透明な檻
ハアァイ!お目覚めですかァ!?
いやいや、大声で失礼しました。おはようございます。皆さん。
すみませんすみません。いやいや、どーもどーも。ええ。
上から失礼します。あ。ここです。皆さん、部屋の中央の天井です。あ。はい。モニターです。はい。私、ここにおります。
いや、なに、そのね。
麻酔ですよ麻酔。効き方に差がありましてね。漫画やドラマみたいに皆さんが一斉に目覚める、なんて事、なかなか難しいんですよ。ええ。体重から、それなりに計算したんですけどね。
それでね、ちょっと、ハイ。
お休みの方がね、あと1人ってところでね、ちょっと無理矢理に大きな声で起こさせていただきましてね。はい。こっちもね、その、進行とか時間調整とか色々ありましてね。はい。こっちにも都合があるんですよ。はい。
ええ? ええ。はい。
慌てないでください。はい。
質問は1つずつです。1つずつ。
はい。
ここは何処か。はい。
まぁ、この質問に最初にお答えするとつまらないんですけれども、まあ、はい。いいでしょう。ここは実験場です。実験場。見てください。この広さ。何処まで広がってるか、わからないでしょう? ここは秘密の実験場です。ええ。
秘密の実験場なんてワクワクしますよねえ。しませんか? 残念です。
ええ。まあ、あなた方は透明な部屋の中にいるんで、実験場の中の、実験室って所ですかね?
はい。はいはい。何故こんな所に?
いい質問ですね。
何故か。そう。秘密の実験場の、秘密の実験室の中に閉じ込められてる!! そうお思いかと思いますが、違います。はい。
これが漫画や映画だったら、「今からキミたちに殺し合いをしてもらいます」なんて「デスゲーム」が始まったりするんですが。ええ。違います。
あなた方はなんと!
光栄にもモニターに当選したんですよ! ラッキー!!
ええ。最新技術を体験していただく、体験ツアーです。何も危険な事なんて起きません。ええ。ご安心ください。
え? 私が誰か? あー、はあ。いや、そこは、何の体験なんだ?って聞くところだと思うんですが、まあいいでしょう。はい。
私は、ポリスと申します。ポリス・コレスポンドです。親しみを込めて、ポリコレさんとお呼びください。はい。いえ、ふざけてませんよ。本気ですとも。そうでなきゃ、犯罪ちっくに皆さんを眠らせて、こんな所まで運んできたりしませんよ。
大変だったんですからね、色々。特に法律的にセーフなギリギリのラインを狙いましたからね。ええ。本当に大変だったんですよ。
あー。はい。そうです。んでー、はい。はいはいはい。あー、はい。ハイ。
何の技術か。はい。皆さん、会話のテンポ悪いですね。聞く順番とか色々考えてくださいよ。こっちも進行役なんで。色々気を遣ってるんですから。視聴者の皆さんにね、わかりやすいように。ええ。
ええ? ええ。はい。この様子は録画されてます。録画ってか生放送ですね。放送されてます。ドッキリ? みたいな? はい。コレ、皆さんが科学の最先端を体験して、どんな顔をするのかが、きっかりモニターされてるんですよ。モニターをモニター。なんちて。
はいはい。はいはいはい。わかります。わかります。けど、選ばれちゃったんだから仕方ないですよね。応募したかどうかなんて、私にゃ関係ありません。私は単なる司会進行役なので。ええ。まあ、応募してない事は知ってますけども。ええ。
え? あ。はい。まあ、最新技術ですから、もちろん、科学ですよ。科学。バケ学じゃないです。ケミストじゃなくてサイエンスです。
なぜ我々が?
んんーん。良い質問。良い質問ですよー。そーゆー質問待ってましたー。ハイ。はいはい。
一見無関係に思える、年齢もバラバラな男女。
コレがミステリーなら、全員が実はあの時のあの瞬間に出会っていて、それが事件の発端となる! ワケなんですが。ええ。
コレはミステリーでもデスゲームでもありません。
ここに集められた皆さんには、共通した、ある出来事があるんですよ。
ええ。コレは漫画でも映画でもありませんからね。ちゃんとご説明させていただきますとも。
はい。あなた方は全員、ツブヤイターってアプリを登録してますね。はい。待って待って。待ってください。もちろん、共通項はそこじゃないんです。ええ。
あなた方は全員、4ヶ月前、とあるツブヤキに対して、引用ツブヤキをしてるんですよね。
いや、はい。慌てない慌てない。
そうでしょう。何のツブヤキかなんて、覚えてないでしょう。4ヶ月も前の話ですよ。仕方ないです。ええ。大丈夫です大丈夫。ですからコレはデスゲームでも何でもないんですよ。思い出さなかったら死刑なんて事はないんです。ね? ご安心くださいませ。
はいはい。私は基本的に質問にはお答えするように躾けられてますので。はい。順番に行きましょう。ね?
何のツブヤキか。
そう。大事なことです。
では、こちらをご覧ください。ハイ。画面、出てます? 出てますね。はい。
ハイ。覚えてますか?
4ヶ月前の出来事です。
15歳の。ええ。無職の少女が、血塗れのナイフを持った状態で、交番に押し入った事件です。
覚えてらっしゃる? それはそれは。はい。
まあ、視聴者の方にもね、わかりやすく。はい。事件の概要を説明しますと。はい。
少女は血塗れのナイフを派出所内の警官に突き付け、「殺してやる、殺してやる」と呟いた。
職務中の警官2名が対処に当たり、警官のうち1名が、実弾の入った拳銃を少女に向けて威嚇。30分に及ぶ口論の末、警官の威嚇射撃があり、それに驚いた少女が投降。逮捕される、という事件です。はい。
あー、流石に皆さん覚えてますか。はい。はいはい。
そうです。皆さん、コレに関してはちょっと炎上しましたからね。流石に覚えてる、と。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。誤解しないでください。はい。慌てない慌てない。
そうです。皆さん、この事件の、「警官」を批判したんです。
たかだか15歳の、未成年の、しかも少女相手に、大人げない、と。
ナイフが血で塗れてた。切れ味は脂で落ちてただろうに、と。
武術の心得がある警官が、力も弱い女の子に? と。
防刃ベストを着てるのに、ナイフごときで情けない、と。
なぜ説得できなかったんだ、心ない、と。
未成年の女子相手に、実銃を向けるなんて、と。
あー、はいはい。はいはいはい。待って。待ってください。待ってくださいよ。
私、皆さんを批判したくてココに連れて来たんじゃないんですから。
逆です。逆。
はい。落ち着いて。どうどう。落ち着いて。説明しますから。ね。
はい。
私、実はセキュリティ専門会社の人間でして。ええ。
ええ。そこの会社のマスコットキャラクター「ポリス・コレスポンド」略して「ポリコレくん」です。ふふん。
ええ。はい。はいはい。私どもの会社、セキュリティポリスー、日本ではシークレットサービスと呼ばれてますね。これらの派遣から、防犯グッズの販売まで、手広くやってるんですよ。
会社? スガノ・トータル・セキュリティって言います。知りません? あー、まぁ、あんまり表向きの活動はしてませんからね。ええ。
はい。
この時のね、そうです。ハイハイハイ!
防刃ベスト! はい! そうです! それです!!
実は、この事件の時に、この警察官がね、身に付けてた防刃ベストを製作してたの、ウチの会社なんですよー。はい。そうですー。
で。で、ですよ。
当社と致しましてはね、あなた方のツブヤキを支持したい訳ですよ。
だってホラ。あなた方に絡んでたツブヤキって、防刃ベストごときじゃナイフは防げない、とか。
酷くないですか? ウチの商品がコケにされてるんですよ。ねえ?
そこで、防刃ベストがあったのに! ナイフごときで! 実銃を持ち出した! 卑劣な警官よりも! 我が社の防刃ベストをね、信頼していただいた皆様に、はい。そうです。
我が社の最新技術を体験していただきたく、ですね。
こうして、法的にスレスレな事をやってでもですね、ここにお集まり頂いた、という訳なんですよ。ええ。
はい。コレでね、説明が大体終わったんで、はい。
早速ね、体験していただこうと思うんですよ。はい。
いやいや、ご心配なく、最新技術のセキュリティで、皆様に安全と安心をお届けするのが我が社の仕事ですから。
防刃ベスト? 防弾チョッキ? いえいえ。見てください。皆さんはもう、安全に守られてるんるですよ。
そう。この透明な部屋。
コレ、全部、防弾ガラスなんですね。
それも、世界最高技術で作られた、厚さ10cmの防弾ガラスです。
TVでね、紹介されてるからご存知の方もいるかと思いますけど。ええ。
なんとコレ、バズーカ砲でさえ貫けない。ええ。
無敵の強度ですよ。
なんと、火炎放射器を当て続けても、熱さえ伝わらない。
すごいでしょ。ねえ。ホントすごい。
皆さん、この無敵の防弾ガラスに囲まれてるんですよ。ねー。
無敵です。10センチだとバズーカ砲さえ通さない。まあ、5センチはブチ抜かれちゃったんですけどね。え? 5センチだとバズーカ砲に負けたんですけどね。ええ。
ほら、この映像です。5センチの厚みだと、割とあっさりブチ抜かれてるんですけどね。ええ。ほら、ココです。見てください。10センチは流石に耐えました。ね。まあ、もう一発食らったらバズーカ砲が勝つと思いますけど。
こっちは火炎放射器の映像ですね。
耐えてますね。熱も通してません。すごい。まあ、1分の照射ですからね。30分当ててたら貫通したかも知れませんが。ええ。
こっちの映像がAK47って銃で。ええ。アイドルじゃないですよ。アサルトライフルです。
ほら。見てくださいよ。全然貫通しない。ガラスのすぐ後ろにいても平気。多分衝撃さえも伝わってないですよ。すごいでしょ。そりゃね、バズーカ砲に耐えるんですから、自動小銃程度ではどうにもならない訳ですよ。
まあ、勿論ね。同じ箇所を弾丸が尽きるまで、ひたすら撃ち続けたら、それだってどうだかわかりませんけどね。ええ。
え。いやいや。基本的には強いですよ。簡単に貫ける訳がありません。なんでそんな怯えた顔をするんです?
世界最強の防弾ガラスに囲まれてるんですから、何が来ようと平気に決まってるじゃないですか。ねえ。防刃ベストなんて目じゃないですよ。はい、はい。
はーい。
では、周囲を見渡してください。
はい。今、地面から出てきましたのは、この防弾ガラスの部屋を取り囲む、ヘヴィ・マシンガンと呼ばれるものです。
まあ、AKなんかよりは強力ですが、バズーカみたいな威力はありません。ゲーム的に言うと、ライトボウガンとヘヴィボウガンぐらいの差です。え? かえってわからない? すみません。私好きなんですよね、モンスター狩り。いや、話が逸れましたね。
ま。そんな訳でですね。
あなた方には、世界最高の、はい。そうです。
ヘヴィマシンガンの連射にも耐える、世界最高の防弾ガラスを体験していただきたく。はい。
えっ? ああ。同じ場所を撃ち続けたら、破られる?
ご安心ください。マシンガンの集弾率はそこまで高くありません。威力重視ですからね。
固定して撃っても、そう簡単に同じ場所には当たりませんよ。平気です。怖くない怖くない。
まあ、1分間に1,000発ほど撃てますけどね。ええ。
さあ。世界最強の防弾ガラスを体験していただきましょう!
さ、、、あれ? どうしたんです?
落ち着いてくださ、、、いやいや、落ち着いて。ほら。この映像、生放送されてるんですから。ね。取り乱さないで。
えっ? いや、防刃ベストなんかよりももっと強い防弾ガラスですよ。安心してください。
バズーカ砲でも通さないのに、マシンガン程度でブチ抜ける訳がないじゃないですか。ほらほら、落ち着いて。
我々はもう実験済みで、どうなるかわかってるから、皆さんに世界最高の安心と安全を体験していただく訳でね。ええ。安心してください。何度も何度もテスト済みですとも。ええ。
まあ、実験結果はお教えしませんけれどもね。ええ。
あれあれ? どうしたんですか? 落ち着いて。コレ、生放送されてますからー。ほら。みっともないですよ。
我が社の防刃ベストを信頼してくださったんですよね?
その我が社が誇る、最高の防弾ガラスですよ?
泣かないでくださいよー。困ったなあ。コレじゃあ、なんだか私が悪者じゃないですか。
ミリタリーオタクなら垂涎物の、最強の防弾ガラス体験会ですよ? お金を払ってでも体験したい人がいるのに、皆、なんでそんなに怖がるんです? 勿体ないですよ?
もっと部屋の外側まで行って、マシンガンを近くで見てくださいよ。本物のマシンガンを見られる機会なんて、そうそうありませんし。生きて帰れたら自慢できますよ? ほら。
ねえ? なんで部屋の中央に? もっとイベントを楽しんでくださ、、、
あー、もううるさいなあ。
せっかくの私の司会進行を台無しにしないでくださいよ。
あー、もういいですよ。
とっとと始めちゃいましょ?
あ。皆さん、最期に言い残すことはあります?
あーっ、もう、うるさいなあ。何言ってんのかわかりませんよ。ちゃんとわかるように説明してくんなきゃ。
はい。じゃもういいです。
始めちゃってください。
はい。行きますね。
さーん、
にーい、
いーち、
ファイヤー!
はーい、機械によるマシンガンの一斉掃射が始ま、、、
わお。
もう撃ち尽くしたんですか。
まあ、1ベルトだけですからね。100発ぐらい?
ね? 無事だったでしょ?
傷ひとつない。
どうしたんですか? 腰抜かしました? 安全だってアレほど言いましたのに。
ええと。ええ。はい。じゃ、はい。
この中じゃ、、、そうですね。あなたが、一番度胸がありそうですね。
部屋の端にまで行って、防弾ガラスに触ってみてください。
はい。はい。そうですそうです。ね? 平気だったでしょ?
んで、はい。何か違和感ありません?
はい。じゃ、種明かししますね。はい。
この部屋は防弾ガラスじゃなくて、全部、巨大な液晶モニターなんですよ。ガラスの向こうですから、液晶には触れませんけどね。ええ。
はい。マシンガンも、撃たれた弾も、めり込んだ孔も、全部映像です。全部フェイクですよ。もちろん、世界最高の技術を使った巨大で鮮明な画像の液晶モニターに、大迫力立体サウンドですけどね。
どうです? 迫力あったでしょ?
安全な場所にいても、安全な状態でも、我が社の技術をもってすれば、恐怖のどん底です。どうです? 素晴らしい大迫力の映像美体験、堪能していただけましたか? 実は私、セキュリティ会社じゃなくて、液晶モニターを主とした、映像機器メーカーの人間なんですよ。ええ。アンプもスピーカーもウチの最新技術です。
そうですそうです。実はコレ、モニターのモニターをモニターしてたんですね。なんちて。
あ。はい。あ。はい。カット? はい。
はーい。お疲れ様です。
あ。コレ、番組です。はい。
実際にドッキリなんてする訳ないじゃないですか。やらせです。これもやらせですよ。
私も、部屋の中でぐったりしてる人たちも、事務所に所属する俳優さんですよ。ええ。リアリティ・ショーって奴ですよ。
はい。お楽しみいただけましたか。
それでは次週のこのお時間、「カリフォルニア州参加モニタ」でお会いしましょう。
お相手は私、ポリス・コレスポンドでした。
※ この記事は無料ですし、先日起きた事件とも関係ありませんが、お楽しみいただけた場合、投げ銭(¥100)をお願いしています。
なお、この先には特に何も書かれていません。
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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。