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孤独・孤立を感じても、応援してくれる本と自由が図書館にある

孤独や孤立が社会の課題となる中、福祉の枠にとらわれず人のつながりを育む取り組みに注目が集まっています。地域社会に生きる私たちの日常の行動が、周囲の人々にとって意外な支えになるかもしれません。

鳥取県内でも「福祉」の看板を掲げない活動者が、知らず知らずに孤独・孤立を解消する役割を担っています。今回お話をうかがうのは、鳥取県内の図書館と連携し「図書館=居場所」の取り組みに力を入れている鳥取県立図書館の高橋 真太郎さんです。

「図書館は多様性や小さな声を大切にする場所」と話す高橋さんの思いに触れて、みなさんも自分の中にある福祉を見つけ、地域へとひらいてみませんか?

高橋 真太郎さん/香川県生まれ。高校生のころ、職場体験でそれまで意識していなかった図書館の魅力に気づく。図書館情報大学卒業後、香川県立図書館、鳥取県立湖陵高等学校勤務を経て、鳥取県立図書館へ。令和3年から2年間、境港市民図書館に副館長として出向しリニューアルに携わる。現在は、鳥取県立図書館 支援協力課長を務め図書館のネットワークづくりを担当。県内図書館や仲間と協力し「図書館=居場所」の取り組みを推進している。

図書館は、どんな小さな考えも大切にするオープンな存在

ー高橋さんは、鳥取県立図書館でどのような仕事をしていますか?

鳥取県内の市町村立図書館や学校図書館と協力することで、県内各地に住むみなさんに図書館サービスを届けるネットワークをつくろうと、支援協力課というチームで働いています。

地域に住む利用者のみなさんの声をキャッチするのは、県立図書館だけでは難しい面もあります。地域で信頼関係を築いている地元の市町村立図書館や学校図書館と協力することで、県立図書館に直接来館できない方へも、必要な情報や資料を提供しています。

ー図書館が、孤立・孤独の解消に果たしている役割は何ですか?

誰に対しても開かれている居場所であるということだと思います。ここには「入らせてください」という申し込みもいらなくて、放課後にも使え、図書館の人に挨拶をしたければしても良いし、何かをしないからといって、とがめられることもありません。

いつでも無料で使えるオープンな場所があることは、すごく意味のあることです。図書館の存在を社会の中で再認識できるように、みなさんに伝えていきたいと考えています。

よく「居場所なら地域の人が集まる公民館やカフェでもいいんじゃないですか」と言われることもあります。でも、図書館という場所について考えてみると、あることに気づきました。それは、ただ机や椅子があってスペースがあるだけではなくて、「本があるからできること」があるということです。

図書館は、マイノリティのどんな小さな考えも尊重する、多様な本がコレクションされている場所です。今のようにヤングケアラーやLGBTQ、発達障がいなどが認知されていない時代にも、それらについて書かれた本が図書館には集められていました。困ったり、孤独を感じたりしている人の味方ができる本や考えが集まっているところが、図書館のいいところだと思います。

それに、図書館員は利用者のみなさんに対して「こうしてください」と考えを押し付けることもありません。例えば、環境よりも経済を大切にする考え方がある一方、経済よりも環境を大切にするという意見もあります。図書館は正解を示すのではなくて、経済のことを大事にしたい人には経済を重視する本を提供し、環境を守りたい人には環境保全についての本を提供します。

「それ間違ってますよ」と誰かを説得しようとするために本を集めるのではなく、すべての人を肯定するところから入るのが図書館です。

ー「本があるからできること」を実感したエピソードはありますか?

以前、「アフリカの食糧問題を解決したい」という思いを持つ高校生が、図書館に来てくれました。家族に自分の思いを伝えると「進路をもうちょっと真面目に考えなさい」と言われ、受験勉強をする友だちからは「アフリカの問題って何のこと?」と返されたと話していました。

でも図書館には、アフリカの食糧問題を解決するために書かれた本や体験記が山のようにあります。その高校生は喜んで、たくさんの本を借りて帰りました。自分がやりたいことと同じことを考えている人が、近くにいないことってよくありますよね。その高校生もたまたま周りに共感してくれる人たちがいなかったというだけです。

図書館に行けば、自分を応援してくれる本が必ずあるというのは大切なことです。孤独・孤立に悩んでいるときにも、「自分はこれでいいんだ」と感じられ、自分の望む方向に進むきっかけを見つけられると思います。

本+人+空間。自分を大切にするための「サードプレイス」

ー図書館があることで、地域にどんな影響があると思いますか?

子ども食堂の取組が始まったころに、図書館として刺激を受けました。「子ども食堂では、食事だけじゃなくて、安心や安全、体験、社会とのつながりを提供しています」と聞いて、同じことが図書館もできるのではと考えました。鳥取県では、2017年から県立図書館と市町村立図書館が協力して「図書館=居場所」の活動を進めています。

アメリカの社会学者のレイ・オルデンバーグ氏は、人生を豊かで生きやすくする場として、第一の居場所の家、第二の居場所の職場に加えて第三の居場所「サードプレイス」の概念を提唱しています。寛容さを感じさせるサードプレイスに、図書館は最適だと思います。

親に「学校を休むなんて......」と言われたり、友達と喧嘩をしたりすると、行き場所がないと感じることもあるかもしれません。そういうときに、スポーツクラブでも、学童保育でも趣味に関係する場所でも良い、居心地の良いもうひとつの居場所があれば、しばらくそこで過ごしてから元の居場所に戻ることができます。

目指すゴールは、図書館がサードプレイスになって、自分を大事にするための場所として使ってもらうこと。「居心地が良い」「ここに来るのが生きがいです」と言ってくれる人たちや、「図書館が自分の居場所だよ」と言ってくれる子どもたちも少しずつ増えてきています。

ーこの場所があってよかったと地域の方から言われることはありますか?

闘病中の方や、自己実現したい、仕事を始めたいという方から図書館が役に立ったという声もたくさん聞きます。「今日も来たよ」と挨拶してくれる人もいるし、特別になにか言わなくても、毎日来ている子どもや高齢の方を見ると、居心地が良いから来てくださっているのだろうと感じて、自分たちがやっていることが報われた気がします。

一人で暮らす高齢の方も増えていて、県立図書館の「音読教室」に参加した方から「久しぶりに声を出して、人と会話しました」と言われたこともあります。社会とつながるきっかけとして、図書館を使ってほしいと思います。

でも、地域に出かけて「図書館を使ってください」と伝えると、「図書館どこにあるんですか?」「お金がかかりますか?」という反応が返ってくることもあります。今後も市町村立図書館のみなさんと一緒に「とっとり孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」の活動に取り組むなど、常に身近にある図書館の存在を多くの人に伝えていきたいと考えています。

「自分はこうありたい」とワクワクして。「図書館もあるよ」とシェアしてほしい

ー高橋さんが図書館に興味を持ったきっかけは何ですか?

香川県で暮らしていた高校1年生の夏休みに、図書館で体験学習をしました。特に図書館が好きというわけではなかったのですが、見学先のもう一つの候補はアスパラガスを摘む作業だったので、クーラーのある図書館を選びました。すると平日の日中にも関わらず、沢山の人が来ていることに気がつきました。

「何かをしなさい」と言われることもないし、誰もが自分の好きな棚に行ってぱらぱらと本をめくったり、ゆっくり座ったりしている、そんな図書館の空間や雰囲気に惹かれたところがあったと思います。

それまで学校や部活を1日も休まない真面目な生き方をしていて、不満を感じたこともなかったけれど、「世の中ってこんなに自由なんだ」「図書館っていい場所なんだな」と感じました。体験学習先の職員さんに「図書館情報大学で学んでみたら」と勧められて、「はい!行きます」と3年間受験勉強をして進学することを決めました。

ー高橋さんが感じる図書館の魅力や、活動の糧は何ですか?

「知りたい」「自分はこうありたい」というワクワクした思いを持った人も多く集まるのが図書館です。地域の中でも、ポジティブな気持ちを持って人が集まっている濃厚な場所なのだと思います。

学校教育は視野を広げる大事なものですが、勉強をしなくちゃいけないという気持ちが大きくなると苦しいですよね。図書館では自分の調べたいことを、調べてほしいと考えています。実際に、音楽を学びたい人や小屋をDIYで作りたい人、自分のお店を開きたい人などがたくさんの本を借りて行かれることもありますし、語学を学びたい、資格を取りたいという人に役立つ本も揃っています。

孤独・孤立を感じている方も図書館に来ることで、利用するみなさんの何か新しいことを探してる雰囲気に触れることできるかもしれません。「自分はこうありたい」「こうしたい」というモチベーションを大切にして、図書館を使ってもらいたいと思います。

そして、本や資料を調べている人の「これが分かった」という瞬間や、「知りたい!」というワクワクが生まれる場に立ち会えるのはとても嬉しいことです。同じビジョンを目指す公共図書館や学校図書館、事業を進めている仲間とチームで携わる楽しさや、社会に貢献できる喜びを日々感じています。

ー高橋さん自身が孤独・孤立を経験したことはありますか?

図書館ではチームで動いているので孤独・孤立はあまり感じませんが、今の社会はSNSなどのつながりがたくさんあるので、ときには一人でいたいと思います。毎日が忙しい中で、自分の時間を持つことは、自分を大切にすることにつながるかもしれません。

日々生活していて、家族や周りの人と行き違いがあったり、うまくいかないときは、解決するために本を読むようにしています。チーム作りの本や自分を表現するための本、関係づくりのスキルを学ぶ本、生活を豊かにする本などのたくさんの本を参考にすると、対処できることがたくさんあります。

ー高橋さんが考える誰にでもできる小さな支援を教えてください。

まずは自分を大切にすることやポジティブでいることが、周りの人を大事にできたり応援できたりするところにつながっていくのではないかと思います。

そして困っている人が近くにいたら「図書館もあるよ」「図書館に行ったらいいよ」と話してくれると嬉しく感じます。図書館はみなさんのための場所です。図書館をもっとたくさんの人と共有できるように力を貸していただきたいです。

【鳥取県にて、ワークショップを開催🎪✨】

鳥取県内で福祉活動や、福祉の看板を掲げずとも、県民に寄り添い、
居場所や様々な機会提供をしている個人・団体が集まり
「情報共有」「関係作り」ができればと企画いたしました。
みなさまのご参加、お待ちしております。

■ワークショップ概要
日時: 2025年1月29日(水曜日)14時〜16時
場所: 倉吉交流プラザ 視聴覚ホール
    〒682-0816 鳥取県倉吉市駄経寺町187−1
内容: オープニング
    ゲストによるトークセッション
         ワールドカフェによる団体同士の情報共有・関係構築
         クロージング
参加費: 無料 
ワークショップの詳細・お申込みはこちらから:
https://megu-inc.jp/media/watashitofukushi



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