風邪
風邪をひいてしまった。鼻の奥から喉にかけての痛み、止まらない咳、それらに伴う鼻水と痰、38度を超える発熱がある。30手前にして、身体が弱くなった気がする。二十歳前後のころは、全く風邪をひかなかった。高校生の時も、1日だけ寝坊して皆勤賞を逃してしまったが、それ以外は休むことはなかった。それくらい風邪とは縁がなかった。大学生になっても、精神面では病的だったものの、肉体面では健康そのものであった。高熱を出すような風邪は大学生活全体を通して1回だけしか経験していない。健康診断でもすべてが適正値で、自分は病気とは縁がないものと思っていた。
身体が弱くなったと感じるようになったのはここ3年くらいである。関係があるのか分からないが、ちょうど無職になった頃と一致する。
病気とは縁がないものと思っていた僕は、ひきこもりになってからは毎シーズン重い風邪をひくようになってしまった。加齢のためだろうかとも思うが、僕は精神面の衰えが影響しているように思えてならない。心が弱っている時は肉体も弱ってしまうということだ。
実際のところ、もともと僕は幼い頃は病弱で、毎週のように病院に通っていた。毎週のように高熱を出し、たくさんの風邪薬が処方されていた。健康を謳歌していたのは、実質高校と大学の数年間だけなのだ。どれくらい病弱であったかというと、中学受験の時の面接で「出席日数が少ないようですが、なぜそんなに少ないのですか?」と尋ねられたくらいだ。中学に上がっても病弱の傾向は変わらず、出席日数ギリギリだったことを覚えている。先生からも出席日数に気をつけるように注意された。
これだけ病弱な僕であるが、インフルエンザにはかかったことがない。予防接種を一応受けている効果もあるかもしれないが、インフルエンザにもともと強い身体なのかも知れない。しかし、高熱を出す風邪ばかりひくのだから、あまりその恩恵を感じない。
昨年頃から、風邪の症状が変わった気がする。以前であれば風邪といったら鼻水、くしゃみ、熱症状であったのだが、ここのところ、気管支が弱くなったように感じる。咳が特に酷いのだ。2週間くらい咳が止まらず、胸が苦しい。これは太ったことが原因ではないかと推測している。太ったことで、寝る時口呼吸になり、ウイルスが肺の方まで侵入してくるのではないか。そう思っている。太ってからというもの、いびきは酷くなり、朝起きると大量の痰が出るようになったからだ。以前はそんなことはなかった。
いずれにしても、30手前にして、身体が弱くなったことは、将来に対する不安を掻き立てる。病弱な身体で仕事をしなければいけないのか、そう思うと気が滅入るのだ。
風邪薬のCMでは「風邪をひいても休めないあなたに!」のようなキャッチフレーズがしばしば流れるが、その薬を片時も手離すことができず、風邪症状に耐えながら毎日仕事をする姿を想像するだけで、仕事をするのが怖くなる。
一方で、鬱より風邪の方がマシとも思っている。「鬱は心の風邪」などと言われることがある。鬱を何度も経験している身からすれば、「風邪」の例えは軽すぎると思うのだ。それどころか、風邪をひくとうつ症状が緩和されて活動的になる気がする。
風邪の熱症状や体の痛み、鼻水、咳、痰などは確かに厄介だが、それらで身体が動かなくて辛い状態にはならない。今ひいている風邪も38度の熱が出て、咳もひどく、身体の節々が痛いのだが、うつで何もやる気が出ない、身体を動かすことができない、そんな状態の時と比べると、かなり楽ではある。
週末に東京に行く用事があったのだが、風邪をひいてしまったので色んな予定をキャンセルせざる負えなかった。これは風邪でしんどいからではない。会う人に風邪をうつしたくないからだ。「元気さ」で言えば、普段より元気なくらいである。だから余計に苦々しい思いがある。
いずれにしても、精神の健康、肉体の健康、どちらも失ってしまい、これからの人生が更にハードになるかと思うと憂鬱な気分になるのだ。
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