あの銅鑼を鳴らすのはわたし
数年前の話。
友人のお父様が亡くなられた。
御年100歳であられた。
友人は一人娘だったので喪主をつとめた。
今時の流れに沿って家族葬。
友人の配偶者や成人した子どもたちと共に儀式をこなした。
お坊さんのお経の途中、式場の係りの方が友人のそばに来てささやいた。
「喪主様どうぞ。」
そして前方にいざなった。
友人はコクリと頷いて進み出た。
そして。
おもむろにバチを手に取って。
お坊さんのそばに置いてある銅鑼を
ゴアァァ~~ン!!
鳴り響く銅鑼。
いや違うやろ。
そこ「お焼香」やろ。
式場の人は慌てただろうねぇ。
「だってお焼香ですよなんて教えてくれへんかってんもん」
言わんでもわかるやろ。
そもそも、お葬式で銅鑼を叩く参列者って見たことある?
私はお坊さんしか見たことないで。
友人は鼻の穴を膨らませて少し自慢げに言った。
「しかもな、振りかぶって思いっっ切り叩いてん。」
「こうよ。こうやってな」
野球のピッチャーのように右手を高く上げて振り下ろすジェスチャーを見せる友人。
反省しない人。
まだ続きがある。
自分がやらかしたことに気づいていない友人が
家族のもとに戻ってくる。
子どもたちは下を向いてグフグフと笑いをこらえている。
笑ってはいけない場所で笑いをこらえるほどつらいものはない。
でもこれが笑わずにいらりょーか。
友人はうっすら涙ぐみながら子どもたちに文句を言った。
「あんたらな、自分の親が亡くなってお母さんは悲しいんやで。
何笑ってるんよ」
あんたが笑わしたんや。
絵にかいたような逆切れ。
身内でさえ可笑しかったんだから、他人の式場のスタッフの方々はどれだけ可笑しかったことか。
きっと式が終わってから控室で話題になっているはず。
「笑いこらえられへんで死ぬかと思ったわ」
もしかしたら今も語り継がれているかもしれない。
そして誰よりお坊さん。
自分のそばの銅鑼が。
自分しか叩く人のないはずの銅鑼が。
いきなり
ゴアァァ~~ン!!
と鳴ったのだ。
驚くわな、普通に。
思わず念仏を唱えられたかもしれん。
私はひとしきり笑った後、友人に聞いた。
「なんで叩いたん?」
「なんで叩いたんやろ…」
本人にもわからないらしい。
とりあえず慰めの言葉を。
「お父様もきっと笑ってくれてはるわ」
そう告げる私の頭の中で大音量で和田アキ子の歌が鳴っていた。
♪あの銅鑼を鳴らすのは私~
銅鑼じゃないから。
鐘だから。
私じゃないから。
貴方だから。
間違いだらけの友人のための名曲。
人のお葬式の事を笑い話にするなんて不謹慎だと思うけど。
笑いで浄化するってことで許してくれた心広き友人に捧げます。
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