紙にも気分がある!? 作品を見て感じるのは、はたして愛おしさか、憎らしさか、白々さか。
今回の『週刊GRAPH』は、「OB訪問編」です!
2005年から9年間にわたりGRAPHに在籍していた助川誠さんにお話を伺ってきました。
助川さんは2014年に独立後、SKG株式会社を設立。GRAPHで培った印刷技術やデザインの知識を駆使して、ブランディングデザインに取り組んでいます。
そんな助川さんが、紙に関する展覧会に参加すると聞いて、早速会場に足を運びました。
紙をナマモノととらえた、3者3様の作品づくり
▲久々にお会いした、助川さん@青山見本帖。
展覧会の名前は、「生物(なまもの)展」。
紙の専門商社 株式会社竹尾の青山見本帖が主宰する、新進気鋭クリエイターが集う「PAPER STOCK MEMBERS」による展覧会の一環として開催されています。
PAPER STOCK MEMBERSになると、1年間を通じて、紙に関連した工場見学や勉強会などのさまざまなイベントに参加することができます。助川さんも昨年メンバーになり、製紙工場の見学などに参加して大いに刺激を受けたそう。
そして、年に一度、竹尾の青山見本帖にてそのメンバーによるグループ展「STOCK MEMBERS GALLERY」が開催されることになっています。
「生物展」もそのひとつで、助川さん、岩永和也さん、福島周さんの3人による展覧会です。
3人はそれぞれ別に作品をつくるのではなく、全員に共通のテーマをもうけて紙をとらえ、表現することにしました。
「3人でテーマを決める打ち合わせをしているときに、岩永さんが“生物(なまもの)”って面白いんじゃない?って言い出して。3人とも仕事でたくさん紙を使っていると思いますが、その時々で思うことがたくさんあって、そんな思うことを、今回は紙に対して5つの形容詞をつけて、3人それぞれが作品をつくりました」
展覧会DMのコピーは助川さんが書きました。
▲私はデザイナーではありませんが、うんうん、なるほどと納得しました。確かに紙ってそうだよな、と。
たくさんの形容詞を出した中で選ばれたのは、「愛おしい、怖い、憎たらしい、恥ずかしい、白々しい」。これらの形容詞に合わせて3者3様の作品が出来上がっています。
たとえばこちらの作品。
岩永さんの作品で、水を入れたコップの周りに、穴あけパンチで抜いた紙片が散らばっています。「水の中に入れてみてください」と言われ、紙片をパラパラとすると……紙が水を吸ってじわりとふくらみ、ふわふわと落ちていきます。
その様子が、まさに「◯◯しい」のではないかと、岩永さんは考えられたわけです。
(当てはまる形容詞がなんなのかは、ぜひ実際に訪れて体験してみてください!)
ほかにも、ベルベッドのようなパイルの「ヴィベールP」という紙を、バリカン(!)で刈って、「◯◯しい」を表現したり(福島さんの作品)。
さらに、次の写真は竹尾 青山見本帖の店内の什器を撮ったものかと思いきや、こっそり作品が隠れていますよ。◯◯しく、こっそり溶け込んでいるのですが、わかりますか??(岩永さんの作品)
助川さんの作品は、GRAPH時代に経験したことがもとになっているものも多いそう。
たとえば、天井からぶら下がっている、片面メタリックの紙たち。
反ってしまっているのがお分かりでしょうか?
「GRAPH時代、ある案件でデザインした名刺を厚くしたくて、紙を合紙したことがありました。
反りそうなことも予想でき、実験を重ねた結果、合紙するそれぞれの紙の紙目を変えることで反りにくくなることがわかったのですが、念のため数日間重石をして寝かせてから納品しました。
その実験の際に、「◯◯しいなあ」ってよく思ったものです。笑
その思い出がもとになって、今回同じように反った状態の作品をつくろうと思いました。でも竹尾さんの紙、さすがで全然反らないんですよ。笑 合紙して陽に当てておいたら反るだろう、くらいに思っていたのですけど。
紙の扱いとして普通は反らないように努力するんですが、今回は反るための努力を重ねてしまいました。竹尾さんに、「反るにはどうしたらいいですか?」なんて逆の質問をしたりして。
結果的には貼る前に加湿器に当てて、スプレーのりで貼っています。つまり強制的に反らせて、その偶発的な形を作品に活かしています。
竹尾さんの紙が自然と反ってしまうわけではありませんのでご安心を! 笑」
GRAPH時代の学びは、いまも活かされている
助川さんは2005年にGRAPHに入社した当時、兵庫の本社工場の製版部門に配属になり、半年ほどものづくりの現場で働いていました。
工場にいたころは一成さんやほかの先輩方に、よく紙の扱いについて怒られていたといいます。“持ち方”ひとつとっても、気をつけないと、紙によってはすぐに凹んだり跡がついたりしてしまうから。
「紙目によって折りやすかったり折りにくかったり、インキのノリは日によって違ったりするというように、紙の“生っぽい特徴”はGRAPH勤務時代に体感していました。現場で一成さんや先輩方もよく口にしていましたね」
独立してから6年になりますが、現在のお仕事でも当時の経験は大いに生かされています。
「いまはSKGとしてブランディングデザインの仕事をしていますが、他のデザイナーやさまざまな業界のクリエイターたちもこぞってブランディングに取り組む中で、僕の強みは何かと言われたら、やっぱり過去に培った印刷技術や紙に関することなんじゃないかな、と思います。
でも、いま振り返ると、GRAPHで学んだことで一番大きかったのは、人とのコミュニケーションのあり方です。
一成さんが、『豊臣秀吉が織田信長の草履を懐で温めていた』話をしていたことを覚えているんですが、要は相手が何を求めているのか、先回りする気持ちで考えて行動しろということなんです。これはいまでもコミュニケーションの基本だと思っています。
この週刊GRAPHの過去の記事を拝読しましたが、吉本さんが「おせっかい」と表現していましたね。(過去記事はこちら)言い方は違えど同じことだと思うので、今の方も同じことをGRAPHで学んでいると思って嬉しくなりました。
具体的な仕事で印象に残っているのは、2007年の「落狂楽笑」。デザイン作業というよりも、膨大な量の多様な制作物を、どこでつくるか、いつまでに何をするか、サンプルに問題があったときにどう対処するかといった幅広いコミュニケーションが必要とされた仕事で、とにかく走り回っていたんです。
当時はプロジェクトマネージャー(PM)という肩書きはありませんでしたが、きっと今のPMの方々と同じようなことを、このプロジェクトではしていたんだと思います。
▲2007年の夏、21_21 DESIGN SIGHTにて開催された「落狂楽笑 LUCKY LUCK SHOW」。落語や狂言などの日本独自の芸能を中心にしたプログラムで、北川一成さんが舞台美術を含めた会場構成を担当。会場の一部では、「落狂楽笑 by 北川一成」として、アートワークが発表されました。
▲助川さんも、「落狂楽笑」会場設営に参加していました。
このとき、若かった僕は、展示物の試作を作ってくれた制作会社に修正のお願いをしなければならなかったとき、ひとまずメールを送って、なんとなくとれでひと段落、伝えた気になっていました。
そのときに一成さんから『それでほんとに伝わってるんか?』って言われまして。
連絡は確かにしたかもしれないけれど、相手が読んでいるかどうかわからないし、読んだところできちんとこちらのお願いを理解してくれるかはわからない。修正が可能なのかどうかも不明のまま。相手に伝わらなければ、何もしなかったのと同じだと叩き込まれました。
いま自分の会社でも社員を抱えるようにもなったので、なおさら、「伝わっているのか」を考える機会も多くなりました。だから最近はよく、昔自分はどう言われてきたかな? って振り返っています」
退社後も、現在に至るまで、GRAPHとつながりはあるようです。
GRAPH展やスナックGRAPHなどに足を運び、「いつまでも顔を出して、うっとおしい部活のOBのようですよね 笑」と助川さん。
もちろん、一緒に仕事をする機会も。
今回の「生物展」の作品の中にも、GRAPHが制作協力したものがあります。
「これは箔押しの途中の工程を抜き出して作品にしたものなんです。本来、箔押しのフィルムは、版で図案のかたちに圧着させたところだけが残り、不要な部分は取り除くのですが、取り除かずにそのままの状態でフィルムが残っているのが面白いなと思って。電柱の影からそっと見守っているみたいで、“○○しい”でしょ」
紙や印刷にまつわることで難しいこと、新しいこと、面白いことに挑戦するときは、GRAPHに声をかけることがあるそうです。
まだ間に合う「生物展」、ぜひ実際に触れたり見たりしながら紙の気分を感じてみたり、紙と向き合ったときの自分の感情に注目したりして楽しんでみてくださいね。
GRAPHとSKG、それぞれの今後の取り組みにもご期待ください!
助川さん、ありがとうございました〜。
展覧会は今週金曜日までです!!!
<展覧会情報>
「STOCK MEMBERS GALLERY 2020 生物(なまもの)展」
開催中〜2020年2月28日(金)まで/11:00 〜19:00 土日祝休/入場無料
会場:株式会社 竹尾 青山見本帖 (東京都渋谷区渋谷4-2-5 プレイス青山1F)
会場URL:http://www.takeo.co.jp/news/detail/002980.html
詳細URL:https://www.facebook.com/events/554691965259423/