告白
小学校1年生から高校を卒業するまで、私にはひとりのパートナーのような友達がいた。
名前が似ていて、誕生日も近く、新学期の最初は席順が出席番号順になっていたので、同じクラスになると必ず席は前後に並ぶことになった。
当然のように仲良くなり、土曜日に昼で授業が終わるとそのまま彼女の家に行き、昼ご飯を頂いたりした。私の家は共働きで誰もいなかったせいもあり、彼女のお母さんにも大変お世話になった。
ところが私にとって、彼女は心からの親友というわけでは無かった。
むしろそれは、酷い言い方ではあるのだが「目の上のたんこぶ」的な存在であった。そんな風に思い始めたのはキッカケがある。
彼女には盗癖があったのだ。
彼女が我が家に来た後に何かが無くなり、それが彼女の家にある。それは漫画本とか集めていた古い切手帳とか大したものではないのだが、私はイタズラ書きをしたりシールを貼ったりするので、同じものはあり得ないからすぐに分かる。
しかし私はそれを追求できず、悶々としたまま友達関係は続いた。
彼女はいつも私を見ていた。
私と色違いの服を着て、私と色違いのバッグを持ち、私と色違いのペンケースを買う。
いつもいつも後から私に合わせて来る。
そして私と同じ人を好きになる。
彼女はスラっとした体型で運動神経が抜群で、サラサラの茶髪に白い肌で笑うとエクボが出来る。絵に描いたようなモテ女タイプで、実際男子生徒には人気があった。逆に私はと言えば、暗い顔立ちでずんぐりした体型、およそモテそうにない、鈍臭く地味な存在であった。
それなのにまるで私が認めた相手しか価値がないかのように、彼女は私の後を追う。
私より成績も良かったのに、たくさんある中から私と同じ高校を選び、同じ部に入り、同じ人を好きになる。いつも私が先で彼女が追う。
ある時、2人で好きになった男子生徒が彼女に告白をし、めでたく交際することになった。その時、彼女は泣きながら私に謝った。
なぜ?
なぜ謝られなきゃならないのだろう?
「あなたの方が前から好きだったのに・・・」
私は素っ気ない態度を取った。
もちろん悔しい気持ちもあったのだけれど、その時に私が感じていたのは、やっとこの関係から解放されるという安堵だった。
同じ人を好きになることは、もうおそらく2度とない。
ここで別の道を行かなければと思った。気を利かせるフリをしながら、私はさりげなく彼女を避けた。
その後、私と彼女はクラスが離れ、顔を合わせる機会も減ったせいか自然と似てなくなった。
私といた時はどこか自信なさげだった彼女は、その後たくさんの友達に囲まれ、楽しい高校生活を送ったのだと思う。
そして高校を卒業した後は偶然会ったことを除けば、会うこともなくなった。その後、彼女は別の人と結婚して、子供を産み、幸せに暮らしていると聞いた。
あれはなんだったのだろう。
私たちは全く違う性格で、全く違う価値観で、共通するものなど無かったかのようだ。
彼女にとって私は何だったのだろうか。
私にとって彼女は影だった。
いや、影は私かもしれない。
私の目には彼女は輝いて見えていたのだ。
特に私と離れてからの彼女は明るく素直な世界にいるように見えた。
まるで憑き物が落ちたかのように。
人間関係は不思議なものだ。
好きだからそばにいるとは限らない。
気が合うから仲良くなるとは限らない。
それでも私のそばにはいつも彼女がいた。
会わなくなった今でも時々思い出す。
彼女は今も私の心の中にいる。
しかし彼女の心の中に私はいるだろうか?
私は影。
その暗さに気付いていただろうか?
2人で学校をサボった。
どちらからともなくだが、味をしめて何度もサボった。そして2人でサボっていても、先生に呼び出されるのは私だけだった。
全校生徒の前でひとり説教を食らい、身に覚えのない噂が校内に広まった。
上級生に呼び出されるのも私だけだった。
周りの人の目が変わった。
先生たちの目も変わった。
私の方が悪で強くて暗いと思ったのだろう。悪になったつもりはなかったが、強いと言うのはあながち間違っていないのかもしれない。
どちらが引っ張っているのかという磁力。
それは確かに私の方が強かった。
特に何をしたわけでもない。
ただ、暗く濃い影のような磁力を持っている。そしてそれは誰のせいでもなく、自分に与えられた役割のように感じている。
だから誰に対しても深く入り込まない。
誰かに近付き過ぎてはいけない。
それは相手のためだけではなく、自分が誰かの闇を吸い込んでしまうような気がしてならないからだ。
私は影。
今も冷たい地面から離れることが出来ないでいる。