間違っていた黒い車
友人のご主人は車が大好きだそうだ。
きっといい車に乗ってらっしゃるのだろう。
「何に乗ってはるの?」
友人に聞いた。
「黒い車。」
なんやねん、黒い車て。
子どもか!
「車種はなに?」
「知らん。なんか黒い車。」
色しか興味ないんかい!
そんな友人は時々ご主人の運転する車でスーパーに買い出しに出かける。
ある日。
ご主人は駐車場の車の中で待ってらして、友人だけスーパーで買い物をした。
たまの買い出しなので沢山買った。
両手にひと袋ずつ満杯のスーパーの袋を持って、ご主人の待つ車に戻る。
駐車場には沢山車が止まっている。
その中で友人は探す。
黒い車。
ようやく黒い車を見つけた。
後部座席に荷物を入れようと扉をガバッと開ける。
注釈を入れると、友人はわりと雑いタイプ。
なので、ガバッと後部座席の扉を開ける。
そして片方ずつ荷物をシートにドサッ!ドサッ!と置いた。
はぁぁ…重たかったぁ、と顔を上げると。
怯えた顔で運転席からこちらを見ている男性。
友人は思う。
誰?
いや、多分向こうがそう思っているはず。
黒い車に乗っていたのはご主人ではなかった。
というか、車間違えてるやん。
ひぃ〜〜〜
断末魔の叫びをあげる友人。
いや、だから、その知らん男性の方がひぃ〜〜やと思うで。
だって、車に乗ってたら急に後ろの扉が開いて、知らんおばちゃんがめちゃくちゃ雑に荷物を放り投げるように置くんやで。
怖過ぎるやん。
ていうか、知らん人が扉をガバッと開けた時点で、殺される!とか思うやん。
気の毒過ぎ。
「そんでどうしたん?」
「すいませんて言うたよ〜」
偉いでしょ〜みたいに言うけど当たり前過ぎるからね。
「そそくさと、また荷物を車から出して逃げるようにその場を去ったよ」
逃げるようにじゃなくて、逃げてるわ、それ。
なんとか無事にご主人の待つ車にたどり着いたらしいけど。
「怖かったわ〜」
オマエが言うな!
で?
ご主人の車ってなんていう車?
「ん〜〜、黒い車。」
何ひとつ学ばない友人のお話でした。