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パレスチナの惨状を記した 『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』に衝撃を受けた

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』という
ドキュメンタリー映画を見た。

数多くの映画賞を受賞し、米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にも
ノミネートされている作品である。

イスラエルとパレスチナ武装勢力の軍事衝突が続き、
トランプ大統領がガザ地区をリゾート化しようとしている今、
必見の映画だと思う。

以下、作品の内容を記すが、どんなに文字を重ねても
カメラが捉えた映像の衝撃を超えることはない。

舞台はパレスチナのヨルダン川西岸地区。

イスラエル人の青年ジャーナリスト、ユヴァル・アブラハームが
この地を訪れるところから物語は始まる。

ユヴァルはイスラエル人でありながら、パレスチナ人に対する
自国政府の非人道的な圧政に怒りを覚え、現地取材へやってきた。

彼はマサーフェル・ヤッタという街で同世代のパレスチナ人、
バーセル・アドラーと出会う。

ポスターなどではユヴァルとバーセルの国を超えた友情が
アピールされているのだが、映像が進むにつれて
なによりも衝撃を受けるのはイスラエル軍の無慈悲さである。

イスラエルは、ヨルダン川西岸地区に軍事施設を作るという名目で
パレスチナ人の住宅を重機で次々と破壊していく。
住民が泣いて叫ぼうが、体を張って抵抗しようがお構いなし。
母親の目の前で息子を撃ち、半身不随にすらしてしまう。

イスラエルとパレスチナの間の長年の複雑な因縁を知っていても、
その傍若無人ぶりには呆然とするばかりだ。

作中で印象的なのが、何人もの住民が真剣な眼差しで
スマホを操作する場面。
彼らはFacebookやSNSを駆使して、自分たちの惨状を
世界へと発信しているのである。

2019年に出版された『140字の戦争』では、
ガザで暮らす16歳の少女がツイッターを使ってパレスチナ支持の世論を
作り出した事例が紹介されている。

2011年にエジプト市民が独裁政権の打倒に成功した陰には、
Facebookを通じた大衆の連帯があった。

バーセルたちもその成功体験を知っているからこそ、
必死の覚悟でイスラエル兵士の暴虐を撮影し、発信しているのだろう。

荒れ果てた街の中で煌々と輝くスマホの画面は、
彼らにとっての希望の光にも見える。

Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグを始め、
彼らの抵抗を支えるビッグテック産業に
ユダヤ系の人々が多く関わっているのは皮肉でもあるけれど。

イスラエルとパレスチナの運命がここから
どう転がっていくかは予想しがたい。

それでも、泥沼化した両国の今後を考えるうえで、
この作品を見ているかどうかは大きな違いを生むと思う。

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