ボードゲームを面白くしたい人のための、テストプレイ実践マニュアル
新しいボードゲームをつくるのは、新しい体験をつくること。だからテストプレイが欠かせません。
テストプレイとは、ゲームのプロトタイプを実際に遊んでみて、ゲームシステムの整合性の確認や抜け穴を探すことです。頭の中で考えたルールが実際に運用できるか、楽しいかどうかは、やってみなければわかりません。新しい体験は、できるかどうか分からないから新しい体験なのです。
WAZA gamesではそんなテストプレイを行うにあたって、マニュアルを制作しています。ゲームを考えたデザイナーであれば、人がプレイしている様子をなんとなく見ているだけでも改善点が見えてくることもあるのですが、見方を言語化して共有し、デザイナー以外の人でもテストプレイできればそれに越したことはないからです。
本noteはそんなテストプレイのマニュアルです。
テストプレイには2種類ある
テストプレイには2種類あります。1つ目が「システムのテストプレイ」、2つ目が「ルールのテストプレイ」です。1をクリアしたあとで2に移行することになります。
システムのテストプレイでは、そのゲームが「そもそも成立しているのか?」「面白いのか?」といった部分を検証します。先にも述べたように、新しく考えたゲームは未知の体験です。ゲームデザイナーが頭のなかで組み立てたシステムが、実際に遊べるのか試すためのプロセスです。
ルールのテストプレイは、システムが一応の完成を見た後でそれをルールブックに書き起こし、プレイヤーがそれを読んだだけで遊べるかを検証します。ゲームがパッケージ化された後、それを手に入れたプレイヤーはルールブックを頼りにゲームを遊びます。そこで理解できなかったら遊べませんので、ゲームがルールブックさえあれば遊べるようになっているかを試す必要があるのです。ちなみに、この段階でシステムの変更が入ることもあります。ルールブックでの“遊びやすさ”を検証した結果、ルール自体に影響が及ぶ可能性があるからです。
いずれのテストプレイでも流れは大きく変わりませんが、どちらの意図でテストプレイをお願いするのかは意識したほうがいいでしょう。
テストプレイ開催前の準備
テストプレイに必要なのは以下です。
・コンポーネント(モックで可)
・ルールブック(システムのテストプレイならなくてもいいが覚えておく)
・試してみたいルール変更のリスト
・プレイヤーの行動の仮説
・映像記録機器
・おもてなしの品
※コンポーネントとは、ボードゲームを遊ぶためのカードやコマ、ボードなどです。
テストプレイの時点ではコンポーネントはモックで構いません。僕は最初期なら手書き、やや固まってきたらIllustratorなどを用いてつくったデータを印刷してトランプにくっつけるなどして用意します。
下の画像はトポロメモリー2のモックと製品版です。モックはA4用紙に印刷したものを切って、トランプと一緒にカードスリーブに入れました。製品版のカードは角丸でコンパクトサイズですが、これでとりあえず同じように遊べます。
仮に動物をテーマにするゲームをつくろうとしているのだとしても、この時点では動物のイラストは必要ありません。実際にシステムに関わる、数字の大小やカード種類の区別がつけばいいのです。
もちろん、カードに描かれたイラストそのものがゲームのシステムに大きくかかわる場合はきちんと用意する必要があります(たとえば、紛らわしい絵で間違い探しをするゲームなど)。
ルールブックはルールのテストプレイなら必須ですが、システムのテストプレイならまだなくてもよいと思います。ただ、いずれにせよテストする側はルールを頭にきちんと叩き込んで、説明できるようにしておきましょう。
そして、主にシステムのテストプレイで必要になるのが「試してみたいルール変更のリスト」です。頭のなかで構築しただけでは甲乙つけがたいルールというものは必ずあります。たとえば、ターンの最初に振るサイコロは1つがいいのか、2つがいいのかなど。事前に確率計算はできますが、実際にそのアクションに対峙したプレイヤーがどういうリアクションを取るのかは、やってみないとわかりません。
これを試すのがシステムのテストプレイの最重要項目と言えます。リストをもたずに臨むと大抵忘れるので、こればかりはプリントアウトするなどして手元におきましょう。スマホのメモ帳アプリなどだと、目に入らないから忘れがちです。
また、テストプレイにはプレイヤーがどう動くか仮説を持って臨みましょう。どのポイントでどういう行動をするのか、何を言うのかなどなど。新海誠さんみたいに感情曲線を書いておくのもいいかもしれません。
あと、映像記録機器も用意できるとグッド。スマホのビデオ機能で充分だと思います。固定用の三脚やアームなどあるともっといいです。
プレイしている要素を撮影しておくことができると、あとで見直したときに発見があるかもしれません。当然、始める前に参加者に撮影の許可を取る必要はあります。ベストなのはプレイヤーの表情や仕草が映せることですが、難しくても手元やゲーム自体は映せると良いですね。あと、地味にですがプレイ時間を計測できるのも大きいです。
そしてテストプレイヤーをもてなす品を用意しましょう。プレイ中につまめるお菓子やジュースなど。手が汚れないものがベター。
ここまで準備ができたら、友達に声をかけたりしてテストプレイ会を開催します。各種SNSで募ってみるのもいいでしょう。
テストプレイをはじめる
システムとルールでテストプレイではやり方が変わってきます。
いずれにせよ、最初は集まってくれたテストプレイヤーたちに、そのテストプレイ会の趣旨を説明しましょう。検証したいのはシステムなのかルールなのか、あるいはどちらもなのか。完成度は今のところ何%くらいなのか。期待値と要望を揃えましょう。
あと、固いお願いにはなってしまいますが、内容を人に話したり写真を撮ってSNSにアップしてもいいか・ダメかのアナウンスなども始める前にできると丁寧です。
最初はシステムのテストプレイから解説します。
システムのテストプレイの始めかた
ボードゲーム会で自分がもちこんだゲームを遊ぶのと同じように考えていいでしょう。コンポーネントを机の上に並べ、プレイを始めるのに必要な準備を整え、ルールの説明をします。そして、遊んでもらいます。遊んでいるプレイヤーたちを眺めながら、後述するチェックポイントを確認してください。併せて、プレイ後にはプレイヤーにそれを聞いてみてください。
ボードゲーム会と異なるのは、自分がプレイに混じらない方がいいという点です。プレイヤーがプレイ方法に詰まったときは、ルールに則ったやり方を教えてあげてかまいません。でも自分自身がプレイヤーになるのは勧められません。
チェックポイントを確認しながらいちプレイヤーとしてプレイをするのは難しいことですし、そもそも作り手側がプレイヤーになってはテストプレイになりません。作り手側になったが最後、我が子(つくったボードゲーム)かわいさにテストの採点が甘くなりがちだからです。また、他のプレイヤーも作り手側のプレイの様子を見てそれを真似してしまう(セオリーがあると思ってしまう)ので、望ましくありません。
とはいえ、どうしても人数が集まらなくてプレイせざるを得ないときもあるのがつらいところ。そのときは頑張って何も知らないプレイヤーならどうするかを想像してプレイしましょう。他プレイヤーにもそういうふうにプレイすることを伝えましょう。
システムのテストプレイのチェックポイント
システムのテストプレイでは下記の点に仮説を構築して臨み、チェックあるいは評価しましょう。
・プレイヤーの表情がよくなったポイント
・プレイヤーの表情が曇ったポイント
・プレイヤーが楽しんだ(盛り上がった)ポイント
・プレイヤーがつまらなかった(盛り下がった)ポイント
・プレイヤーがルールを誤解したポイント
・プレイ時間
・変更したルールがもたらした影響
見ているだけでは分からないこともあるので、可能ならプレイ後に時間をもらって話を聞くとよいでしょう。プレイ時間はビデオを撮っているならそれで確認、ないならスマホのストップウォッチ機能を使うとよいです(忘れがち)。
表情がよくなったポイントと楽しんだポイントを分けているのは、それらが異なることがあるからです。
たとえばトポロメモリーでは、本当に没入しているプレイヤーは表情がなくなっていることがあります。真剣にお目当てのカードを探して集中しているときの顔は、怒っていたり不機嫌そうに見えたりするからです。
なのでゲーム中にプレイヤーの表情が優れないように見えても、あせって「こうすると面白いです」などと伝えるのは少し待ちましょう。その人はプレイが終わった後、素潜りから戻ってきたかのように晴れやかな表情で「面白かった~!もう一回!」と言ってくれるかもしれません。
こうした行動の観察については、米光さんのnoteに詳しいです。
また、ルールのテストプレイにも共通して言える注意点を一つ。プレイヤーにはテストプレイであるということを伝えているはずですから、遊んでいる途中、遊び終わった後で様々な声があがると思います。それを聞く時に気をつけたいのが意見と感想の切り分けです。
ざっくり言うと、意見は「ゲーム内容の変更を促すアイデア」で、感想は「プレイヤーの感情の動きや印象」です。より真実に近いのは後者の感想であることが多いので、区別しましょう。さらに詳しくは下記のnoteで書いてます。
ただ、意見を否定するのはいけません。間違っていると思ったら、それを取り入れられない理由も説明できるくらいになっておけるとベスト。そこからまた議論が起こって、アイデアが生まれるかもしれません。イケてると思ったらお礼を言って取り入れましょう。
またルールの変更パターンを試してみるときは、理想的には1プレイにつき変更点は1つにしましょう。変更点が2つ以上あると、プレイの様子が変わった時に、どちらが要因になったのかの判断が難しくなるからです。ABテストと同じですね。ただ、プレイに時間がかかるゲームだとそうも言ってられないこともあると思うので、そこは様子をみてやりましょう。
時間があるなら、前回までのプレイでもらった意見や感想を反映したルールをすぐに作って試してみるのもいいと思います。すぐに実装できるのがボードゲームのいいところです。
ルールのテストプレイの始めかたとチェックポイント
システムのテストプレイとは異なり、作り手側は何も言わないのが理想的です。
コンポーネントとルールブックをプレイヤーに渡して、あとは全て任せます。それでこちらの意図どおりに遊んでもらえるかどうかを観察しましょう。
チェックポイントは下記です。システムのチェックポイントになかった物には(NEW)がついてます。
・プレイヤーの表情がよくなったポイント
・プレイヤーの表情が曇ったポイント
・プレイヤーが楽しんだ(盛り上がった)ポイント
・プレイヤーがつまらなかった(盛り下がった)ポイント
・プレイヤーがルールを誤解したポイント
・プレイ時間
・ルールブックを読むのに詰まったポイント(NEW)
・ルールブックに誤読があったポイント(NEW)
・想定した動きとズレたポイント(NEW)
・ルールブックを読むのにかかった時間(NEW)
ルールブックを渡されたプレイヤーが読みながら他のプレイヤーにルール説明する役割を担うことになるので、その人の様子を見るのがまず重要になります。
ポイントは、詰まったポイントと誤読があったポイントの区別。詰まったところは表現をすっきりすればいいですが、誤読があったところは根本的に問題がある可能性があります。本来はAをしてほしいが、この文脈だと直感的にはBをしてしまう構造になっている、など。
また、想定した動きとズレたポイントは誤っているかではなく、一種のセオリーがプレイヤーに浸透しているかどうかの判定です。口頭で慣れている人がルール説明をすれば、ちょっとしたプレイのコツなども混じえてもらえることがありますが、初めての人のルール説明でどのくらいそれがインストールされるかを見ます。プレイヤーがルールに沿っているプレイをできるかだけでなく、勝利や目的に近づくプレイができているかも楽しく遊ぶためには重要だからです。
ルールブックを読むのにかかった時間も忘れなければぜひ記録しましょう。あんまりないとは思いますが、ルールブックを読むのに20分かかるのに、ゲームのプレイ自体は5分で終わってしまった、などということがあったら考え直しが必要かもしれません。
終わった後にすること
そのような感じでテストプレイをして、終わったらまず協力してくれた人にお礼です。面白いかどうか分からないゲームに付き合ってくれるなんて、みんないい人に決まってます。ためらいなくありがとうを言いましょう。お菓子を多めに用意しておいて希望者には持ち帰ってもらっても良いでしょう。引き続き連絡が取れるようなら、完成した時にはちょっと早めにお知らせも。
それから、プレイ中に気づいたことやメモをまとめてチームに共有しましょう。先ほど挙げたチェックリストを元に箇条書きすると楽です。遅くとも終了後24時間以内にやらないと、めんどくさくなるし、忘れます。最悪でも撮影した動画をアップすることくらいはできるはず。協力してくれた方々の善意と時間を無駄にしないためにも、絶対にやってください。
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以上です。ただ、上記マニュアルはあくまで理想のテストプレイ環境が整えられたケースを想定しています。全てを忠実に遂行できたら最高ですが、僕らが見るのはゲームで遊ぶ人なので、思う通りにいくわけがありません。テストプレイって、プロトタイプが急にできて、急にやりたくなるものですしね。
大事なのはゲームを良くするためにやっているという意識と、協力してくれる方への配慮と感謝。その2つだけ忘れないように楽しんでやってもらえればと思います。あと最近のご時世を考慮すると感染対策もお忘れなく。結構熱が入って会話しちゃうこともあるので、換気しましょう。
あ、そして一番大事かもしれないことを忘れてました。テストプレイは何回もやってください。テストプレイは数回では全然足りません。一緒にプレイする人、プレイするタイミングによって、思いも寄らないアイデアや逆に落とし穴が見つかるかもしれないからです。
どこかで締め切りを設ける必要はありますが、やればやるだけ、絶対にいいゲームになります。ぜひ、たくさんテストプレイしてくださいね。
テストプレイ以外のボードゲームのつくり方が気になる方、お手伝いしてほしい方はぜひご連絡ください。
読んでいただき、ありがとうございます!