<連載>国内外事例から読み解く、2023年オムニチャネル戦略論④
前回までの振り返り
本レポートはここ数年間の国内外の様々な事例研究を通じ、今後のオムニチャネル戦略像を考察するものです。
オムニチャネル戦略の紐解き方として、まずは「今後の実店舗の存在価値とはどのようなものか」について触れ、その後そうした店舗戦略を支えつつも「小売サービス全体としての価値創造を行うためのECやWEBのあり方とは何か」という順で話を進めていきます。
国内外事例から店舗戦略を読み解くと、そこには大きく4つの価値化の方向性が存在しています。
ニューノーマルSHOP
サービスSHOP
エクスペリエンスSHOP
リアルEC SHOP
ニューノーマルSHOPは、最先端テクノロジーを活用し、店舗業務の合理化や無人化を目指す店舗戦略であり、主に最寄品などの低単価商材を扱うSMやCVS、DSなどを中心に拡大している。
サービスSHOPは、ECまたは店舗での物販をバックアップするサービス拠点として、新たな価値提供を目指す店舗戦略で、展開するサービスの内容によって、百貨店からスーパー、小規模店舗まで幅広い業態で取り組まれている。
それでは前回の続きとして、今回は「エクスペリエンスSHOP」「リアルEC SHOP」について事例を交えながら詳しくご紹介していきます。
エクスペリエンスSHOPとは
エクスペリエンスSHOPは、ECまたは店舗での物販をバックアップする、ブランド体験型拠点としてのリアル店舗の活用を目指す店舗戦略です。主にブランド直営店やD2Cブランドで展開されることが多い取り組みです。
買い物行動にブランドパーソナリティと合致するイベント性や遊びを加えた、「リテールテイメント」という新しいコンセプトチャネルとも言えます。
エクスペリエンスSHOPは、さらに4つのタイプに分類できます。
FUNトライアルSHOP
FUNトライアルSHOPは、商品の試着や試用といったリアルならではの買い物行動に対して、単に商品の確認というだけにとどまらず、ちょっとした楽しさや驚きなどの工夫を盛り込み、商品の確認行動を記憶に残るブランド体験へと変える取り組みを行う店舗選択です。
ケース1:CANADA GOOSE / 北極体験ルーム(日本、アパレル)
ファッションブランドの「CANADA GOOSE」では、店舗内の北極体験ルームでマイナス20度の寒さの中、実際の北極圏と同じような環境で、ジャケットを試すことができる。日常生活では到底できない体験を商品を試着しながら試すことができ、同商品の防寒性能の高さをアピールすることができる。
ケース2:EDION / 各種商品体験コーナー(日本、家電)
家電量販店のEDIONは、体験を売りにする超巨艦店でネット通販に対応しようとしています。
大阪・難波で営業する同店舗は、9階建ての大型家電量販です。特に力を入れているのが大変型売り場作りで、売り場の至る所で実現されています。例えばトイレルームには各個室ごとに異なるウォシュレットが設置されていたりなど、実用性も兼ね備えた工夫がされています。
ブランデッド・エンターテイメントSHOP
ブランデッド・エンターテイメントSHOPは、音楽やアート、スポーツ体験など、ブランドの世界観を元にしたエンターテイメントの場を提供し、ファンづくりを促す店舗戦略です。
ケース3:SHOWFIELDS / Story Selling(アメリカ、セレクトシップ)
SHOWFIELDSでは、「フロアごとに趣を変えたり、アートギャラリーや音楽イベントを開催したりするなど、従来の小売のイメージを覆したツアー型の販売手法が特徴。展示するブランドは3カ月ごとに入れ替え、訪れる人を飽きさせず、定期的に行うイベントの参加チケットが即完売するなど大変な人気を集めています。店内ではアート感溢れる空間の中で新しい「体験」を提案し、顧客はこれまで知らなかった新ブランドと接し、体験しながら商品の魅力に触れることができます。
クリエイティブ・アクティビティSHOP
ブランドを中心とした様々なクリエイティブワークを通じて、ブランドの世界観を体験し、より愛着感を高めていこうとする店舗戦略です。
例えばナイキやコンバースでは、店舗でファブリック素材や靴底の見本などを確認しつつ、「The Maestro(巨匠、の意味)」と呼ばれる店員のサポートを得ながらスニーカーのDIYができるようになっていたり(コンバース)、日本の料理研究家や世界の一流シェフたちからも愛される鍋メーカーであるバーミキュラは、「最高のバーミキュラ体験」をテーマに、バーミキュラの料理の美味しさと、バーミキュラブランドの世界観、そしてメイド・イン・ジャパンのものづくりを、様々なかたちで伝えることを目的としたブランドの発信拠点を立ち上げています。
ケース4:バーミキュラ / バーミキュラビレッジ(日本、フラッグシップショップ)
バーミキュラビレッジは、レストランとベーカリーカフェのある食の世界を愉しむ「ダインエリア」とフラッグシップショップに加えて、ワークショップや料理教室を実施する「スタジオエリアの2つ」で構成されています。
フラッグシップショップでは、日本で唯一バーミキュラの全ラインナップを揃えており、限定製品の販売や新製品の先行発売も行われ、実演を交えながら、それら商品の魅力を確認することができます。
料理教室は、バーミキュラ コンシェルジュ・専属シェフを講師に迎えて定期的に開催。大人から子供まで参加できるように親子料理教室が実施されたり、世界各国の食に関する2,000~3,000冊の本を備えるライブラリーやものづくり体験ができるワークショップを実施するラボ、バーミキュラブランドの新製品や新レシピが生まれるアトリエなどが設けられており、質の高い創作の場が提供されています。
プレイ・アクティビティSHOP
プレイ・アクティビティSHOPは、ショッピングと遊びが一体化した、購買行動に限定されない開かれた場の提供を通じ、モノ(商品)とコト(体験)が融合した、人が集まる場づくりを目指す店舗戦略です。
ケース5:ユニクロ / ユニクロパーク(日本、アパレルショップ)
ユニクロパーク横浜ベイサイド店は、“PLAY(プレイ)”をコンセプトにしており、佐藤可士和氏がグランドプロデューサーを務め、建築家の藤本壮介氏が基本構想とデザイン監修を行なっています。
佐藤氏は、都心一等地への出店がひと段落した段階で、「地方などでも『わざわざ行きたくなる店』を作りたいと、何年も前から『デスティネーションストア』構想を練ってきた」といいます。
ローカルやコミュニティーなどの重要性が増し、小売店が地域社会の一員となることが求められる時代において、「『ユニクロ』として初めて、建築自体も存在自体も半パブリックで、社会や地域に開いた造りになっている」とのことから、開店時、「ユニクロ」では近隣の幼稚園児が描いた絵をプリントした「UT」も用意しました。今後も折を見て、数々のワークショップなど、コト発信を充実させていく予定のようです。
ケース6:ファンケル / ファンケル元気ステーション(日本、無添加化粧品)
ファンケルは銀座スクエア店に、「ファンケル 元気ステーション」を設置。健康不安を感じ始める40 代から 60 代をメインターゲットに、「身体機能を知ることで、健康的な生活を送るきっかけとしてもらう」ことを目的とし、プロジェクションマッピングやセンシング技術を活用し、ゲーム感覚で気軽にバランス感覚や柔軟性、反応速度などの身体機能を測定することができます。また測定結果に加えて健康アドバイスも提供されるため、今後の生活改善に役立てることができます。
ケース7:REI / インドアクライミングなど(アメリカ、アウトドアショップ)
アウトドアブランドのREIは「オンラインでの優れたショッピング体験を提供するのみならず、さらなる情報を求めて実店舗に足を運ぶお客様のために、専門家がハイレベルな知識を提供し、最適な商品の発見を後押ししています。オンライン上での便利なショッピング体験は、実店舗でのカスタマーサービスによって補完され、顧客はオンラインとオフライン双方のいいところを体験できるようになっています。
リアルEC SHOPとは
リアルEC SHOPは、ECの決済機能とリアルな資産(場や人)を融合させた、新たな販売チャネルです。従来のECでも従来の店舗でもない、まさに新しい販売手法と言えます。
新店舗系(ECをリアルな世界で展開する新販売手法)
新店舗は、ECをリアルな世界に持ち込むことで、従来の店舗形態や運営方法に拘らない、様々な売り方に取り組む店舗戦略です。
ケース8:Nike By Melrose / Dynamic MD(アメリカ、スポーツアパレル)
「Nike Live」という概念で作られた同店では、NikePlus会員の購買データ、商品ページの閲覧データなどに基づいた品揃えやコミュニティを反映した店舗づくりが行われ、2週間ごとに雛揃えなどが更新されます。
また店舗内に設置された「NikePlus Unlock Box」は、会員向けの無料商品やリワード賞品を提供する自動販売機で、2週間ごとに新たな商品、リワードが追加提供され、NikePlusのアプリで通知されるので、それを受け取るために来店を促すこともできます。
ケース9:TESCO / Out Of Store(韓国、スーパーマーケット)
イギリスの大手スーパーマーケットであるテスコ社が、オンラインスーパーの利用客を増やそうと仕掛けたユニークなマーケティング。韓国ソウルの地下鉄の駅構内の壁一面に、「バーチャルストア」を設置し、商品棚のような巨大ポスターが貼られており、商品ごとに付いているQRコードをスキャンすることでその場でオンライン購入できるというもの。電車の待ち時間に人々のアテンションを獲得できること、帰宅時のお腹が空いている時間帯を狙えること、などで需要を伸ばし、オンラインスーパーの売り上げが130%増加しました。
新EC系(リアルな資産をECに生かす新販売手法)
店舗の持つ場としての利用価値や人の販売ノウハウをECに活用することで、ECと店舗の双方の魅力向上に寄与する店舗活用戦略です。
ライブコマースなどは日本でも有名ですが、例えば店舗にある様々な商品を使って店舗の中でファッションショーを行ったり(in the mood)、店舗スタッフがスマホなどで撮影した商品をブログに投稿し、それを見て気に入った顧客は取り置きや買い上げ決済も可能となるなど、顧客がリアル店舗とネットを自由に行き来しながら接客サービスを受け、買い物を楽しむことができます(ShinQs)。
店舗戦略まとめ
今回は、店舗戦略の残りの2つ、「エクスペリエンスSHOP」と「リアルEC SHOP」についてご紹介していきました。
ユニクロパークやREIなど、大きな敷地面積や設備投資が必要な事例もあれば、TESCO / Out Of Storeのようにアイデア1つで簡単に実施できるものもあります。
また、ECとは異なる場としての店舗づくりを目指すケース、ECと融合した場とすることで、新たなショッピング・ブランド体験づくりにアプローチするケースも存在しています。
前回までにご紹介した「ニューノーマルSHOP」「サービスSHOP」と合わせて、様々な店舗の価値づくりが進んでいる状況をお感じいただけたけたかと思います。
そこで次回は、これら店舗戦略を踏まえつつ、WEBチャネルを含めて、オムニチャネル戦略の方向性について考察していきたいと思います。
お楽しみに。
<最終回へ続く>