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優秀な人材を逃がさない人物試験(3) 人物試験の評価段階と初期印象が評価に与える影響について考える

人物試験や面接の際の評価段階は、どのようなすべきなのでしょうか?
また、受験者の初期印象は、評価にどの程度の影響を与えるのでしょうか? 今回はこれらのことについて考えていきたいと思います。(Mr.モグ)


人物試験の評価段階

人物試験や面接における評価段階は、どのようになっているのか見ていくと、おおむね次のようになっています。

1.二段階(合否)方式
(評価について「合格」「不合格」の2段階に分けるもの)

2.三段階方式
(評価について「A,B,C」「優良可」等の3段階に分けるもの)

3.五段階方式
(評価について「A,B,C,D,E」「1、2、3、4、5」等の5段階に分けるもの)

記述式試験においては、すでに解説したように(優秀な人材を逃がさない「記述式試験」等を参照)、これ以外にも七段階方式(「A+,A-、B+,B-,C、D+,D-」等の7段階に分けるもの)や、その他(多段階)方式(「1~10」の10段階や、「0~100」といった多段階に分けるもの)がありましたが、人物試験においては、二段階から五段階の評価が多いのです。

 統計的には、評価段階数は、少ないよりも、多い方が(例 三段階よりも七段階の方が)受験者の能力を細かく判別することが可能になるのですが、人間が採点するためには、必ずしも段階を多くするのが良いとは限らないのです※。

※ 例えば先行研究では小論文の採点の実験結果から、五段階を超えると、かえって識別力の下がる採点者が出るため、五段階で相関の高さは頭打ちになるとしています。

また、特に人物試験においては、筆記試験のように客観的な点数を算出することが難しく、さらに、一人の試験官が全ての受験者の面接を行うことは時間やコストの制約があるため、実際には複数の試験官が同時並行的に面接を行うことになります。

そのため、人物試験や面接試験の評価を行うに際しては、統一した評価判定基準を定めて試験官どうしが共有化するとともに、各試験官はそれぞれ別々に受験者の面接をすることになるので、評価段階の出現率の目安があった方が採点しやすいのです。

評価段階の出現の目安

評価段階の出現率の目安については、評価結果はおおむね正規分布するという、これまでの経験をもとに、通常、例えば五段階においては、次のように評価段階と出現率を大まかに設定します。

評価段階ごとの出現率の例(A~Eの五段階の場合)例1 五段階評価でEのみ不合格とする場合:(面接だけではなく、他の試験結果を踏まえて最終合否を決めるため、人物試験のみによる不合格率を抑え気味にした場合)
   A(適格性が大いにある出現率5~10%)、
   B(適格性がかなりある出現率10~20%)、
   C(適格性がある出現率50~60%)、
   D(適格性に疑問がある出現率10~20%)、
   E(適格性がない出現率5~10%)

例2 五段階評価でDとEを不合格とする場合:(不合格者が多くなりすぎることを防ぐため、ややDの出現率を抑え気味にした場合)
   A(適格性が大いにある出現率5~10%)、
   B(適格性がかなりある出現率20%)、
   C(適格性がある出現率60%)、
   D(適格性に疑問がある出現率5~10%)、
   E(適格性がない出現率5~10%)

例3 五段階評価でDとEを不合格とする場合:(よりメリハリのある評価で合否を明確にしようとする場合➡この場合、人物試験の評価を丁寧にしないと、本来優秀な人物を、人物評価の主観による誤差で落としてしまう可能性もある)
   A(適格性が大いにある出現率10~20%)、 
   B(適格性がかなりある出現率20~30%)、
   C(適格性がある出現率30~40%)、
   D(適格性に疑問かある出現率20~30%)、
   E(適格性がない出現率10~20%)

このように出現の目安があると、評価者は評価をしやすくなります。もちろん、たまたま全体的に優秀な受験者が集まった場合や、その逆の場合もありますから、出現の目安は、あくまで参考に過ぎないことは言うまでもありません。
(例えば、全体的に優秀な受験者が、ある人物試験官の部屋に集まった場合には、A評価の出現率は40%、B評価の出現率は50%となり、D評価の出現率は10%、E評価の出現率は0%ということもあるでしょうし、逆のケースでは、A評価の出現率は0%、B評価の出現率は20%となり、D評価の出現率は40%、E評価の出現率は40%ということもあるかもしれません。)

評価段階の扱い方(「合否決定のみ」のケースと「点数化する」ケース)

また、人物試験などの評価の際には、点数の扱い方についても注意する必要があります。
これについては次のような二つの考え方があります。
1 人物試験の結果では、合否だけを決めて、点数化しない場合
2 人物試験の結果を点数化して、他の試験の点数に合算することで合否を決める場合

なお、合否だけを決める際にも、最後に見直しや、確認をしやすくするために、便宜的に五段階評価にして、A,B,Cを合格とし、D,Eを不合格とする場合もありますし、最初から「合」「否」の二段階評価にする場合もあります。

また、点数化する場合には、その配点やウエイトをどうするかという問題があります。人物試験を重視する立場であるなら、人物試験の点数のウエイトを大きくすると共に、評価でもAをとった場合には加点を多くして、合格しやすくすることも考えられますが、他方で、主観評価的要素を完全に排除することのできない人物試験のウエイトを高くしすぎると、別の不公平感が生じる余地が増えることにもなります。

いずれにせよ、これらの配点やウエイトは、採用する組織としての考え方に依存することになります。

受験者の「初期印象」が評価結果に与える影響

 個別面接試験の成否は、筆記試験では測定するこのできない受験者の「真の姿」を引き出して、それを評価できるかにかかっています。そのため、評価者は、いろいろな質問を投げかけることで受験者に多く語らせ、その内容や態度・反応などを観察することになります。

一方、個別面接試験は、(前述したように)評価者によって評価が異なる可能性が指摘されており、面接評価者間での評価の一致度を相関係数で示した先行研究※では、0.62程度と報告されています。
(ちなみに、私の実験では、(同一受験者に対して、面接経験のある評価者(計9人)が、五段階評価を行ったケース)各評価者間の相関は、0.40~0.86と幅がありましたが、その中央値は0.62でした。)

※Conway,J.M.,Jako,R.A.,& Goodman,D.F.,A meta-analysis of interrater and internal consistency reliability of selection interviews.,Journal of Applied Psychology,80,565-579,1995


さらに、個別面接試験は主観的評価であるがゆえに、受験者に対する初期印象が評価にどの程度の影響を及ぼしているかについても先行研究※があり、面接における初期印象(先入観)は最終評価にも有意な影響与えると報告されています。

※今城志保、繁桝江里、「採用面接おける初期印象の影響」

私の実験によると、同一受験者に対して、(面接経験のある)評価者の初期印象とインタビュー(約20分~30分)後の最終評価との相関は、0.44~0.72であり、その中央値は0.64でした。

面接経験のある評価者の場合、受験者の態度、風貌、話し方等を総合的に判断した初期印象と、実際の面接を通して得た情報からの最終評価の一致度は、比較的高いといえそうです。
もちろん、初期印象だけでは捉えられない受験者の情報を面接を通して得ることで、最終的な評価が決定されますから、短時間の初期印象だけで評価することは、適切ではないことは言うまでもありません。)

まとめ

今回は、人物試験や面接における評価段階はどのくらいが適当なのか? その場合各評価段階における出現率はどうあるべきかについて考えるとともに、その評価の扱い方(合否のみに使うのか、点数化して総合得点の一つとして扱うのか)について検討してみました。
また、最後に、受験者の初期印象が評価に与える影響についても具体的な数値をもとに考えてきました。
人物試験や面接の評価は、非常に奥の深いのです。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回からは、さらに深堀して、構造化面接コンピテンシー面接について考えていきたいと思います。(Mr.モグ)

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