見出し画像

本の紹介だけれど、スポーツの話。北京五輪、羽生結弦選手の北京五輪を見ていて内村航平選手を思い、野村忠弘さんを思い、そしてイチローさんだけなんでひどい怪我や故障をしないで選手生活を終えられたのかと考えていて思い出した初動負荷理論『「奇跡」のトレーニング』小山 裕史 (著)

『「奇跡」のトレーニング』 小山 裕史 (著) 

 まずは、ちょいと長いけれど、Facebookに書いた、男子シングル フィギュアスケートの観戦感想。

 昨日は、僕は、ほんとうに、サッカーやラグビーや柔道やボクシングとおなじくらい、フィギュアスケートという競技が好きなんだなあと、改めて思った。昨日ほど、たくさんの競技者それぞれにとって「いい試合だった。最高でした。よかったなあ」と思ったことはない。


 印象に残った選手を登場した順に何人か、おそらく10人近くになると思うのだが、挙げていく。


 まず、22位のメキシコ、ドノバン・カリーヨ選手。メキシコ人フィギュア選手を初めて意識したのだが、軽量級のボクサーのような身のこなし、とても、楽しそうに滑る、跳ぶ。なんか「柔道の世界大会に、南洋の小さな国や、アフリカの小国の選手が参加してくれて、柔道が世界の隅々まで広がって愛されているのが嬉しい」というような感動があった。


 第三グループ一人目の、イタリア、ダニエル・グラスル選手。次の冬季五輪はミラノ。そのときの地元期待の星。19歳。難易度の高い4回転やそのコンビネーションを、何種類も成功させた。技術点は羽生結弦選手より高かった。ものすごく「王子様」感のある容姿。覚えておくべき。演技構成点は伸びず7位だったが、伸び代は大きい。


 このグループ二人目の中国、ボーヤン・ジン(金博洋)選手。地元の期待を一身に背負い、重圧に耐え、渾身の演技をした。最後のステップシーケンスのところては、もう、気合いが、表情にも動作にも丸出しになっていて、どれほどつらかったのだろうと思うと、胸が詰まった。NHKのアナも解説も、同じように感じたようだった。演技後、やりきった、出しきったという様子で、泣いていた。9位だったが、立派だった。


 そのつぎに滑ったフランスのケビン・エイモス選手は、ショートのほうが良かったな。(曲がショートは僕の好きなプリンスだったせいもあるが。)この人も、次のミラノで活躍すると思います。我が家では「四回転が飛べる、フランスのネクスト・ジェイソンくん」とキャッチフレーズ、あだ名がつけられました。


 カナダのキーガン・メッシング選手は30才のベテラン。今回はPCR検査が間に合わないで出場が危ぶまれるというトラブルで、競技前日に入国。ということもさることながら、羽生結弦より年長、4回転もトゥループとサルコしか跳ばないのも羽生世代。その代わあらゆる要素が練り込まれていて、「世代交代五輪」となった今大会の「去り行く側」のベテランの味わいを感じさせた。なんといっても我が家では勝手に「カナダの織田くん」(二人とも、チャップリンテーマの、コミカル振り付けをかつてしていた)と呼んでいて、そういう世代のイメージで見てしまうのである。


 第4グループのジェイソン・ブラウンくん。とにかく大好き。ルール、採点基準によってはこの人、優勝でいい。うちの妻も「荒川静香が優勝したときのような、ジャンプなど技術難易度より、スケーティングの美しさと芸術性を重視するルールなら、ジェイソンくん、優勝」と言っていた。美しいにもほどがある。ほんとうに大好き。4回転なしで、羽生選手と、わずか2点差の六位。


 今回、初めて、意識したのがジョージアのクビテラシビリ選手。この長身(180cm)、長い手足で4回転をちゃんと何種類も跳ぶの、すごいよなあ。ものすごく難しいことだと思う。ほぼ「アジア系おちびさん」のスポーツになっている男子シングルのフィギュアの世界で、「君は長身だから、シングルは無理、ペアかアイスダンスにしなさい」なんてコーチに言われても「いや、僕はジャンプ、四回転、跳べます」って意地になってがんばった、みたいなことを、妻と勝手にエピソードを想像しながら「イイネ、この人」と言い合いながら見た。ただ、ジェイソンくんの直後の演技だったので、ダンサーとして見ると、長い手足をやや遠慮気味にこじんまり動かしているのが、なんだか、ちょっと、恥ずかしがっているようで、可愛らしかった。


 韓国、チャ・ジュンファン選手。羽生結弦くんに憧れて同門、チームに加わった幼い少年、というイメージだったのが、すっかり青年の顔になって、「羽生さんがあれだけ、ミスしたのであれば、今回は羽生さんを抜くぞ」というような、気合いが入った演技をしていたの後、印象的でした。羽生選手とわずか0.83点差の五位。惜しかった。


 暫定上位三人が座って待つソファーで、ジェイソンくんやジュンファンくんが羽生選手と並んで楽しそうにしているの、なんか、とてもよかったなあ。羽生選手が、第三グループ五番目滑走でトップになり、最後、日本人三人で座るまで、ずっと長い時間、いろんな選手と並んで楽しそうにしていた。今まではどんな試合でも羽生選手は最終グループの最後のほうで滑ることが多かったから、こういう感じ、初めてだったと思う。


ここからは、上位四人について。


 宇野選手、鍵山選手とお父さん、ネイサン・チェン選手、それぞれが、出しきった、やりきった幸せそうな顔をしていて、心から良かったなあ。鍵山選手のお父さんの表情見ていたら、また、泣けてきた。もう本当に「パァー~」って、視界周辺が真っ白になるくらい、天国にいるような幸福感のなかにいるのが、わかるもん。あれ、不思議なもので、自分のことじゃなく、子どもが大活躍したときの、天国にいるような親のふわふわした気持ち。いろいろ思い出してしまいました。


 ネイサン・チェン選手の、立派としか言い様のない演技と、達成感と解放感と安堵の入り交じった表情と。妻と二人で、何度も「ほんとによかったね」と言い合いました。イェール大学に学業復帰して、お医者さんを目指すのかな。やはり医師の道に進んだラグビーの福岡選手と同様の「前向きで合理的で、意志が強く自信に満ちたキャラクター」を感じる。妻(内科のお医者さん)は、「ネイサン・チェンは、外科のお医者さんになると思う。絶対ミスしないという自信と気迫が態度として伝わるから。患者さんに痛いことを具体的にするのが外科のお医者さんだから、そうじゃないと務まらないから。」だそうだ。なるほど。


 宇野選手が、いちばん難しいこれから数年を過ごすことになるのだよな。それを運命として受け入れようという決意の表情だったよね。がんばれ。


 羽生選手については、東京五輪の内村航平選手といろいろと重なるものがあり、六分間練習で繰り返し転ぶところから、演技も、ソファで待つ間も、試合後のインタビューも、どれも、なんと言えない気持ちになった。


 本当に出来ること、努力をやり尽くしても、その競技の歴史の中でも空前絶後の伝説的実績を残しても、世代交代の中で、傷んだ肉体が努力に応えるのが難しくなって限界にきているのだよな。羽生選手も内村航平選手も、努力をするのはいくらでもメンタルも生活の習慣としてもできてしまうのだけれど、肉体のパーツが限界を迎えているのだと思う。(羽生選手の、足首靭帯は、おそらくジャンプ着地には、もう、ある種類のジャンプでは、耐えられないのだと思う。)


 潔くありたいと思っても、悔しさが滲み出てしまう。追い抜かれる立場の「伝説の存在」としての振るまいかたの難しさ。うん、本当に、内村航平選手といろいろなことが重なって見えた。とても人間らしかった。


 五輪という舞台で、ちゃんと追い越される、ちゃんと負ける。伝説の選手だって、負けたら悔しいし、カッコつけようとしてもどこかカッコ悪くなる。吉田沙保里選手もそうだったけれど、内村航平選手と羽生選手、とても素晴らしい「伝説の選手」の、人間らしい負けかたをしてみせてくれたと思う。
 みんな、すごく良かった。

で、ここからが今日、思い出した初動負荷理論の本の話。


 一昨日、羽生結弦選手の足首靭帯は、きっともう、高難易度のジャンプ着地には耐えられないくらい傷んでいるのだろうなあ、と書いた。


 足首というのは「脚部分」と「足部分」を、たしか五本くらいの靭帯でつないで安定させる構造になっているのだが。私の子供の1人は、かなり激しくこどもの頃からスポーツをした結果、高校生になって、やたら足首をすぐにひどく捻挫するようになった。高校二年のときにスポーツ整形専門医でMRIを撮ったら「靭帯五本のうち四本が切れて退縮してしまっています。ぶらぶら状態ですよ」ということで、スポーツをするときには、ガンダムの足みたいな装具をつけて高校二年三年時はプレーをしていた。本格的に治すには腱の移植手術しかないと言われた。


 きっと羽生選手の足首は、うちの息子みたいなことが起きているのだろうと想像してしまう。しかし、アイススケートだと装具もつけられないだろうし、足首の柔らかい動きが命、みたいなスポーツだから、手術で腱の移植とかをしたら選手生命終わるのだろう。


 内村航平選手も、東京五輪に臨むときは満身創痍になり、「得意だから」というだけでなく「いちばん肉体的にまだやれる」鉄棒に専念したのだと思う。


 五輪三連覇を成し遂げた野村忠宏さんも、全身各所がもうすべてひどく傷んでいて、数年前のNHKのドキュメンタリーで阿部一二三選手に指導するというときにも、全身各所をガチガチにテーピングしないと、「指導、乱取り」のレベルであっても、柔道は出来ない状態になっている。


 というトップ選手に限らず、ある程度本気でスポーツに取り組んだ人は、どこかの靭帯や関節に、かなりひどい損傷を抱えている。僕も右手の中指と左手の親指の靭帯は伸びちゃっていて、はずみで逆に曲がるとしばらく痛くて悶絶するし、右膝は靭帯が伸びるか部分断裂するかしたのを放置してしまったので、今は全く走れない。ちょっと走ろうとすると。すぐに膝が逆に入りそうになって激痛で動けなくなる。


 そういう中で、野球のイチローさんは、本当に長期間、肉体を健康に維持し続けた人だと思う。関節や靭帯が、現役最後まで健全だったように思う。「動体視力」とか「反射神経」みたいな部分の老化から、成績がやや落ちたので、引退をしたのではないかと、勝手に想像している。


 というようなことを考えていて、思い出した本がある。「初動負荷トレーニング」ということについての本。

『「奇跡」のトレーニング』 単行本 – 2004/1/11
小山 裕史 (著) 


 イチローさんは、わりと若いときに、この人に出会って、普通の「筋肉もりもりになるようなウエイトトレーニング」は一切しないで、「初動負荷トレーニング」だけをし続けたはず。このトレーニングだと、関節、靭帯への負荷がものすごく小さい。


 一般的ウェイトトレーニングは、フリーウェイトのものも、そうでないものや、ばねやゴムベルトのものも、「動作の初めから終わりまで同じ負荷がかかる」=終動負荷。筋肉量を増やすという目的でのウェイトトレーニングだと、行って帰るの、帰りにまで負荷をかけることもある。しかし、スポーツパフォーマンスを高めるには、こういうトレーニングはすべてマイナス。運動能力を下げるし、怪我も増やす、というのが、この本の著者、小山さんの理論なのだよね。


 スポーツの動作は初めの動き出しに「ツン」と強い力が出て、そのあとは力を入れずにスーっと動くのが理想。また、動かす筋肉の反対側の対抗筋が力むと「アクセルとブレーキ同時に踏む」状態になるから、それもパフォーマンスを低下させるし、怪我を増やす。この「動き出しだけ力が必要で、あとは力を抜いて動作をする」という初動負荷で鍛えるための理論を確立し、そのための方法やマシーンを開発したのが、著者の小山さん。


 全国各地に、「初動負荷トレーニング」のジムもあるのだよな。たしか町田にもあったはず。


 今朝NHKで再放送していた、アイススケート高木美帆選手のスケーティングの特徴「蹴る一瞬だけ力加える」能力の高さ、というのも、この「初動負荷」に考え方としては似ているなあ、と思った。


 僕の友人たちの、還暦ちかくなって、スポーツ、トレーニングに熱心な友人たちにも一読をお勧めしたいし、自身の怪我予防もそうだけれど、お子さんに本格的にスポーツをさせる人にも、知ってほしい理論。イチロー選手だけが、故障とほぼ無縁で、引退後の今、全国の高校に指導に行っても、いまだに投げる、打つ、走る、全部、現役時代のようなパフォーマンスを維持しているのは、この初動負荷理論とトレーニングも、ひとつの要因だと思います。
 



いいなと思ったら応援しよう!