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『ブニーとブールド』新刊著者対談


福音館書店では、6月に新刊『ブニーとブールド』を刊行しました。お金はもちろん、パンも大好きという2ひきのブタの貯金箱を描いた愉快なお話です。
今日から2回にわたって、この本の作者・山下篤さんと、お話の絵を描いてくださった広瀬弦さんの対談をお届けします。お二人に、作品作りの背景や貯金箱にまつわるお話など、あれこれたっぷり語っていただきました。

そもそもの始まりは・・・

広瀬 このお話はどのくらい前から書き始めたんですか?

山下 この形になったのはもう3年以上前。でも、実は元があったんですよね。
『ブタの銀行強盗』っていうタイトルで、絵本のテキストにするつもりで書き始めました。7、8年ぐらい前だったと思います。人間の兄妹がいて、その兄妹がブタの貯金箱を一つずつ持っていたのですが、ぜんぜん貯金しなくて。すると、ある夜、2ひきの貯金箱が、お金を入れてもらえないことに我慢できなくなって、子ども部屋を抜け出すわけです。二人がお金を入れてくれないんだったら、ほかの人にお金を入れてもらおうと。
ちょっと知ったかぶりの1ぴきと、何でも聞きたがる1ぴき。これがブニーとブールドの原型になりました。それで、2ひきが向かうのが銀行なんです。覆面して、背中に水鉄砲しばって、夜の街を歩きます。でも、どこが銀行なのかもわかりません。もちろん人間にはバレバレなのですが、本人たちはいたって真剣。最終的にはコンビニのお兄ちゃんがお金入れてくれて、それで満足して、子ども部屋に戻ってくるっていう、そういう話でした。でも、2ひきの貯金箱というナンセンスや会話のユーモアをわかってもらおうとすると、絵本ではきびしいかなと感じました。それでこの2ひきのブタを主人公にして、もっと書き込んでみたのが『ブニーとブールド』になりました。

広瀬 書き始めたらすぐにぜんぶ書けちゃうものですか?

山下 2ひきが暮らす家や街など、設定を決めてからはどんどん進みました。
その頃から広瀬さんに描いてもらったらどんな貯金箱になるんだろうなと思っていました。それが実現してすごく嬉しかったです。

広瀬 いえ、こちらこそありがとうございました。
ブニーとブールドっていう名前もその頃から考えてました?

山下 そうですね、もうその頃からついていましたね。

広瀬 この名前っていうのはどこから来たんですか?

山下 それは、“マネー”と“ゴールド”から。

広瀬 あぁ! マネーとゴールドから! へえー(笑)

山下 ブタだから「ブ」をつけたいと思って。それでゴールドはブールドに。ただブネーはちょっと変なので、元がマニーならいいだろうと勝手にこじつけて、ブニーにしました。

広瀬 なるほど。「マ」と「ゴ」の代わりにブタの「ブ」なんだ。なんかどこかの国の人の名前なのかなと思って、いろいろ調べたんだけど、そんな名前ないなって。「ブールド」はどこかにあったかな(笑)

山下 そうでしたか。
やはり登場人物の名前は大事ですので、ずいぶん悩んだのですが、ある朝起きるとふいに「マネーとゴールド」というのが頭に浮かんだんですよね。

広瀬 なるほど。

パン屋さんへ行くブニーとブールド(本文挿絵より)

貯金箱の思い出

広瀬 貯金箱には何か思い入れとか思い出みたいなのがあったりするんですか?

山下 そうですね。貯金は……できなかったですね(笑)
それは今もですが。だいたい遠い目的を持つことが苦手なんですよね。いくら貯まったらこれを買おうとか、最初は考えているのですが、すぐに目先のことが大事になって使ってしまう。

広瀬 ああ。なんかわかるような気がする(笑)

山下 小学生の時、工作の時間に竹で貯金箱を作りませんでした?

広瀬 うーん、なかったかな。でもなんとなくイメージは。

山下 竹の二つの節を残して切り、縦にして上の方に糸鋸でお金を入れる穴をあけたもので、仕上げに表面を削って模様をつけたり、絵をかいたりしてました。

広瀬 それ、お金出すときは割るんですか?

山下 基本的にはいっぱいになれば割るんだと言われて、そのときのことを想像してみました。お金でいっぱいの竹の貯金箱。この大きさだったら、いくらになるんだろうって。でも、想像は一瞬ですよね。現実には貯金はまるで増えないし、いつも「カラカラン」としか鳴らない。そのうち、貯金箱にお金を入れたことを後悔し始めるわけですよ。自分のお金なのに必要な時にお金が使えないのは不自由だと。そして、その「カラカラ」の中に、もしかしたら五十円玉か百円玉が混ざっているかもしれないとか思い始める。そう思ったら、取り出すのに躊躇ちゅうちょはないですよね。最初は穴を下にして振ったり揺らしたりするんだけど、なかなか出てきません。やがて、ハガキを穴の幅に切って差し込むと、お金の手ごたえを感じるんですね。でも紙だとお金が載ったとき折れてしまう。そこで見つけたのがセルロイドの定規でした。サイズもピッタリで、貯金箱を何度も揺らしながら差し込んだ定規にお金を載せます。うまく載ってくれれば、定規をそっと引き出して……。

広瀬 えっI? そこに頭使ったら、やっぱりお金は貯まらないよねえ(笑)

山下 けっこうそうやってお金を自由に出してました(笑)
そんなですから、最終的にはいくらも貯まらず、貯金箱もどうなったか覚えていません。
広瀬さんは貯金箱っていうと、どうですか?

広瀬 貯金箱ですか。子どもの頃、友だち3人と秘密基地をつくったことがあったな。みんな秘密基地の中に本とかおもちゃとか自分の私物をいろいろ持ち込んでて、その中に貯金箱が一個あって。で、みんなで貯めようっていうことになって小遣いを少しずつ入れてたんですよ。でも団地のすごく目立つようなところに秘密基地をつくっちゃったもんだから、ある日管理人のおじさんに「出てけー!」って言われて、だれかが貯金箱を持ったまま基地から出て家に帰っちゃって。そのまま基地も壊され、解散しちゃった。けっこう、貯まってた気がするんだけど……。

山下 今は、貯金箱使ってますか?

広瀬 今は五百円玉貯金やってます。

山下 あー、ありましたね。缶で、十万円貯まるとかいうやつ。

広瀬 ぼくは本の形のを持ってて。十万円貯まるっていうやつ。何回か貯まりましたよ。でもあれやってると、無理に五百円玉つくりたくなっちゃうんですよ。それはそれでいいんだけど、本末転倒だよね(笑)

山下 小銭があるのに、わざわざ千円札を出して五百円玉のお釣りもらったりして。

広瀬 そうそう(笑)

どこにもない場所

広瀬 そういえば、ぼくわざとお金の絵は描かなかったんですけど、このお話の中に出てくるお金って日本のお金じゃないですよね。お話の舞台は具体的な場所のイメージはあったんですか?

山下 やっぱりどこにもないっていうか、ここにしかない場所にしたいなって思ったので、だからモデルの土地もないし、そういうところをはっきりさせないほうが書きやすい感じがしましたね。

広瀬 ぼくの絵で大丈夫でした?

山下 大丈夫どころか! 文章を書いているときに私が頭の中で見ている絵は、文字として具体的ではあるけど絵として具体的ではないんですよね。形や大きさ、色なども大体はわかっているけれども、どこかあいまいでぼやけている。
それが、実際に絵にしてもらうと、「そうそう、まさにこれ!」というのと、「なんだ、こうなってたのか。知らなかった」というのが両方あって、そのどちらもが見事にバランス良くあって、さすがだなあと思いました。ブニーとブールド自体、広瀬さんに描いてもらったらこんなふうになるかも、と想像はしていましたが、出来上がった2ひきは想像とちがっていて新鮮で、でもたちまち「これ以外にブニーとブールドはいない」って思ったのが嬉しかったですね。
広場や建物も、どこか特定の場所をイメージさせるのではなく、ここにしかない景色にしてもらえました。

広瀬 絵を描くときはなるべく無国籍にっていうのはいつも思っていて。モノも時代も場所も具体的に見えないようにして。ぼく、子どもの本って長く読まれるものだと思っているんですよ。キャラクターとか、建物とかもそうなんですけど、リアルに今のことを描いちゃわない方がいいかなと。たぶんそれでよかったのかな。

山下 だから実際にお金の絵はなかったんですね。

町の広場(本文挿絵より)

粘土で作ったブタ

山下 今回、ブニーとブールドを描く前に、粘土でブタの貯金箱を作られたのを写真で見せてもらったのですが、毎回絵を描く前に粘土で登場キャラクターを作っているのですか?

広瀬 そうですね。毎回じゃないけど、前に絵本に出てくるクマを作った頃からかな。一度立体で作るとキャラクターの造形がブレないし、見ながら描けるので楽なんです。
でも作る時間も結構かかるので、たぶん今だけの流行です(笑)

広瀬さんが作った粘土のブタ

山下 広瀬さんの描く動物がすごく好きなんですけど、ただ、ブニーとブールドって動物じゃないでしょ。動くのに動物じゃないっていうのは、たぶん苦労されるんじゃないかなと思ってました。だって制約がものすごくあるじゃないですか。

広瀬 えぇ、まあ。

山下 陶器で出来てるし、そのくせ歩いたりするしで。

広瀬 うん。歩いたり、口開けたりする(笑)
でも見たことがありそうで見たことのない豚の貯金箱は描きたかったですね。

山下 それにしても、この粘土のブタ、いいですね。この子が生きてて、うちで飼えたらって思います。

山下さん(左)と広瀬さん(右)

                                                                                                (次回につづく)

山下 篤
1958年、広島県江田島市生まれ。出版社勤務のかたわら、少年少女向けの作品を書きはじめる。『ぼくの犬、バモス』(偕成社)でデビュー。ほか著書に、「基本紳士」と名のる男の奇妙な冒険物語を描いた『うそか? ほんとか? 基本紳士の大冒険』(理論社)や、故郷を舞台に大人向けに書き下ろした青春小説『漁師志願!』(新潮社)などがある。

広瀬 弦
1968年、東京生まれ。確かな表現力と個性豊かな画風で、絵本や挿絵の仕事を中心に活躍している。絵本に『くまの子ウーフのたからもの』(ポプラ社)、『まり』(クレヨンハウス)、『はらぺことらたとふしぎなクレヨン』『とらねことらたとなつのうみ』(以上PHP研究所)、『あ』(アリス館)、『とりかえっこ ちびぞう 改訂版』(学研プラス)など。童話の挿絵に『山のうらがわの冒険』(あかね書房)、『空へつづく神話』『サブキャラたちの日本昔話』『サブキャラたちのグリム童話』『もうひとつのアンデルセン童話』(以上偕成社)、「斉藤洋の西遊記」シリーズ(理論社)など多数ある。

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