家族写真アーカイブのすすめ 渡辺一弘
『宮崎市の100年』の巻頭言の草稿を公開します。最終稿は刊行本を御覧下さい。
家族写真アーカイブのすすめ
渡辺一弘
令和六年は宮崎市制一〇〇年という節目である。大正十三年(一九二四)年に宮崎町・大淀町・大宮村が合併し、宮崎市が発足。平成十八年(二〇〇六)に田野町・佐土原町・高岡町を編入、平成二十二年(二〇一〇)に 清武町を編入した。これまでも宮崎市の写真集が刊行されたが、今回は新制宮崎市域を網羅しているという点で貴重な構成となっている。
さらに家族アルバムを中心に収集したのもこれまでの宮崎市の写真集には無かった手法である。行政記録、観光用写真やプロカメラマンの作品などと違い、何気ない一コマ一コマに思いがけない当時の日常、当たり前の風景がそこにはある。図らずも映り込んだ建物や風景、人物などには多くの情報が残され、貴重な歴史資料となっている。多くの声が寄せられた一方、タッチの差で廃棄されてしまったという例もあった。写真を趣味にしていた方のお宅には数十冊のアルバムが遺されていた。家族アルバムからの収集ということで、多くの方々からの情報提供によるところが多く、約八〇〇〇枚の写真が集まった。なかでも『宮崎街知本(まっちぼん)』の編集者山田章雄氏の情報量と人脈無しには成立し得なかった。
意図的にテーマを以て収集したのではなく、集まった膨大な写真群のなかから宮崎市ならではのテーマを洗い出し、章立てやコラムを設定した。
写真アーカイブの難しさはここからである。アルバムに詳細の情報が記入されている場合もあれば、まったくメモのない写真もある。さらに所蔵者からの聞き取りをもとにその写真の背景を探る。若手の執筆陣には記憶のない写真がほとんどであった。様々な文献も頼りであったが、国会図書館デジタルコレクションや宮崎日日新聞社の過去の新聞アーカイブなどが近年充実しており、誰でも気軽に利用できる。
この写真集を通して、膨大な写真から抜粋した約六〇〇点を御覧いただくが、おそらく、こんな写真ならうちにもあると、自宅の押し入れに仕舞っていたアルバムを引っ張り出してもらえると嬉しい限りである。それらのアルバムや写真は庶民の歴史・民俗の資料であることを再認識していただき、ぜひ各自で「家族写真アーカイブ」を始めていただきたい。市政一〇〇年を記念した宮崎市史編さんの一五年計画が示され、さらに「宮崎市フォトアーカイブ」では写真を募集している。個人によるSNSなどによる発信などを期待している。
末尾ながら短期間の写真収集、編集作業、調査、執筆等に関わった樹林舎ならびに関係者の方々に感謝致します。
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