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『透明性』 マルク デュガン (著), 中島 さおり (翻訳)。2068年、「不死の技術」革命が、人類の様々な課題に、どうインパクトを与えるのか。政治経済だけでなく、文学や芸術や宗教など「繊細な精神」への視点からの考察が興味深い。

透明性 (日本語) 単行本 – 2020/10/15マルク デュガン (著), 中島 さおり (翻訳)

Amazon内容紹介

人類はもう終わるだろう。そこから、私の革命が始まる。
自国第一主義による地球温暖化は終局を迎え、人類の生存域が北欧地域に限られた2060年代。グーグルによる個人データの完全な可視化は、人間から共感という能力を失わせていた。そんななか、アイスランドで暮らすトランスパランス(透明性)社の元社長が、個人データを人工的な体に移植し、不老不死を可能とする“エンドレス・プログラム"の準備を進めていた。それは、“考えること"を放棄した人類への最後の抵抗にして、ささやかな願いだった―仏のドゥ・マゴ賞受賞作家が放つ、この現在の先にある、不可避な未来への警告。

ここから僕の感想。

 人類が不死に向けて、予想以上の速さで向かっていることについて、僕はいくつかnoteを書いてきた。興味ある方は、下記のリンクを参照ください。

第7回 「不死」への憧れ、テクノロジーと人間」(死についても不死についても、人間の意識についても、考えない日本人について)BS1スペシャル「欲望の資本主義2020スピンオフ ジャック・アタリ大いに語る」を7つのテーマに分解・解説 最終回

「20年後までに、人間の意識を機械にアップロードせよ」 東大発スタートアップは「不死」の世界を目指す」というWIRED.の記事を読んで。

 ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『ホモ・デウス』も、人類の進化について書かれた本だ。この小説では「トランス・ヒューマニズム」という言葉で、「不死」または「人類を超えて人類を進化させる」テクノロジーの進化を呼んでいる。

 しかし、僕が繰り返し、このテーマについて書いても、多くの友人の反応が鈍い。あまり切迫した危機感も。自分事としての期待もいだいていない。「別に、永遠に生きたくないし」という、反応。いや、そんな単純な話じゃないのだがと、僕が繰り返し書いても、反応が薄い。

 そういう人にも、この問題がどのような性質のものなのか、どういうインパクトの広がりを持つのか、を理解させる、という意味では、今まで読んだこのテーマを巡る本の中では、いちばん優れている思う。

 というのは、「不死へのアプローチ」と、人類が、今、現在、直面している危機(といっても、コロナ前の作品なのではあるが)の関係というものが、どういうことなのか、網羅的に、説得力あるストーリーとして展開されているからだ。

この本で扱われている、2020年現在の危機というのは

 ①地球温暖化 ②それを放置加速させたトランプ政権、ポピュリズムのその後 ③Googleはじめとする、国家を超えたグローバル企業、その個人情報の収集 ④モンサントはじめとするグローバル・バイオ企業による環境破壊 ⑤宗教 キリスト教も、イスラム教も含め。カトリックの問題から、原理主義まで。 ⑥強欲なグローバル・資本主義。などなど。

 これらの人類の直面している課題が、小説の舞台となる2065年までに、どのような展開をしていて、そこに不死の技術が、どのようなインパクトを与えうるのか。そのひとつのシナリオとして説得力がある。

 加えて、この技術を開発した主人公の父親が小説家である、という設定から、このような人類の進化と、「文学」「本を読む」ということの関係についての思索も折々展開されており、この点も「文学とか読書について考える小説」として、面白い。

 終盤、何重にも錯綜があり、小説としての読後感は微妙なものになるが、そうであっても、この本の「トランスヒューマニズム問題啓蒙本」としての価値は、損なわれていないと思う。壮大なテーマのわりに、薄くて、すぐ読めます。そこもいいところ。



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