30
祖母が亡くなった。
仕事をしていたら母から電話がかかってきて、出るかどうか迷った。なんとなくそうしないといけないような気がして出てみたら、亡くなったとの知らせだった。
30年ぶりに祖母に会うとの計画は間に合わず、お葬式に行くことになってしまった。本来であれば11月に休暇を取っていくはずだったが、腫瘍が見つかったためにキャンセルしてしまっていたのだ。
不思議なことに、知らせを聞く1週間ほど前あたりから、祖母の声を自分の中に感じていた。自分が鳥を呼ぶ「○○ちゃん」という声に、祖母が自分を呼んでいたときの声が重なっているような気がしていた。血が繋がっているのだから似ているのかもね、と思っていた。
よく考えれば、父方の祖母が死んだときにも不思議なことがあった。彼女が死ぬ少し前に、仏壇の位牌が揺れるのを見たのだ。当時高校生だった自分はそれを見て、どう思ったんだっけ?そのときの感情はよく覚えていないけど、怖くはなかったはず。たまたま仏壇を横から見たときに前後に揺れ始めたのだが、その後ろの窓の外に見えていた夏の青い空はよく覚えている。
朝早く家を出て、半日かけて移動して葬儀場につき、そして間もなくお葬式が始まった。横たわる祖母の顔は、とても美しかった。祭壇の花を棺に入れるときは、できるだけたくさんの花を祖母の周りに飾った。
式はあっという間に進み、気が付けば出棺の時間になっていた。出棺ですというアナウンスがあった瞬間、パーンという乾いた大きな音がして真珠の粒が床に広がり、近くに転がってきた小さな一粒を拾った。祖母と一番仲の良かった叔母のネックレスの紐が切れたのだ。祖母がやったのかはわからないけど、多分、紐が切れたことはとても良いことなんだと思う。
翌日、家に帰ってきても何も実感がわかなかった。あっという間にいろいろなことが次々と進んで終わり、疲労以外の感覚は何もなかった。
でも、その次の日、出勤してデスクに一人で座ったときに、はじめて、自分は本当は悲しいのだということに気付いた。海を見つめながらまりが泣いているのを感じた。
「本当は悲しいみたいだ」と、パートナーの彼女に伝えた。