『アウターライズ 』赤松 利市 (著)==東日本大震災について粘り強く考え続けた成果が、コロナ後の日本の在り方に示唆を与えている。
『アウターライズ 』(単行本) (日本語) 単行本 – 2020/3/6 赤松 利市 (著)
Amazon内容紹介
「「現時点で判明している被害者は六名です」
東日本大震災に匹敵する災禍「アウターライズ」に見舞われた東北だったが、規模に比して抑えられた被害状況を公表した。
どんな対策が行われたのかと注目が集まる中で突如、宮城県知事が“独立宣言"を行った。
そこから三年、一切の情報が遮断された国へと変容した東北に、
ジャーナリストたちが招かれる。
あのとき被災地で何が起きたのか、
そして新たな国の誕生を、我々はどう受け止めるのか。
あのとき被災地で何が起きたのか、
そして新たな国の誕生を、我々はどう受け止めるのか。
『鯖』『ボダ子』『犬』の鬼才が書かずにいられなかった被災地のその後。衝撃の感動作!」
ここから僕の感想。
物書き修行中の長男と、Lineでやりとりしていて、私が、コロナ後の日本の在り方について、「ベーシックインカム」「社会主義化」などと発言しているのを読んでおり、「もしかして、この本は読んだか」と教えてくれた本。
そういう意味で、文学という普段の興味関心ではなく、政治シミュレーション小説として読んだのだが、いやいや、文学としても、素晴らしかった。
連休頭、4/29に、本を読むずっと前に、友人、Y君と、中野剛志氏の「コロナ後、国家が生き残るには社会主義化が必要」という発言に関して議論をしていた時の内容が、驚くほどこの本の内容とシンクロしていて驚いた。
以下、中野剛志氏のロイタージャパン記事をめぐる、友人Y君とのFacebookでのやりとり
本記事 「〔コロナ後の日本〕生き残りの鍵は「社会主義化」、中韓が市場奪取=中野剛志氏」(クリックすると飛びます)
私の投稿「「中野氏は「コロナ危機後の世界秩序は、コロナ危機の下で社会主義化を決断し、実行した国が生き残り、社会主義化できなかった国が凋落する」と述べた。」
だってさ。受け容れにくいでしょう。でも、日銀が国債引き受け限度撤廃して、このあと、今議論している補正予算では全然足りなくなって、日本軍伝統の戦力の逐次投入、後手後手対策で第二次第三次補正予算がつぎつぎ組まれて、ふと気が付くと「まるでもう社会主義」になることは間違いない。それをはじめから覚悟して、後手後手にならないように「えい」っと思い切ってやれれは生き残る可能性はあるということだと思いますが。望み薄です。
「中野氏はこれを「恐慌」と表現し、「政府支出を空前の規模で拡大する以外にない。GDPに占める政府支出の比率を5割以上、あるいは6割以上にしてでも、事業を継続させ、雇用を維持する必要がある」と語った。さらに、労働者の給与を財政から直接支払うほか、政府が雇用を拡大、医療物資の生産・調達を主導し、重要産業へ資本を注入する必要性も出てくるとした。
中野氏は「もはや社会主義と言ってよい。しかし、イデオロギー上の好悪を超えて、一時的に社会主義化しないと、このコロナ恐慌は到底、克服できない」と述べた。」
Yくん 社会主義化自体が巨大利権にならないように。
原 正樹 そう考えると、ベーシックインカムを、本当にそれだけで暮らせる水準で実施して、産業政策は地方自治体に権限委譲して国は手を引き、国は国防外交教育医療くらいに機能縮小するなかな。単純図式化すると、国→私企業→国民とカネが流れるのが安倍麻生政治、国→国営企業→国民とカネが流れるのがYくんが心配する社会主義。変わらないじゃん。てことだよね。僕が考えるのが国→国民→企業って、カネが流れるのが正しい。直接給付の再分配をするのが政府って、今、コロナでやり始めたこと。
Yくん 国民のための政治を実現するために、毎月10万円を給付します、か。
原 正樹 バラマキへの拒否感は強いと思うが、必要で良質なサービス商品提供した企業に、そのお金はすぐに戻るので、この流れのほうがむしろ自由主義的だということに気づくべき。企業に自由競争させる政策はある部分正しかったが、個人に自己責任を、押し付けたのは間違いだったのが、小泉政権以降の日本の衰退原因でしょう。」
ふたたび、僕の感想
この小説を読む前に、この投稿をしていた自分にかなりびっくりしますね。
社会主義化、ベーシックインカムの組み合わせという国家像構想は、実はネタバレですが、この小説に出てくる、独立国「東北国」そのものだった。だから、長男も、「読んだのか」と聞いてきたのだと思います。
その他、国家を成立させるアイデアについて示唆に富むので、ぜひとも興味のある方は一読されたく。読みやすいので、すぐ、読めます。
もうひとつ、長男は語らなかったが、長男の心にいちばん刺さったのは、自衛隊の役割でしょう。何度か書いていますが、私の次男、長男からすればすぐ下の弟は、自衛隊にいます。私や長男のような、文章、文学、言葉だけの世界で生きている人間にとって、国と国民の生命と安全を守る最前線に立ち続ける次男の存在というのは、常に、何か、重たいものを突き付けてくる存在です。東北国が独立するにあたっての、自衛隊の思いと行動が、この作品の中心にあります。そのことの重さもまた、心に残る作品です。
といっても、右翼的小説ではまったくありません。政治的には、どちらにも偏っていないです。なんといっても、社会主義化しているわけですから。百田尚樹を思わせるジャーナリストが出てきますので、ネトウヨのことは批判的に扱っていることはわかりますが。
現実的に、日本のありようを、架空の「東北国」のありようと照らし合わせて検証することには、大きい意味があります。
この作者も、長男も、東日本大震災の津波被害、東北の苦境、福島原発事故、そのことについて10年間、粘り強く考え続けて、書き続けているわけですが、その成果が、このコロナ禍と、そこから、国として、どう形を変えて立ち直るかに、大きなヒントを与えてくれるものになっています。持続して考え、書き続けることの大切さを痛感します。(すぐ飽きちゃうので、自戒を込めて。)