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マーダーボット・ダイアリー「システム・クラッシュ」の感想メモ

マーダーボット・ダイアリー「システム・クラッシュ」の感想メモ書き(とりあえず1回目)
✳︎読んでない人は開かないと思いますけど、ネタバレには配慮してないです

kindleでハイライト入れながら読んだ記憶を思い起こしながら、テーマを絞っての感想…というか、自分がストーリーを咀嚼するためのメモです。
今回は中編の中にぎゅうぎゅうに中身が詰まっていて、まだまだ読みが足りてないと感じる。なんどか読み返したら今書いたのが大きな勘違いだったりするかもしれないけど。

そして、弊機かわいい~!!とかARTとの喧嘩ップルぶりがたまらん~とか、ラッティとタリクとマッテオの関係って何なの何なのぉ~とか、アイリスとARTの新生の頃の話を聞かせてよセス~!!!とかはTwitter(X)でやります……

ストーリーの骨格
・ネットワーク・エフェクトの直後。異星遺物汚染の危険のある惑星の人間たちを悪辣な企業の魔の手から助けよう!となる話。
・限られたフィードで中央の本隊と通信もできない中、旧CR時代の薄暗い遺跡のような地下施設を少人数での探索。少ないドローン、分離派の未知なる人々、企業の妨害は予測不能、わからない事だらけの中、謎の不調を抱えた弊機は仲間=顧客を守りきれるのか…
 
人を人として見ること
・バリッシュ・エストランザ社(BE社)はテラフォームの失敗により遺棄された惑星のサルベージ権を得たが、惑星には入植者がいた。BE社は入植者ごと惑星を手に入れたいと考えている。そこで、彼らを異星遺物の感染から助けるために移住や雇用を提案しようとする。一見良い話のようだけど、契約に応じたが最後。彼らは企業の奴隷労働者としての悪辣な環境から抜け出せなくなるのだ。
・マダボの世界では企業リムは嫌われてるね(保険会社はもっと嫌われてるっぽい)…SWの通商連合みたいなものか。人権も自由も生命も契約と金しだい。人も商品として見ているんだから。今回も登場するBE社のレオニード主任管理者は企業人で、NEでは交渉に訪れたアラダを人質にして立場を有利にしようとするなど食えない人間。だけど、なんか憎めない。企業の内部抗争の話もあったし、思想が異なっていても能力が高そうなのが良いんだな。企業の体質を憎んでも人は憎まず…そういう風に描かれるのは気持ちがいい。(いや、でもまだレオニードさんは出てきたばかりで、これから本性が出るのかもしらんけど)
・ミヒラ(略)大学側は入植者の代表らとの会合で、北極のテラフォーム施設の近くに、中央と別れて音信不通になった分離派グループがあると知る。そちらへ向かうアイリス・ラッティ・タリク、そして警備ユニットとARTの分身が入ったARTドローン。BE社とどちらが早く接触交渉できるか…という流れで物語が動き出す。
・遺棄されたこの惑星と似たような歴史を持つプリザベーションの人々、そしてミヒラ(略)大学の人間たちは、この星の汚染状況を管理して入植者が惑星の正式な主権宣言をする事を願い、企業との契約をする以外の選択があると説得したいと考えている。商品として扱われるのではなく、惑星に留まるか出ていくか、未来の選択の自由はあって然るべきなのだと。
・それはつまり、暴走警備ユニットの弊機がプリザベーションの人々に為されたこと。それだから弊機はこの星の住人を彼らと共に助けたいと思うようになるのだろう。
 
弊機の不調
・思わせぶりな「編集済」でうやむやにする弊機のせいで、狭いトンネルのような前半。後半で記述が現実に追いつき、開き直る(?)までは、人間のやることなすことに愚痴が漏れる弊機さん。いつもより不調。注意が逸れたりしてラッティやARTも心配してる。
・後にそれが、惑星の入植者をどう助けるかという話しあいの場で、みんなの前で倒れて心配をかけた事だと分かる。原因は「記憶の変容」弊機に入った異星遺物は除染されたのに何かが影響したのだろうか…それは「人間の死体に右脚を食べられる」というもの。メンサーは人間のフラッシュバックに似てると。
・動く死体は、きっとNEのアレも影響したんだよね…白い糸に覆われた死体… あれ、動いたのすごく怖かったよね。それに加えて、弊機自身からは、統制モジュールをハックする前の惑星調査の記憶も語られる。たぶん原生生物から人間を救えなかったんだ… 一部の記憶を自分自身で消去してしまうくらい弊機にとってはショッキングな出来事だったのだろう。
・自分を犠牲にしても人間を護るというのは、「警備ユニット」という存在に刷り込まれた本能みたいなものなのか。それが為されなかったこと、顧客を護れなかったことが「トラウマ」なんだろうか…もっと他の要因があるのかな。
・危険な惑星上でのミッションで死ぬかもという状態から助けられたばかり。それなのに人間たち=顧客はまたその惑星に降りるという。自分自身への不安と、情けなさ、その状態でいつもより不確定要素の多い仕事をするプレッシャー… そりゃ大変よ。ナーバスにもなるよね。
・読みながらずっと、弊機さんはやく休んで、ゆっくり休んで~(泣)って思ってたよ。
 
メディアの影響とドキュメンタリー
・今回のクライマックス①は、企業と契約したらどうなるのか説得するために、アイリスチームが短時間に協力し合って全力で動画メディアを作成して、分離派のメディアディレクトリにアップロードするくだり。(今回クライマックス多くて読む方もタイヘンな後半であります…)
・そのアイデアが弊機から生まれた、というところが本当に感動的だった。統制モジュールをハックして自由になった弊機が殺人ボットにならなかったのはメディアがあったから。 何をしたら良いかわからなかった三号の方向性を決めた弊機のヘルプミーファイルの事もあった。その前には、グラシンに見せた弊機の仕事振りを記した動画もあるよね。(弊機ってちょくちょく動画編集してる!オタクは見るだけじゃ飽き足らないよねって言ったら怒られそうだけど) "メディアはたしかに感情を動かし、意見を変えさせます" うん!!
・BE社の策略で大学の信用を落とされ交渉のピンチに立たされたアイリスチームは、この弊機のアイデアを実現させ、一本のドキュメンタリーを作る。
・長い間ずっと外部との接触を断っていた分離派の人々にとっては、"新作"メディアだ。結果、交渉で一歩先を行っていたはずのレオニード主任が手を引くくらいの効果があったのだ。
・でも同じことをBE社が先にしていたら…という、メディアに左右される人間の弱さも、きちんと記述されている。少ない情報の中でのメディアからの影響の危険性は、今本当に身に迫るものだよね。
 
いつもながらドラマチック
 全体の満足度がすごく高かった。わたしはSWのドラマシリーズをよく見ているんだけど、まさに良いドラマを見た感覚。前半の人間たちの話し合いの様子を見ながら弊機が情報の整頓をしてくれて、中盤のホラーちっくな映像のドキドキする探索や、後半の畳みかけるようなピンチとアイデアと救済と戦闘と脱出は、ホントに映像が浮かぶようなドラマチックさ!一人称とは思えない情景描写は、最初のシリーズからだけど、本当にそこが素晴らしい。原作も翻訳も。ありがとうございました!!!

 

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