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ジェフ・ベゾスがAmazonを創業する、その決意を促したのがカズオ・イシグロ『日の名残り』なんだ。『日の名残り』のテーマ「人生の取り返しのつかない後悔」から、そう決断するのか。

STUDY HACKERというサイトの青野透子さんという方のコラム
《「認知的完結欲求」が低いほど成功する理由~なぜトップリーダーは小説を読むのか~》 

 これによると、ジェフ・ベゾスの愛読書が『日の名残り』なんだ、これは興味深い。

このコラムから引用

なかでも、イギリスの権威あるブッカー賞を受賞した、カズオ・イシグロの『日の名残り』は、彼がビジネスに挑戦し続ける決心を固めた本です。
 
 第二次世界大戦前に大きな政治力を持っていた貴族に執事として仕えていた、主人公スティーブンス。時間が経ち、老年期に差しかかった現在、新しい貴族のもとで働いています。そこで、かつて同じ貴族のもとで働いていた女中から手紙が届き、彼は旅にでます。

 しかし、旅の途中にこれまでの人生を振り返り、一抹の後悔が過ります。執事として品格を失わずに主人に忠実に仕えていた一方で、犠牲にしていたものを思い出し、もっと別の人生があったのではないか——と思い悩むのです。

 ベゾス氏はこの作品を受け、次のように考えるようになったそう。…挑戦して失敗しても後悔しないが。挑戦しなければずっと後悔して生きることになる。

「認知的完結欲求」が低いほど成功する理由~なぜトップリーダーは小説を読むのか~

この話、有名な話なのかも、

Wikipediaの『Amazon』についてから引用

 Amazonの設立は創業者ジェフ・ベゾスが「後悔の最小化フレーム」と呼ぶ、ベゾス自身の考えの結果としてもたらされた。つまり、ベゾスが起業を決意したのは当時のインターネットバブルにすぐに加わらないことで未来に生じる後悔を避けるためだった。

Wikipedia 「Amazon」

 ジェフ・ベゾス、そりゃAmazonてもともと本屋だもんな、読書家なんだよな。さすがに非常に正しく『日の名残り』を読んでいる。

僕のカズオ・イシグロ論のnoteから

 日本において、日本人が考えると、出世作、英語圏で最大の文学賞、ブッカー賞を受賞した『日の名残り』における最大の謎は、「なぜ日本生まれの彼が、(国籍はイギリスであり、言語も英語がネイティブとはいえ)、最もイギリス的な、古い名家のお屋敷の『執事頭』という職業を題材・舞台にしたのか、」ということになりやすいのだが。
 しかし冷静に考えると、『日の名残り』執筆当時、まだ三十代半ばであるイシグロが、なぜ、人生の終盤の、仕事においても愛情生活においても、もう取り返しのつかない年齢になった老執事の、様々な意味で、取り返しのつかない人生の失敗への後悔をテーマに選んだか、という方が、より不思議ではあるまいか。
  ここで「題材・舞台」と「テーマ」という言葉を使ったが、イシグロの他の作品、最新作までまとめて眺めれば、「題材・舞台」は、バリエーションが極めて豊かである。戦後日本を舞台にした小説から、不条理小説・探偵小説、未来舞台のSFに、中世騎士ファンタジーとバリエーションが豊かだ。というか、一作ごとにそのアプローチを大きく変えること自体がその小説家としての特徴と見なされている。
 一方、「テーマ」に関しては、「人生終盤における、取り返しのつかない後悔」をめぐるものが多い、ということは、漠然とイメージできる。(これについては後ほど詳細に検討する。)イシグロは一貫して「人生の終盤における後悔を、先回りして心配し続けてきた作家」と呼べるのではないか。

カズオ・イシグロに最適の年齢  ①「遠い山なみの光」

 ベゾスと僕は同世代(僕が一歳上なのか、知らなんかった。)人生の同じ歳の頃に『日の名残り』を読んで、ベゾスはAmazonを創業して世界一の大金持ちになり、僕はただの無職の隠居・読書老人である。Amazon愛用者である。

 人生の取り返しのつかない段階になっての後悔かあ。カズオ・イシグロの書いたテーマに忠実に生きたのは僕の方だな。負け惜しみ。


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