わりまくってるんです。
世の中には「酒造り一筋150年」みたいな会社さんもあるけど、彼らからしたらもう、何屋なん?ていうくらい、変わりまくってきたのがGRAPH。
(本社のある)兵庫県加西市の隣の西脇市は織物が盛んな地域だったので、加西でも商売になると思って、学びに行ったんでしょうね。100年くらい前のことです。
そして織物をつくるうちに、品物を入れる箱の需要があることに気づいて、箱を作り始めた。そして箱を組み立てる前、展開図の形に抜くトムソン機も導入しました。
そうしてしばらくは“函屋の北川さん”になっていったんですけど、箱に品物の名前なんかを印刷する需要があるぞ、となって印刷を始めました。そうこうしているうちにオフセット印刷が発達して、箱に印刷するだけじゃなくて、「これからは商業印刷や!」ということになった。
製版の会社に修行にいって自社でもできるようにしたり、エンボスや箔押しができる機械が入ってきたり。昔はサック(貼り)マシーンなんかもありました。
ただし、印刷業も徐々に価格競争になっていき、大手にかなわなくなってきて、業績が落ち込んでいった。僕が入社したのはちょうどその頃です。」
——それから、社名をGRAPHに変更、デザイン部門を創設されて、1989年にDesign×Printing=GRAPHとしてリスタートされています。
一成:「当時のGRAPHは製版技術も印刷技術もあまりもっていなくて、4色のオフセット印刷もまともに刷れていませんでした。
印刷時の色管理のシステムもなくて、父親らに隠れて、どんな条件や組み合わせで印刷するとどんな色になるのかと、自分でデータをとっていました。インクをまぜて練ってオリジナルの色をつくったりね。
おかげさまで今は、どんな色でもどんな用紙でも管理して表現できるようになりました。
最近入ってきたような若い社員だと、Design×PrintingのGRAPHしかイメージがない人もいますが、僕からするとずいぶん変わり続けてきたんです。
デザインも、当時はまだMacは表現ツールとして魅力がないと思われていました。
そんなときに100%Macデザインしたのが1992年発表の「富久錦」です。
▲GRAPH本社のある地元・加西市にある純米蔵・富久錦のCIデザイン。一成さん23歳ごろのお仕事。
当時のMacはまだ使える書体も少なくて。作図はできることはできるけど、ロットリングのペンでアナログで描いた線のほうがいい、パソコンだと誰がつくったって同じ表情で、表現として全く魅力がないと言われていました。
そんな時代に、Macでひとつひとつ文字をつくってわざとシャギらせてアナログのにおいのするデータをつくっていった。
アナログ製版のやり方なんかが身についていて、印刷したときにどう表現できるかがわかっていたから、できたことだと思っています。
デザイン部門を創設したのは、デザインの視点からものづくりを考えたり、逆にものづくりの視点からデザインした方が、「捨てられない印刷物」になって、より価値を高められると考えたからなんです。」
2020年は、ブランディング案件も広げていく
——Design×Printing=GRAPHになってから30年が経ちましたが、ここからも変わる、のですか?
一成:「Design×Printingも、別に永遠のテーマではない、と思ってます。
最近では企業や商品のブランディングも手がけるようになっていますし、今年はさらにその分野に重きをおくようになっていくのではないかな。
印刷については、デジタル化が進み、最近では動画の撮影・編集・配信まで誰でも手軽にできるようになってきて、情報メディア自体が大転換しています。印刷は、情報伝達の手段としては古い技術になってきていることが否めません。
しかも画像や映像はRGBの色域だから、印刷のCMYK より色表現の領域が広いんですよ。もちろん印刷物は動かない。つまり表現力では負けてしまうんです。
でも、こうした時代がくるだろうということは、ずっと自分の中で考えていたことではありました。」
——メディアが大転換するだろうと、いつごろから意識されていたんですか?
一成:「どう大転換するかというよりは、「一つの業態にとらわれない。世の中には臨機応変に対応する。アイデアを掛け算したら何とかなる。」ということは入社した30年くらい前からずっと意識しています。
高校生のときに、当時フランスで大学教授をしていた叔父のところへ遊びにいったことがあります。叔父は数学を教えていたので、作図したりする機会もあったからなのか、コンピュータにも興味を持っていました。
「近い将来、パソコンで図形を思うままに書けるようになる」と言っていたんです。また、当時のコンピュータは大きなものでしたが、そのうちにノートくらいの大きさのコンピュータが普及するだろうということも。
そして、印刷についても、写植はなくなり、電子情報に置き換わっていく時代がくるだろうと。
そういったことが僕にも理解できて、その後もなんとなく頭の中にありました。
当時は僕の母がバリバリの写植のオペレーターをしていたんですけどね。
実際にその後、僕が大学生のころには写植はなくなっていきました。
(注)写植=「写真植字」の略。印刷版を作るための技術。DTPの発展とともに衰退した。
メディアのインタビューなんかでもたびたび印刷のこだわりだとか、Design×Printingについて語ってきたから、北川一成は印刷オタクで、印刷を残していきたい人、みたいに見られることが多いんですけどね、意外にそうでもないんですよ。
もちろん印刷は表現としても好きだし無くなっては欲しくない。ただ印刷だけにとらわれてはいない、ということ。」
——じゃあ、一成さんがいま興味のあることって?
一成:「印刷に関しては、エンボスや箔押しや彫刻型なんかの特殊印刷は、かなり魅力的な領域だと思っています。
でもGRAPHには印刷に精通したスタッフがいるので、印刷の仕事は彼らにまかせて、僕自身はまた別のことをやろうと考えてます。
いま興味があるのは、アイデアやコンセプトを立てて0から1を考えるというところ。これまでなかったこと、誰も見向きもしなかった領域にこそブルーオーシャンがあるんじゃないかと思っているんですね。いわゆる0→1を考える「アート思考」と呼ばれるものです。
どういうことかというと・・・・・
!!!インタビュー前編はここまで!!!
次回「週刊GRAPH」では、インタビュー後編をお届けします! どうぞお楽しみに。