全ては誰かの幸せのために
まずは最初にありがとうを。
初回の「山の上のパン屋に人が集まるわけ」の投稿でいわゆる「バズる」という体験をさせていただきました。5日間で22万人ほどの方(2018/4/22現在)がページに訪れてくださったようです。今まで多くの文章をネット上に書いてきましたが、これほど反響があったのは初めてです。ありがとうございます。
投稿したと同時にあれよあれよと言う間にリツイートされて、あっという間にフォロワーがたくさん。ずっとスマホがブルブルして、それからは軽い興奮状態に陥り数日眠れなくなりました。夜中に布団を頭からすっぽり被り、とりあえずスマホでインターネット上を徘徊して、そこら中にある感想をひたすら探して目を通していきました。
賛同や賞賛、嫌悪感が入り混じった感想を何千と読み漁り、これまた人間の多様性を痛感した次第です。結局、最後に感想を読んで湧いて来たのは、「ありがたい」という気持ちでした。沢山の方が興味を持って見てくださったという事実に、ただただ感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。
さて、表題に入る前にもう一つ。多分、この先私はnoteを始めるに当たって書いた最初の投稿を、今後超えることはできないでしょう。この9年間をダイジェストでまとめてしまったので、あれよりインパクトのある投稿には、とてもなりそうにありません。ご期待に添えず申し訳ないと先に謝っておきます。
これからは、先に書いたわざわざの細部を描いてことになるでしょう。時々近い未来だったり、考え方だったり、ミクロとマクロの世界を行ったり来たりしながら書いていきたいと思います。今後ともどうぞ末長いお付き合いをよろしくお願いいたします。
わざわざの理念の話
前回でわざわざの9年間の歴史をザッと知っていただけたと仮定して、今日はわざわざの理念の話です。理念というものは、会社にとって羅針盤のようなもので、これがなければ前に進むことができません。わざわざのスタッフにはきっとこの言葉がじわじわと浸透してきているかと思います。
全ては誰かの幸せのために
これがわざわざの基本理念です。もちろん、毎日、復唱をすることもありませんし、言い聞かせることもしていませんが。だけど、わたしはみんなの働きぶりを見て、この言葉が浸透してきたなと感じることができています。今日はそんな理念が生まれた日の話です。
1.組織図を書いたのが始まりだった
理念を作らなけばならないと感じ始めたのは、確か2014年10月だったと思います。テニス観戦が趣味で有明スタジアムに行っていたのですが、テニスは試合時間や試合と試合の間などが長いので、PCを持参して仕事をしながら観戦をしていました。
当時は、雇用について考え込んでいた時期なので、現状の店の状況を把握するために、組織図を試しに書いてみることにしました。よくあるトップダウン型の組織図を書き、部署と担当者の名前を書いていると、ほぼ全ての要所要所に自分の名前が埋まっていきました。その当時はまだ常駐スタッフが3人ほどで、繁忙期に短期のアルバイトさんを募集し、多い時で4人ほどのスタッフが働くお店でした。
なのに、実店舗営業、インターネット通販、パン作り、梱包、発送、SNSの更新など業務が多岐に渡っていたため、少人数で仕事を掛け持ちしながら、今よりずっと忙しい環境で毎日追われながら仕事をしていました。開業当初の1人で流れるようにやっていた仕事を、分割して分担するというフェーズに入ってきた時で、どのようにこれから人と仕事していけばいいのか考えなければなりませんでした。
組織ってなんだ?というところから始まり、ぼーっとテニスを見ながら自分の書いた不毛な組織図を見てはため息をつき、コロナガール(※会場でコロナをう販売している売り子さん)を呼び止めてはビールを煽りを繰り返していると、なんとなく考えている組織そのものがいけないんじゃないかと思い始めました。
やっている仕事を全て書き出して分類すると、「パンと日用品の店」の仕事が多岐に渡っているのが原因で、巨大な組織になりすぎるのです。組織的に仕事をしようと思うと、一人でやってきた仕事を無数に分割することに気がついて、組織自体を疑いたくなりました。だって、今、4人でやってるし。全部の担当を細分化したら何十人になっちゃうよって。
2.組織図は丸い方がいい
時が過ぎ、2016年にふと思い立って描いた組織図がこれです。階層型の組織図以外の組織図はないのかと考えては消え、考えては消えを繰り返し、できるだけ人が少なく兼任がスムーズになるには円しかないと辿り着きました。円と円が交わる場所には、オールラウンダータイプの人材を配置し、部署間を越えて繋がるイメージを描きました。(※2017年に自費出版したわざわざの働きかたにもこの図が掲載されています。)
しかし、これにもそこまでしっくりきませんでした。繋がらない、連携しない部署がある。全ての部署が連携していないとわざわざではない。何故なら開業時は1人で始めた店だったので、必然的に全ての仕事が連なっていたのです。そして、その連なりが効率をよくしていて、1人でもかなりの作業量をこなせていたのです。
1人での作業負担は辛いものがありましたが、スタッフが分業制になり負担を減らしつつ、もし連携できていたならば、最強だろうと考えました。だからこそこの図では再現できていないし、いけないと感じたのです。
3.丸い組織はどこに向かって走るのか
通常の組織図を見ていると、走る方向は当然上になるのだと思います。仕事を頑張ることで、将来は課長・部長のようなイメージで出世を目指すのが、一つのモチベーションになるのかもしれません。
ですが、丸い組織図はどこに走っていけばいいのか、皆目見当がつきません。左?右?上?下?円を広げていくことで複数業務をこなすことが目標になれば、それは個人事業主に戻るだけですし、進む方向がわからないのであれば、ただ船に乗っただけで目的地もなく迷子になってしまいます。
その時初めて、理念の必要性を感じました。仲間が同じ目標に向かって走ることが大切だと痛烈に感じたのです。違う部署の人間も全ての働く人の共通の理念が必要なことに気がつきました。2016年のことです。遅いです。2009年開業ですから、思いつくまでに7年くらいかかってしまいました。たった2年ほど前の話です。それまではおいしいパンを焼くとか、間違えずに品物を届けるとかそういう細部にばかり目がいって、その先のことに気づくことができませんでした。
後ほど、段々と経営者の知人が増えていった時に、ミッションステートメントの話を聞き、あ、セオリーとしてある手法だったのかと、自分の勉強不足に愕然としたのを覚えています。パンのレシピを考えた時も自分が辿り着いた製法が、古いフランスのカンパーニュの製法だったことを後ほど本から得て、自分の無知を知りましたが、大抵の常人が思いつくことは先人が考え抜いています。歴史と古典の基礎知識が、結局はものを言うと最近はそればかり思います。
4.地域のためになることをしたい
何のために仕事をしているのだろうかと考えた時に、自分はやはり誰かの役に立ちたいと思いました。特に私たち夫婦はIターンでこちらに移住してきたこともあり、縁もゆかりもないもないこの土地=ただ美しくて住みたいと思っただけで住んでしまった私たちに、優しくしてくださった地域のみなさんに、何か少しでもお役にたてたらいいなと思いました。
野菜が採れれば食べたらいいよと持ってきてくださる皆さん、ここでの暮らしに慣れない私たちを事ある毎に助けてもらい、地域行事に参加すれば皆さんとても優しく、空が広いところに住んでいる人は心も広いんだねと、夫とよく話をしました。
そうして、理念は「地域貢献」にしようということになりました。だけど、ちょとこんな小さな店が地域貢献を掲げるなんて、ちょっとおこがましい理念だなと感じました。それに地域への貢献だけを目的にすると、自分の焼いているパンは北海道産の小麦だし(近隣の小麦で焼いていたこともありますが、製造量が増えて粉が確保できなくなっていきました)、遠方のお客様の来店も多く、インターネット通販も説明できなくなってしまいます。道理が通らないのは理念としてはどうなのかとまた考え込む日が続きました。
結局、地域貢献も包括した理念を作りたいけど、浮かばない。そんな日が続いていったのです。
5.全ては誰かの幸せのために
多分、パンを焼いていた時だったと思います。2017年に入り、本も出して少し経った頃でした。「あ、全ては誰かの幸せのために、だ。」とポカンと、頭の中に突然言葉が降ってきて湧いたのです。全員幸せがいいけれど、わざわざは小さい組織だから大企業のように全員の幸せを目標にするのは無理がある。だから、今やっていることが誰かしらの、何かしらの幸せに繋がる行動をしようと思ったのです。
では、誰のために仕事をするのか?
わざわざに関わる人ができるだけ幸せの方がいいと思います。お客様・スタッフ・地域・取引先・家族が同じバランスで幸せを感じることを目指していけば、行動指針が立てやすいと考えました。
例えば、わざわざほどの小さなお店で、お客様の幸せを追求していけば、2種類のパンで満足できないお客様にむけて沢山の種類のパンを焼くことになるかもしれません。私が過去に1人で20種類のパンを焼いていた時のように、スタッフは細かい作業が増えたことで、覚えることも多くなりストレスを抱えることもあるでしょう。作業負担が増え残業が増えて行く可能性が高いことが推察されます。また技術力がより沢山求められるので、修業という概念も形成されやすくなり、師弟関係のような職場になりやすいかもしれません。
また、スタッフだけの幸せを追求すれば、これもまた問題があります。休みが増え、パンの製造量は減り、クレーム対応は遅くなり、レスポンスは悪くなる可能性もあるでしょう。
取引先だけの幸せを追求すれば、自分たちがよいと思った商品だけでなく、それ以外の商品も選ばずに置くことも増えるでしょう。
地域だけの幸せを追求すれば、地元産のものだけを販売するようになり、ラインナップは縮小するかもしれません。
家族の幸せだけを追求すれば、このnoteを書く時間は失われるでしょう。
無理はしない
結局、バランスを均等に保つことが一番いいのではと考えています。お客様・スタッフ・地域・取引先・家族、適当に適度にいいバランス関係を目指します。私たちの店は、コンビニエンスストアのように万人に好かれるお店ではありません。なんでも置いてあるわけではないし、必要なものも揃っていない。だけど、置いてあるものがいちいちツボなのよねという人にしか響かない、ちょっと変わったお店だと認識しています。
人数も少なく、キャパシティも狭い、やれることが限られています。だからこそ、商品をわざわざらしい基準を設けて厳選します。その厳選はお客様にとっての不便でもあるかもしれません。ですが、利便性を重視してマスに向けて商売をし始めたら、Amazonと同じ土俵に乗ることになるのです。わざわざのような小さな店は、らしさを追求し、どこにもない価値観を作ることでしか生き残ることができないのです。
だけど、できうる限りの努力はしたい。バランスを言い訳に努力を怠ることはしたくない。山の上のパン屋ではありますが、今年から電子マネーでも決済できるようになりました。1円からクレジットカードも使えます。だけど、レジ袋は有料です。この辺りもわざわざの価値基準で作っています。
通販の出荷も業務稼働日であれば、朝の9時までに届いた注文でパン以外は即日出荷しています。不便ではあるけれど、不便に甘んじたくはない。できるだけ、要望には寄り添いたいという気持ちも持ち合わせています。ただ、無理はできない。だからやれることを選ぶ。その繰り返しです。
みなさんにバランスよい対応をすることで、その分、みなさんに窮屈も与えます。100%の力を20%ずつ配分するので、あっちを立てればこっちが立たず、不便だらけです。でもしょうがない、やっぱり無理はしない。うちのような店がダメな方は沢山いるでしょう。だけど、私たちもそのようなお客さまを望んでいないのです。これも相思相愛の一つの形であるかもしれないと最近は感じ始めています。
だけれども、全ては誰かの幸せのために
メールひとつ、パンの梱包ひとつ、商品の撮影、パンの製造、接客、オンラインストアの更新、フライヤーのデザイン、荷物の出荷、SNSの更新、仕入れ、経理、労務など、目に見える仕事はパンだったり商品であったりしますが、そこから派生する仕事はいつも多岐に渡っています。そして、アルバイトから正社員、様々な年齢の、個性的な面々が仕事を担っています。
わざわざの働きかたにも書きましたが、わざわざでは仕事に優劣をつけないということをポリシーとしています。パンの梱包に勤しむものも、オンラインストアを更新するものも、売上をあげる人も、接客をする人も、誰一人かけても仕事は成り立たないということを徹底しています。
何の仕事も誰かの幸せに繋がっている。そう思って欲しい。パンの梱包一つ、美しく包まれていることを喜んでくれる人がいる。誇りを持って仕事をして欲しい。心からそう思っています。
アルバイトだからと遠慮することはよくないことだと注意をすることがあります。わたし達は一緒にわざわざを作っている。わざわざをよくするために意見することは、素晴らしいことだと常日頃から言っています。一人で作るよりみんなで作った方がいいに決まっている。自信を持って、一つ残らずなんでも言って欲しい。それがみんなの仕事の環境をよくすることだと声を大きくして言いたいです。
全ての仕事の先々にはお客様がいて、誰かに幸せを届ける仕事を行なっている。どんな小さな仕事の先にも喜ぶ人の顔があることを忘れないで。わざわざに関わる仕事の全ての端々に、幸せを感じてくれる人がいるかもしれない。そう思ってみんなに仕事に取り組んで欲しいと願い、この理念を作りました。ちょっと気に入ってます。
事務所の改装が終わり、扉を開けた瞬間に目に入る廊下にマジックでロゴと共に書いてみました。スタッフは毎朝、この言葉を見て出社しています。みんながどんな気持ちで出社しているかはわからないけど、わたしは毎朝これを見ると、やっぱいいなと思います。今日もがんばろって。
最後に。
昨日は倉庫・事務所の完成記念パーティーでした。早朝から懇親会の料理の仕込みを食堂でしていたら、最年長のアルバイト(推定6◯歳)の方が言いました。「いつかレストラン作るって言ってましたよね?あれ、まだやる気ありますか?」って。「もちろんです」と答えたら、「その時は皿洗いで雇ってもらえませんか?」と。
嬉しかったです。未来に向かって色々と考えていることがこうやってみんなのモチベーションになっていることが嬉しくて、嬉しくて、涙が出そうになりました。わざわざには今現在20代から60代の13人が働いています。
さて、今回はこないだの半分6300ちょっとの文字数でした。今日も長い間お付き合いいただいてありがとうございました。noteは課金できるシステムがあって、当然最初は課金するつもりで書き始めたのですが、1回目が無料でバズった今、2回目のこれで課金できるはずもなく、課金という概念自体が消し去られています。
この分だと、多分、永遠に課金できそうにありません。前回の記事をいつか超える自信ができたらやろうと思いますが、大体noteを始めた位置付けというのが、「より多くの人に事業を知っていただき、知見をシェアする」なので、有料化の意義がないとも言えます。
しょうがないので、みなさん、よろしければ何か必要なものがありましたら、わざわざオンラインストアに立ち寄ってみてはいかがでしょうか?毎回オンラインの宣伝を入れてお茶を濁すことにしてみます。
ではではみなさん、また次回。
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