「法学部?じゃあ弁護士とかになるの?」→よく聞かれる法学部の現実 前半
一般人「法学部?じゃあ弁護士になるの?」
法学部生の大学生や法学部志望の中高生、法学部卒の社会人であれば、この質問をされることは日常茶飯事です。
世間一般では、法学部の学生といえば大抵が弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの「士業」と呼ばれる資格取得や、事務所や法務部の就職を目指すものだと思われています。
しかし、現実の法学部生の約90%は他学部生と同じように、法律にあまり関係のない業種や職種の内定を目指して、普通に就職していきます。
この想像と実態の差はどういうことなのでしょうか。
一言で言えば「士業は、新卒就活や大学生活と相性が悪い」からなのですが、本記事では、「法学部の現実」を法学部卒→行政書士のわたくしJOYが実体験に基づいて解説していきます。
※本記事は前編後編で解説します。
法学部ってどんなところ?
まず、法学部の学生は、総じて真面目で地頭が良く、法律、政治、社会などの動きに興味関心のある人や、高校の時に社会科全般が得意だった人が多いです。
少々理屈っぽく、正論をぶちかましてくる人もいますが、日常生活において絶対的な強さを持つ法律の知識や考え方が身についているため、真面目で義理堅く、人に迷惑をかけない、期日や約束をしっかり守るなどの傾向があります。
そして何よりも、少しくらい理不尽なトラブルにも対処できるなど、頼もしい人が多いのも特徴的です。
しかし、就職状況としては世間がイメージするような
「士業」の資格試験の合格および事務所の就職
警察官や検察官、法務省に裁判所職員などの公務員など、法律と強い関係のある公務員への就職
民間企業の法務部や総務部などのへの就職
法科大学院への進学後、上記のいずれかを選択
このように、世間の人々がイメージするような進路を目指している「ガチ勢」を目指している学生は、かなり少ないです。
どれくらいの少ないかというと
法学部生100人につき、15~25人くらいです。
むしろガチ勢の学生は、レアなくらいなのです。
東大や早慶のような極めてレベルの高い大学や、中央大学や日本大学の法学部など法学部が名門で知られる大学であれば多少変わりますが、世間のイメージよりも意外と少なくなっています。
これは「入学時に目指している人数」であって「卒業以降に実現できている人数」はもっと少ないです。
学年が進むにつれて少しずつ減っていきます。3年生になって急に目指し始めるような人もいますが、どちらにせよ、全体の10%あるかどうかです。
ほとんどの学生は、民間企業の採用試験や公務員試験に合格し、卒業していきます。それも、ITやハウスメーカーの営業、警備会社の経理、銀行員、スーパーマーケット、食品会社、電力会社、飲食店、駅員、雑貨屋など、他の文系学部と同じように、法律と関係のない業種・職種として採用されて就職します。
現実その1 そもそもガチ勢を目指して法学部に入学してこない
このような志望理由で入学してきた人が圧倒的に多いです。
反対に、ガチ勢を目指してきた人は、以下のような人です。
このように
家族の事務所を手伝う形で就職予定の人
過去の苦い経験から、法律と向き合った人
資格マニアやひたすらストイックな人
が多いです。
特に家族や知人の事務所に就職予定の人は、大学生最大の山場である就活が事実上終わっています。また、受かったところでどうやって実務経験を積むかという悩みがないため、4年間丸々、安心して資格試験に専念することができ、成功しやすいと言えます。
宅建士やFP技能士の資格を取って、不動産会社や金融機関に就職するというのはよくあるものの、弁護士や行政書士などの士業資格を取って法律事務所や行政書士法人などに就職するという人は一気に少なくなります。
そして、ガチ勢をちゃんと実現した人が、その苦労と努力に見合った未来を掴めているともいえません。
現実その2 資格試験が難しすぎる
行政書士、司法書士、社会保険労務士、税理士、公認会計士、土地家屋調査士、海事代理士、弁護士。
士業の資格は誰もが1度は夢見て手を伸ばしますが、一生をかけて1つ取れるかどうか、というほど険しい修羅の道です。
資格の有無が他業種・他資格よりも絶対視されていることもあり、上記のような資格を1つでも合格を掴むことは士業の世界を歩む全ての人々にとっての夢であります。
たとえば行政書士試験も、偏差値に出すとするならば60は越え、勉強時間は800から1000時間と言われています。MARCHレベルの法学部生でも簡単には取れず、法学部生15〜20人あたり1〜2人ぐらいのものです。
行政書士漫画のカバチタレでは、法学部を卒業後2〜3年後に取れるのがやっと、という表現をしています。
そして、そんな行政書士も上記資格のなかでは試験が易しい方で、序の口、最初の関門に過ぎません。社労士や中小企業診断士は更に難しく偏差値換算で65、司法試験や司法書士、公認会計士は70以上という頂点に鎮座し、5浪10浪当たり前の世界です。
資格を1つや2つ持っているだけで仕事に繋がるほど甘くはなく、1分野の業務を仕事にできるレベルまで実務をマスターするのには、試験合格にかかった時間くらいの勉強が必要と言われています。さらに試験の成績や実務経験まで問われるものもあります。
いかに時間と体力に余裕がある大学生といえども、気が遠くなります。というか、勉強からしばらく離れ、遊びほうけていたポンコツ大学生には、目指す気すら起きないです。
受かったところで更に勉強を続けなきゃいけない仕事を目指すなんて、コスパが悪すぎると思っているのです。
現実その3 大学の講義が、資格試験の勉強の役に立たない
ここまで読んでくれた皆さんは
「法学部で4年間も勉強していれば、1つくらいは自然と資格が取れるものではないか」
と思ったかもしれません。
確かに4年間も時間があったわけですし、若く、体力もあります。大学を卒業する頃には、いくら難しいといえど、資格の1つや2つ合格できるくらい、本来の大学生はもっと勉強するべきなのですが。
しかし、大学生活には、衝撃の事実がありました。
これはどの学部や大学でも同じかと思います。
法律の勉強ばかりできない。
語学や法律以外の学問の単位を取る方が大変。
履修の制限があり、自由な勉強もできない。
法律科目も、資格試験の勉強の役に立たない。
このような現実に、やる気を無くしてしまうガチ勢は多いです。
まず、意外と法律の勉強はしません。
「英語」「ドイツ語」などの語学や体育「社会学」「心理学」「ミクロ経済論」「環境地理学」などの一般教養も一定数の単位も取りつつ124~126単位を取れなければ卒業できず、半期につき26単位までなどと取得できる上限が決まっています。
※単位数や上限数は大学により若干の差があります。
法学部の花形講義である法律系科目は、「六法と行政法」の7つの法律のそれぞれ一部分ずつを必修科目として履修します。
※六法とは、憲法、民法、商法、刑法、刑事訴訟法、民事訴訟法の主要法律を指します。
どこの大学、学部にも言えることですが
まぁ~講義がつまらないんですよ。
講義に出たとしても、内容も教授が専門とするところを中心としたもので、教授の意見や立場に沿った内容で論述しなければ単位が出ないとか、女性の学生でないと単位が出ない講義がある、教授が毎回のように遅刻してくるなど、問題もありました。
世間話やダジャレとか「民法の◎◎教授とシティマラソンに行った」「綾瀬はるかが可愛い」「息子にギャルの彼女ができてしまった」といった話を延々と聞いたりします。あとは教科書やレジュメ(プリント)を読み上げたり、スライドで解説したりと、ちょっと気の抜けた講義が多いです。
実生活で使えそうなものや、資格試験や合格後の実務の勉強を期待していたので、かなり期待外れでした。
大学は研究機関であって、教育機関でも就職予備校でも資格スクールでもない、大学と学生の目的が違うというのを改めて感じました。
そして大学も、ガチ勢がそう多くないことは知っているので、ガチ勢としての就職よりも、一般企業や公務員への就職ができるように支援します。
ガチ勢の就職をしたいなら、法学部生をやりながら資格予備校に通うダブルスクールが推奨されるという現実が待っていました。
法学部の講義を日々聴いて勉強して、家や図書館でも資格の勉強をそれなりにしていれば、いくら試験が難しいといえど4年間も時間があるんだし
行政書士
社会保険労務士
司法書士
このうち1つは自然に取れる
これぐらいに思ってしまいがちです。
しかし、ほとんどの学生は資格を取ったとしても簿記2級やTOEIC600〜800や宅建士など、新卒就活と相性の良い人気の資格を取ります。もしくは運転免許だけ、という人も。
単位取得のための大学の勉強と、資格勉強は別物であり、資格試験の勉強は別途自力で頑張れ!という大学の方針に入学早々挫折しました。
後半に続きます。