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宮崎県の火車伝承

火車は、悪行を積み重ねた末に死んだ者の亡骸を奪うとされる日本の妖怪である。

宮崎県の火車の伝承としては、怪異・妖怪伝承データベースには9例が取りあげられている。

なかでも詳細に報告されているのが、田中熊雄『宮崎県庶民生活誌』(日向民俗学会事務局、1981年)である。その該当箇所を引用する。

亡くなった際に、通夜(夜とぎ)は死者の番(守衛)をすることでもあった。誰か遺骸の側にいなければ火車が遺骸を盗みに来るともいった(①五ヶ瀬町・⑤西都市三宅)

葬列の死者奪い 生前悪事をした亡者が地獄に墜ちていくとき迎える車は獄卒が罪人を苛責しながら地獄に運ぶために用いた猛火の燃えさかる車で火車といった。悪人を死後苛責する道具であるから、火車単独行動はありえない。獄卒の使役によるものであるが、民間では火車が単独行動を亡者に振る舞うものと伝え信じられている。

根性の悪い人の葬式(オクリ)のとき、晴天であったのが俄に大時化となり、棺の上にカシャが上から飛んできて、死骸を奪おうとしたとき、参列の僧侶は高徳の人であったため、棺上に跨がり払子(ほっす)で火車を打ったので退散した。そして天気は元通りになった。(西都市山財)

火車(猫の出世して魔物になったもの)は葬列に際し大時化を発生させ棺を吹き飛ばして、死骸を奪おうとしたが、不成功だったという説話である。

 火車の被害を避けるための天蓋と、それに描かれる蛇や龍の力を信じていた。死者が葬列の途中奪われたという伝承が本庄にある。死体を奪う火車の存在が裏付けられている(①五ヶ瀬町)。明治初めのころ瓜生野の柏田では、ある女の人の死体を火車が葬列から奪ったという話が伝えられている(⑭国富町本庄)

(田中熊雄『宮崎県庶民生活誌』日向民俗学会事務局、1981年)

令和6年8月28日から29日にかけて多くの竜巻が発生して大きな被害をもたらしたが、そこで初めて、宮崎県が竜巻の多い県であることを知った。

竜巻や突風に関係する民俗伝承がないか思い浮かべたときに「火車」の話を思い出したので、ここに紹介した次第である。

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