環境問題から生まれた、なぜか臭いが消える消臭剤
北海道北見市で生まれた「きえーる」。乳酸菌や酵母菌などの微生物で分解した液体を、原料に作られている菌の働きで消臭効果を発揮する不思議な液体です。わざわざでは天然成分100%の安全性や、素材を傷めずに使いやすい点、なおかつ抜群の消臭⼒を持っているところに魅力を感じ、2019年末から取り扱いを続けています。
そんな「きえーる」を作っているのが、環境大善株式会社。一体どのように作られているものなのか、代表の窪之内誠さんをわざわざの全体ミーティング(※)にお招きしお話を伺いました。
一般的に化粧品メーカーや製薬会社で作られていることが多い消臭剤ですが、環境大善とはどのような会社であるのか、会社としての取り組みについてもお尋ねします。
環境大善代表の窪之内誠さん。4月にわざわざ/問touにおいでくださいました。右はわざわざ代表の平田。
(※)全体ミーティング:
わざわざで毎週行っている全スタッフ参加の会議。アイテムの取り扱い基準の話から最近会った人、読んだ本の話まで、幅広く皆の知識にしていこうという取り組みです。お店/事務所/スタジオ/リモートとスタッフのいる場所を問わずzoom(ビデオ会議ツール)で参加し、これから入社するスタッフもこの録画を見られる仕組みで、仕事への理解を深める一因になればという思いで続けています。
きえーる誕生物語
環境大善の創業は2006年。きえーるの誕生はそれよりも前で、環境大善・創業者の窪之内覚さん(会長)が地元のホームセンターで店長を勤めていた1998年のことだったといいます。
近隣では犬を飼っている家が多く、道端のおしっこの臭いが地元の悩みの種となっていたそう。「どの消臭剤も効かない」とお客様からのクレームがあり、窪之内会長は良い消臭剤を探し続けていました。そこに酪農家の方から一つの液体が持ち込まれます。聞けば「川に流れてしまっている牛の尿を微生物で分解した液体」で、「園芸の活性剤になるから店で扱ってほしい」とのこと。
確かに園芸に使えそうだと思ったものの、冬が長く園芸時期が短い北海道では大きな収益にならない。そこで窪之内さんはその液体の臭いがしないことに注目し、「消臭に使えるかもしれない」と色々な臭いに試したところ効果を実感。ペットの糞尿をはじめ、生ごみ、排水溝、トイレの悪臭まで、理由はわからないが臭いが消えたといいます。
試していくうち、この液体は不快な臭い(有機物の腐敗臭やアンモニア臭など)にだけ反応し、例えば花本来の匂いや芳香剤などの匂いは消さないことがわかりました。
さらに、肌に触れても飲んでも問題ないことが機関による検査で判明。原液は黒に近い色だったため、色が染まる素材にも使えるように無色透明の液に加工し、ホームセンターのオリジナル商品として「きえーる」が誕生したのです。土壌再生に役立つことも研究で立証されたことで、原液は園芸用の液体たい肥「土いきかえる」として商品化されました。
その後、窪之内会長はホームセンターを定年退職。きえーるの事業を引き受けたいとオーナーに相談したところ、オーナーの勧めもあり窪之内会長は事業を引き受けることに。環境大善(当時は株式会社環境ダイゼン)の設立に至ります。
「アップサイクル型」の循環
畜産業が盛んな北見市では、家畜の牛の尿が公害の元になっていたといいます。基本的に牛の尿は畑に撒いて処理されることが多いですが、畑の微生物が処理しきれない分は、尿が分解されないまま土壌に染み込み、川に流れ込み汚染が広がってしまうのだそう。堆肥にできる糞に対して尿は使い道がなく、尿溜めに溜めておくと大雨で流れてしまうなど、酪農家にとっても厄介なものでした。
牛の尿という価値のないものに、種菌(微生物)を加え分解し無害化させ使い道を作り、結果として価値があがり、市場に回す。
環境大善ではこの処理サイクルで、きえーるをはじめとする様々な製品を作っているとのこと。し尿を資源として買い上げることで酪農家の収益となり、製造過程で廃棄物も出すことなく循環させることで、持続できる循環の仕組みに。
これを環境大善は「アップサイクル型循環システム」と名付け、循環によって皆が豊かになり、環境をより良いものにする取り組みを続けています。
環境大善では複数の酪農家から牛のし尿を仕入れているといいます。もともと害になっていたものだから無料で貰い入れることもできそうだとも思えましたが、きちんと原料として買い取ることから酪農家の信頼を得てこの事業が成立しています。対等な関係がよい循環を生み出していることが垣間見れました。酪農家により餌や飼育方法が異なるため尿の質も異なりますが、研究によって品質基準を定め、最終的にいつも同じ品質になるように気を配っているそうです。
大学や企業との共同研究を行っていることも環境大善の特徴のひとつです。きえーるから始まった技術と循環する事業をより社会に役立てていくためには、まずは地球の健康を探求しないとわからない。土、水、空気をあるべき姿に戻していこうという理念を掲げた「土、水、空気研究所」を立ち上げ、その研究成果によって、土いきかえるを高機能化させたり、消臭・土壌再生のほかに技術が役立つ分野が広がることを期待していると窪之内代表は話します。
環境問題は、共感から
現在、環境大善が資源として扱えている牛の尿量は年間600トン。素人目には非常に多く感じる量ですが、これは年間120頭分。北海道には約80万頭の乳牛がおり、環境大善がカバーできているのはまだまだほんの僅かということになります。
環境大善は今後より多くの量を扱っていくために、研究を進めるとともに、共感してくれる人や販売店をどこまで広げられるか、尿の問題と釣り合いの取れる販売力を持ちたいと窪之内代表は話します。
作る人が使う人のことを、さらにその先の環境のことまで考えられている環境大善の商品にはポリシーを感じます。ぜひお一つ、手にとってみてください。
消臭剤が生まれた話が、公害という環境問題への取り組みにつながっているとは驚きでした。消臭剤という日用品ひとつの選び方に、メーカーがどんなことに取り組んでいるか、その先の環境問題を知るという視点も加えてみてもらえたら幸いです。
Q&A
終わりに、窪之内代表がわざわざからの質問に答えてくださいました。
Q.牛の尿はどうやって集めているのですか?
A.放牧されている牛の尿を集めることはできませんが、牛舎には牛の糞尿を集める仕組みがあります。牛がお尻を向けて並んでいて、糞尿した時に尿だけが分かれて尿溜めに流れていきます。主に私たちはその仕組みで集まる尿を種菌が入っているプラントに移して、発酵させていきます。この作業は私たちも酪農家さんにとってもなるべくお金がかからない、なるべく負担にならないように工夫しています。
Q.発酵期間はどのくらいかかりますか?
A.時期によるのですが、数ヶ月ほどです。冬は微生物の働きが弱くなるので、さらに何ヶ月も待つ必要があります。ただし北見工業大学や弊社の研究により品質基準をいくつも定めていて、安定して出来上がりを見極められるようになっています。
Q.牛以外の家畜の尿も同じように利用できる可能性はありますか?
A.現在使っている微生物は、カリウムが強かったり、胃が4つあるという牛の特性に合う微生物を使っています。そのため現時点では豚などの尿に使うことはできないのですが、こういった話を頂くことも多く、研究が進めばこれから豚や鶏でも可能性がありそうです。
Q.共同研究のよい点はどんな所にありますか?
A.同じ農学でも研究機関ごとに見ている部分が全く異なり、棲み分けがあります。そのため色々な角度から事業を見ることができるし、お互いに触発されたり、足りない部分を補完しながらこの液を多角的に捉えることができます。また基礎研究だけだと成果が目に見えづらいことがありますが、研究の成果が「どれだけの牛の尿を処理したか」「どれだけ販売したか」といった結果に現れるので、互いに良い関係性で研究を進められています。
Q.きえーるは仮設トイレの消臭に使えますか?
A.仮設トイレにはかなりの効果が見込めます! 汲み取りが終わった直後に入れておくと、人の排泄物を餌にして微生物が増殖するのでしばらく効果が継続します。長野ですと、上高地の登山のところのキャンプ場や山小屋など管理されているところへ納品して、ヘリで荷揚げして届けているといった例があります。