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文化人類学がおもしろい

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わたくしコミュニケーションを専門とする博士(学術)の筆者が”複数の他者のあいだのコミュニケーションを記述すること”という切り口から文化人類学の文献を読んで行きます。 わたしは文…
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2019年8月の記事一覧

言語、生命、境界−読書メモ:中沢新一『精霊の王』×井筒俊彦『神秘哲学』

 以前書いた、中沢新一氏の『精霊の王』の読書メモnoteを、nurico様の記事でご紹介頂いた(ありがとうございます)。  「侍従成道卿と言えば、比類のない蹴鞠の名人と讃えられ…」  この一節から始まる『精霊の王』は、数ある本の中でも私が特に気に行っている一冊である。今回、nurico様に取り上げて頂いたことをきっかけに、改めて手にとって見る。すると、もう何度読んだかわからないこの本から、また、はたと、新しい気づきを与えられた。  最近ちょうど井筒俊彦先生の『神秘

生死、善悪、あらゆる対立を区切る「線」を引く -パウル・クレー『造形思考』より

神話的思考という切り口から人類に普遍的な「頭の働き方」の癖を捉えようとする試み。 そうした試みとして、ユングやレヴィ=ストロースに勝るとも劣らない独自性を発揮するのがパウル・クレーである。 パウル・クレーの『造形思考』日本語訳は、なんと文庫本で、クレーの描いた図像を大量に収録するというたいへんな代物である。 さて、読み始めるとのっけからこれである。 「二元論は二元論として扱われるのではなく、相互に補充しあう統一のなかで考えるべきである。確信はすでにできた。善と悪との同

純粋に雑種的であること−デイヴィッド・ライク著『交雑する人類』読書メモ

 デイヴィッド・ライク著『交雑する人類-古代DNAが解き明かす新サピエンス史』。  私たち一人ひとりの一つひとつの細胞に入っている遺伝子。その情報から、われわれのご先祖は、いつ、どこからやってきたのか、現在に生きる人類のルーツを解明しようという研究が盛んである。  数ある研究の中で『交雑する人類』が特におもしろいのは「古代DNA」を資料とする点にある。  古代DNAというのは古代人のDNAである。  生きている人のDANならば綿棒で口の中の粘膜をこするだけで簡単に集め

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食べられるものと食べられないもの ー3歳児の偏食を深層意味論で分析してみる

(このnoteは有料に設定していますが、全文無料でお読み頂けます) ※ 3歳半の長男が偏食である。 基本的に「白いもの」しか食べないのである。即ち、白米、パン(の白いところ)、うどん、そうめん、といった類である。 たとえば「うどん」。 麺に出汁の鰹節の小さな破片が張り付いていると、もうこれだけでもうNGである。席を立って逃げてしまう。 小さな破片というと、こども園の給食に鶏肉のソテーに胡麻がかかったものが出た時も「たべない」。困った先生が一緒になって胡麻を一粒一粒

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