Facebookに藤井聡太八冠の強さの分析長文を書いたら、パソコン落ちてもうすぐ書き終えるところで全部消えてしまった。ので書き直した。もうすこし初めはうまく書けていたような気がする。
初めの投稿
藤井聡太八冠の強さについて、超長文の分析考察を書いていて、あと少しで書き上げるというところで、パソコンが飛んですべて消えてしまった。ショック。立ち直れない。
二度目の投稿
いや、立ち直った。
長く書いたのを改めて要約すると、
①現在、藤井八冠とほぼ毎局、互角に近い勝負ができるのは、永瀬王座だけである。何局かに一局ならそうなるのは豊島九段、羽生九段、佐々木七段である。三局に一局くらいしかそうならないのでこの方たちだと、タイトル五番勝負、七番勝負でタイトル奪取するのは難しい。
ちなみに豊島九段は、藤井さんデビュー当初は七勝0敗と一人だけ藤井さんに負けなしだったが、その後叡王、竜王を藤井聡太八冠に取られ、王位挑戦で退けられ、タイトル戦でコテンパンにされて無冠となった。しかしこの王座戦挑戦者決定戦でも互角の接戦となり、復活のきざしである。
佐々木七段は、今年、棋聖戦、王位戦と連続して藤井さんに挑戦し、一勝しかできなかったものの、半数程度の対局では中盤終わりまでリードを保つ、という戦いをした。
②トップ棋士なのに藤井八冠に著しく分が悪い(単に勝敗だけでなく、将棋の中身も、たくさん戦うほどに差が開いてきた。)のは渡辺九段(名人、棋王、王将を取られて丸裸にされた。)である。
互角に戦えている永瀬王座、何局に一局かはいい勝負になる豊島九段、羽生九段、佐々木大地七段、非常に不利になっている渡辺九段を比較しながら、藤井八冠の強さの秘密に迫る。
という内容だったのである。そもそも書いたきっかけは、Facebook友人のそのまた友人に高田さんと言う万能の天才がいて、(医師・医学者にしてソフトウェア開発者)、その方が
「藤井聡太、すごいんだけれど、素人目には、他のトップ棋士と比べると実力は僅差と言う気がするんよな。そのわずかな差が、大きな勝率の差に結びついているんだろうけれど。
たぶん、大谷翔平も、そうなんじゃないかと思う。」
と投稿していて、うんそうなんだよな。そのわずかな差ってなんだろう、と考えたわけだ。
高田さんも「トップ棋士とは」と書いている通り、トップ棋士じゃない若手や中堅や高齢棋士なんかが藤井聡太八冠と対局すると、トラウマになるんじゃないかレベルの一方的内容になることが多い。
ちなみにそのレベルで格下棋士に圧倒的に強いのも、永瀬王座はそうである。
この二人、AIソフトを使った序盤研究の深さが、他の棋士とは違うのだと思う。序盤研究の大変さについて渡辺明九段が語ったYouTube動画というのがあり、どの分岐をどこまで追いかけるか、やりだすときりがないが、とはいえやめちゃって実戦で「その先やっていない」となることもあるし、ということである。どこまで準備しても終わりがない。昔の棋士と較べると勉強しなければいけない、つまりはAIで研究しなければいけない量が果てしない。ということを語っていた。渡辺九段は頭の明晰さでは現在でも群を抜いており、AIを使わなくてぱーっと先まで分かるところまで分かる能力は圧倒的である。木村九段もそういうところがある。論理的に明晰でぱーっと先まで見えてしまう棋士、他にも糸谷八段とか、そういう人にとっては地道なAIによる序盤研究というのは、苦痛だったりするのではないかなあ、と思う。この手の頭脳明晰、早見えタイプの天才、というのが、藤井八冠にはえらく分が悪い印象がある。
序盤研究と言うと「暗記だろ」みたいなことを言うAbemeコメント欄のバカ者たちがいるのだが、たしかに永瀬九段などは研究範囲は全く時間を使わず恐ろしいスピードで序盤を進めていく。あれを見るとすごい暗記力と思うのも仕方がないが、序盤研究のキモはそこではない。
人間の、自分の第一感で見える手とAIが違う。それはどういう先の状況の形勢を見ているからなのか。その差分を蓄積する。それは一手ごとの記憶としてではなく、ある量になると感覚的、暗黙知的に「自分に見えやすい手」と「AIが指示する最善手」の差分パターンとして蓄積していく。さらにそれは、その先の「自分が想定する数十手先」とAIが見る数十手先の違いとして蓄積されていく。細い一本の正解と他の悪手それに紐づく不利な形勢という未来と、何を選んでもまずまず有利という未来は、人間的には全然違うが、AIは「細い必勝形」につながる手を最善手と推奨したりする。つまりAIによる序盤研究には単にこのときはこれを指すみたいなことではなく、各分岐の先にある、違う景色があり、どの景色に相手を連れていくのかというイメージとして蓄積されていくのである。
この序盤研究の深さと、その蓄積による「AIと自分の手の差分の感覚」とか「選択する手による未来の景色の感覚」とか、それが藤井聡太八冠と永瀬王座は極めて高いレベルに達している。豊島九段、佐々木七段もそうである。羽生九段は50代近い年齢になり本格的にAI研究に取り組んで試行錯誤を重ね、昨年あたりからようやくその勘所を会得して、一時の不調を抜け出し、再び最先端将棋のトップ集団の1人に復活した。
人間的にあまりに明晰で早見えである渡辺九段や糸谷八段が藤井八冠を苦手とし、地道な序盤研究にひたすら打ち込むタイプの永瀬王座や豊島九段、そしてそれに追いついた羽生九段が藤井八冠に肉薄しているのは、そういうことなのだと思う。
永瀬九段はAbemeで藤井八冠のタイトル戦解説に出てきたときなど「なんとなく藤井さんはこういう手を指しそう」と言って、何度も難しい局面の次の一手を当てていた。これと同じように、藤井八冠はじめごく少数のトップ棋士は、いくつかある選択肢の中で「AIはこれを最善手として示しそうで、それはこういう理由からだが、人間的にはこの選択肢の方が、何手先のここで相手が間違えやすそうだ」みたいなことを、ほぼ直観と呼べるような速度で判断するのだと思う。
永瀬九段は今回の王座戦、研究が切れるまでの序盤戦ではほぼ全部、優位に戦いを進めていた。そして、その先の研究が切れた後の中盤から中盤後半でもほぼ間違うことが無く、その優位を保ったまま終盤に突入できていた。ここの戦いでこれだけ藤井八冠と戦えたのは永瀬王座だけである。あ、当時王座。
豊島九段や佐々木七段の対藤井タイトル戦を見ていると、たいてい、この「中盤の後半」で長考に入り、長考した結果、悪手を選択して劣勢になって終盤に突入する、という場面を繰り返し、見た。Abemeでも豊島さんが中盤後半で長考に入ると「まずい、悪手フラグが立ちました」みたいなことをみないう。
これは豊島さんや佐々木さんの欠点なのかと言うと、そうではなくて、序盤研究範囲における藤井八冠の選択と言うのが、常にその時点の短期的最善ではなく、この段階、研究が切れた段階で、相手に対して選択難易度を上げる、細い見つけにくい正解以外はすべて悪手になるような、そういう景色の地形に相手を誘い込むようにしているためだと思われる。
研究が切れた後の景色、地形、相手が迷いやすい間違いやすいかどうか、というのが中盤の後半のキモなのである。
永瀬王座はそこも切り抜けてた。むしろ藤井八冠をそういう難しい景色に誘い込むことに成功した。全局で優位なまま終盤に入れた。これはすごいことである。
ただし、終盤の時間がない中での、自分と相手の玉に詰みがある無し、どういう形になると詰みがあるかないか、を読む力は、藤井八冠は一人だけレベルが二段階くらい高い。
つまり相手がまだ中盤と思っているところで、藤井八冠だけひとりだけ終盤になっているということが起きている。
かなり早い段階から、「この形だとこうなってこうなってこう追ってこの辺でこの形で詰む詰まないになる」ということを相手玉についても自分の玉についても見えている。「そうするとこうしておくと、このあたりですごく難しいことになって、相手が間違いやすくなるには、今こうしておくといい」みたいなことが見えている。
これは、詰将棋を解く力が全地球人の中で群を抜いて高いだけでなく、幼い時から自作で詰め将棋を創作してきたことが関係していると思う。超長手数の詰将棋をぱっと見た時に、今あるスタートの配置からは素人は想像もできないが「はいはい、これはこうやって追って、この辺で詰むというやつね。それでこの辺でちょっとひっかけの罠があるでしょ」みたいなことを一目で把握する。そういう「作者の意図を一瞬で見抜く」能力を、藤井八冠は本当の将棋タイトル戦の終盤でも発揮するのである。
藤井将棋の、最後の最後に盤面の駒が全て働いて詰みに持っていく芸術性、というのは、このあたりの能力による。あまりに芸術度が高いので、私のような初球と中級の間くらいの将棋理解度の人間が見ても、毎回、ため息が出るような将棋になるのである。
こういう能力は、他の棋士には無い。羽生さんにはときどきある。永瀬さんには無い。
永瀬さんは自分にそういう芸術家としての才能がないことを自覚しており、それでも勝つためには「勝てそうもない時には千日手に持ち込んで指し直しにかる。深夜に及ぶ指し直し局で体力棋力の差で勝つ」「勝てそうもない時はなりふり構わず入玉する。双方入玉して駒の点数勝負での判定勝ちか、引き分け指し直しに持ち込む」という、どんな泥試合にしても負けないための指し方を常に頭に置いている。永瀬さんの将棋は何局かに一局、本当にひどい泥試合になる。今回王座戦でも勝った局にも負けた局にも泥試合があった。
藤井八冠に対して、互角、あるいは優位で終盤に突入したとしても、普通にきれいな詰まし合いだけを目指すと、逆転を喰う可能性が常にある。渡辺九段は、藤井八冠のその能力に怯えて、本当は勝っているのに、藤井さんの指すことだから何かあるに違いないと疑心暗鬼になって、終盤崩れた将棋がたくさんあった。
だから、本気で五番勝負、七番勝負で、藤井さんからタイトルを取ろうとすると
①藤井さんを上回る序盤研究
②そこで得た優位を、研究がきれた中盤の後半で失わない、長考でヘマほしない力、藤井さんがかけた罠にはまらない注意力
③終盤、詰む詰まないの読みあいだけでなく、いつでもなりふり構わず泥試合にも持ち込む覚悟。
これだけのことを永瀬九段だけがやりきって、今回の王座戦に臨んだのだが、①、②までは完璧だったのだが、③をやり切るだけの集中力が続かなかったのである。
追加コメント
いや、全然、要約になっていない。