音楽と暮らし日記/Blackbird (The Beatles)
家の隣に大きな空き地がある。そこには四本の立派な白樺が生えていて、日々上空を行き交う鳥たちの足休めの場になっている。廊下から庭を挟んで白樺まで一直線、借景も手伝って抜けの良い木々の風景が眺められる。
毎日の朝風呂を終えるとしばらくそこに腰掛けて、景色の移り変わりを見る。晴れている日や空気の透き通った日は空と雲の色がよく、冬でも緑を枯らすことのない椿の葉の美しい輝きを楽しむことができる。
十二月に入ると、椿の茂みの中にまるまるとしたつぼみが色付き、やがて品の良い花を咲かせる。紅色の元日椿、淡いピンクの乙女椿、桜色の曙(あけぼの)、真っ白の白鳳。
椿が花開くと、お腹を空かせた野鳥たちが蜜をついばみにやってくる。尾っぽの長いひよどりは少し体が大きく、長いくちばしを花びらに突っ込んで勢いよくつつくものだから、花びらまでぼろぼろにしてしまう。最初のうちは「せっかく綺麗な花を」と思っていた私だったが、ただ目の前に移ろってゆく自然を見つめるうちに、それもまた愛おしく感じるようになった。
庭に訪れる野鳥の中で一番可愛い声を鳴かせるのは、うぐいすのような苔色をした小さなメジロたちだ。声帯がころころと転がるような耳に心地の良い高音で、擬音には表せないような発音の鳥語で鳴く。
その中に一羽、あほのメジロがいて、この子がとても可愛い。出窓の向かいの柿の木に飛んできては小枝につかまり立ちをして、目の前の硝子に映った自分の姿に驚いたのか、動体視力が追いつかないくらいの速さで窓にバチバチと何度もぶつかり、その衝撃を受けて椿の茂みの方へと跳ねっ返ってゆく。
初めて見た時は何事かと驚いたが、三日に一度は同じことが起きるので、「またぶつかってるで」「いつもの子か」「あほやなあ」「かわいいなあ」、そうやって面白く眺めるようになった。
腰を据えて眺めていると、市街地にもたくさんの野鳥が行き交っていることがわかる。個体を見分けることはあほのメジロちゃんくらいの個性がないと難しいが、時には名前も知らない珍しい色形の鳥を見つけることができる。
この家に生まれて三十一年が経った。つい二、三年前まではこの庭にこんな自然が広がっているなんて知りもしなかった。気付きもしなかった。見ようともしなかった。
腰を据えるとはそういうことだ。ずっと、じっくり、一つの場所に留まって、そこから見えるものを探していく。そこにあるものを有り難がる。大切にする。見守ってゆく。
ザ・ビートルズの『ブラックバード』を聴きながらそんなことを考えた。
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