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文化人類学がおもしろい

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わたくしコミュニケーションを専門とする博士(学術)の筆者が”複数の他者のあいだのコミュニケーションを記述すること”という切り口から文化人類学の文献を読んで行きます。 わたしは文…
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2018年9月の記事一覧

読書メモ:井筒俊彦『言語と呪術』(その1)

 先日の『ソウル・ハンターズ』と合わせて読みたいと思い、井筒俊彦著『言語と呪術』を入手した。  『ソウル・ハンターズ』についてはこちらのnoteでさらりと触れたが、ポイントは言葉には、論理的で科学的なものから、俗に言う迷信や呪文のようなものまで、大きく異なるモードがあり、異なるモードで言葉を使用する人の間で「翻訳」をするのは至難だ、ということである。  厄介なことに、表面的に聞いたり読んだりできる単語、形態素の相貌からは、それがどのモードにあるのかわからない。  ある単語

読書メモ:『ソウル・ハンターズ−シベリア・ユカギールのアニミズムの人類学』

 レーン・ウィラースレフ著、奥野克巳氏らの翻訳による『ソウル・ハンターズ』を読む。  まずのっけから軽快なのは、狩猟を生業とする人々のものの見方を論じ始める前に、それを論じようとしている人類学者の側のものの見方をゆさぶってみせるところである。  問に付されるのは、近代以来の西洋の科学の一分野である人類学が大前提としてその思考に持ち込みがちな「デカルト主義的」な精神と肉体の完全な区別である。  狩猟を生業とする人々は「自分は狩猟対象の動物と同じだ」と語ったり、「狩猟対象の