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優秀な人材を逃がさない人物試験(2) 情報が不足する試験官の思考過程の分析

試験官や面接官は、(その時点で獲得できた受験者に関する)少ない情報の中で、評価をすることになります。
そのような状況下で、試験官や面接官はどのような思考経路をたどるのでしょうか? 今回は、評価バイアスが発生するプロセスを考えていきたいと思います。(Mr.モグ)


情報が不足する中での意思決定方法

人物試験の試験官(評価者)は、面接の時間内で質問を行い、受験者の態度や発言などの(その時間内で得られた)限られた情報を元に被評価者(受験者)の評価せざるを得ません。
一般に、情報が不足している人は意思決定を行うために、次の四つの戦略の中から一つを選択することになるとされています(Casson※)

① 自分で情報を再発見する(再発見)
② 他の人から情報を獲得しそれを吸収する(吸収) 
③ 他の人がしていることを単に観察しそれを真似する(模倣)
④ 情報を無視する(情報の無視)

※Casson,M.著,手塚公登,井上正訳,2002年,『情報と組織』,アグネ承風社


 これらの「戦略」は、「情報の無視」を除いて、情報を獲得するための「コスト(手間)」がかかります。
 しかし、一般に、情報を再発見したり、他の人から「情報を獲得し吸収するコスト(再発見)」に比べて、他の人を観察し「模倣するコスト(模倣)」の方が低いため、模倣は情報を獲得する手段として効率的であるとされています。

そのため、情報が少なく限られている場合には、再発見より模倣しようとする傾向が強くなるのです。

人物試験・面接における評価者バイアスの発生過程の分析

 特に、人物試験のように受験者に関する情報の把握が困難な(受験者の情報が不足している)状況下における評価者は、限られた情報の中で無意識のうちに次のような評価行動をとる可能性が高くなるのです※。

※ 渡邊直一「自己模倣の主観的合理性とハロー効果」


① 評価者の受験者に対する「全般的印象」の真偽を確認することなく、自らの「全般的印象」をもとに、他の評価項目を推測(自己模倣)することが(無意識のうちに)合理的であると思い込む。(改めて個々の評価項目を確認しようとしない。)

② 評価者が情報の不足しているなかで評価を行うに当たって、受験者の個々の側面(各評価項目)に対する評価に自信が持てない場合は、(自らが持ち合わせている情報から形成された受験者に対する)「全般的印象」をもとにして、評価を行うことが(無意識のうちに)合理的であると思い込む。(個々の評価項目における評価が「全般的印象」と異なるときは、個々の評価項目の評価を歪めて、「全般的印象」に従ってしまう。)

③ (時間をかけて質問することで、受験者の新たな情報を収集することなく)正しいと自ら信じる受験者に対する評価(特徴的側面)をもとにして、他の評価項目を評価(自己模倣)することが(無意識のうちに)合理的であると思い込む。
(自信のある自らの評価によって他の評価項目を評価(自己模倣)することにより、情報収集にかかる手間を省略しようとする。)

 このように、受験者に関する情報と、自己模倣によるハロー効果の発生頻度の関係については、次の図のような概念モデルによって説明することができます。
 受験者に関する情報が十分にある状況下にある場合、評価者は、新たに情報を獲得する必要がありません。そのため、自己模倣によるハロー効果(評価バイアス)の発生する頻度は低くなります
一方、受験者に関する情報が不足している状況下にある場合、情報を新たに獲得するよりも、「(自己)模倣」した方がコストを節約することができるため、(自己模倣による)ハロー効果の評価バイアスが発生する頻度が高くなります。

そのため、情報量と自己模倣によるハロー効果の発生頻度との関係は、図のように逆S字カーブを描くと考えることができるのです。

ハロー効果逆S字カーブ

さらに、人間の認知構造の観点からDanielら※は
「人は誰でも自分はめったに矛盾した態度などもっているはずはないのだと確認することによって、彼の認知の中に一貫性を保とうとする」そのため「人は、その思考を再構成して一貫したパターンに戻そうとする傾向がある」と指摘しています。

※Daniel M.Wegner,Robin R. Vallacher,倉知佐一訳,1988年,『暗黙の心理』,創元社

これは限られた情報のなかで、評価者がすでに持っている受験者に関する「全般的印象」や「特徴的側面」の情報に則して他の評価項目を評価することにより、評価の一貫性を持たせようとすることを意味しています。

このことからも、評価者が自らの評価をもとに無意識のうちに自己模倣する可能性が示唆されるのです。

評価者は、正しい選抜を行うためにも、このようなバイアスが生じることのないように意識しなければならないのです。

このように、ハロー効果は、無意識の中で生じてしまうバイアスなのです。このようなハロー効果を把握することの難しさは次のようになります。

ハロー効果のバイアスが捉えにくい理由

ハロー効果の学術的研究は、他の評価バイアス(寛大化傾向、中央化傾向等)に関する研究に比較して不足していますが、その原因としてハロー効果の次のような難しさの存在が指摘されています。

①被評価者によって異なるバイアス
ハロー効果は、全ての評価者に生じうる基本的なバイアスですが、ある評価者が評価するとき、全被評価者に共通のバイアスとして生じるのではなく、ある特定の被評価者にのみ「甘く」評価することもあれば、逆に「厳しく」評価することがあるのです※。(このようにハロー効果のバイアスは全被評価者に共通して生じるものではないため、それを総体的に捉えることが難しいとされています。)

※例えば、寛大化傾向なら全被評価者に共通して評価が甘くなるバイアスとして生じ、厳格化傾向なら全被評価者に共通して評価が厳しくなるバイアスとして生じる。


②無意識のうちに生じるバイアス
寛大化傾向は、評価者がある程度意識的に全被評価者に対して「甘い」評価をしたいとすることで生じるものであり、中央化傾向は、ある程度意識的に全被評価者に対して「差をつけたくない」とすることで生じるものです。
 また、論理的誤差は、評価者が論理的に考え、意識的に、評価に影響すべきでない要素を評価項目に関係があると思い込み、評価に影響させてしまうものです。

これに対してハロー効果は、無意識の程度が他のバイアスに比べて高い(限りなく無意識に近い)ため、ハロー効果の生じる原因を見つけ出すことが難しい(例えば、評価者が几帳面で、被評価者が時間にルーズだと、評価者が無意識のうちに、その被評価者の他の評価が低くなる)とされています。


③統計処理の難しさ
ハロー効果は、評価尺度上の評価分布(高位や中位に偏った分布の程度)や分散(評価データの集中度)から、その統計的特徴を捉えることが難しいとされています。なぜなら、被評価者によって「優れている」という印象や「劣っている」という印象の両面に引きずられるとともに、ハロー効果は全被評価者に一律に生じるものでなく、特定の(評価者に強い印象を与えた)者にしか生じないという厄介さがあるからです。
そのため、評価者の評価データの全てがハロー効果による影響を受けている訳ではないために、全体評価と各評価要素間の相関を一律にゼロと考えることに無理があり、ハロー効果の影響やその可能性を統計的に把握することは難しいとされてます。

また、ハロー効果の発生メカニズムについては、次のような二つの側面があります。

ハロー効果図1、図2

一つは、図1に示すように、被評価者の特徴的な側面(評価要素0)に関する評価に、他の側面(評価要素1,2,3,・・・)の評価全てが影響を受けるというものです。

 もう一つは、図2に示すように、被評価者の全般的印象によって被評価者が本来持っている個々の側面(評価要素0,1,2,3,・・・)の評価が引きずられてしまうというものです。 
このようなハロー効果に特有の二つ側面からなる発生メカニズムに対して、山下※は、ハロー効果のバイアスが、被評価者の「全般的印象」により生じるとする立場(第1段階モデル)と、被評価者の「特徴的側面」により生じるとする立場(第2段階モデル)を統合して、図3に示すような「ハロー効果に関する2段階の概念モデル」を提示しました。

※山下洋史「ハロー効果に関する2段階の概念モデル」,山梨学院大学経営情報学論集,No7,pp119-125,2001年

ハロー効果図3

すなわち、ハロー効果が生じるメカニズムは、
〇被評価者の特徴的な側面に影響されて全般的印象が形成される第1段階と、
〇被評価者の全般的印象によって、個々の側面の評価(評価要素)が影響を受ける第2段階
に分けることができるとしたのです。

まとめ

今回は、試験官や面接官が、「受験者の情報が少ない中で、どのように評価するのか」を中心に、その思考過程と、その過程の中で、どのように評価バイアスが生じるかについて説明するとともに、評価バイアスの中でも一番厄介な,ハロー効果について分析を試みました。
無意識のうちに生じるハロー効果の存在を認めたうえで、面接や人物試験を行うことがワンランク上の人材選抜にもつながるのです。

次回は、人物試験の評価段階と受験者の初期印象が面接評価に与える影響について考えていきたいと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。(Mr.モグ)

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