民間武術探検隊 ~通背の郷7~
夏老師との再会は悲しいモノであった。
しかし、そんなことでクヨクヨしていては、民間武術探検隊なんてやってられないのである。ヘヘンだ。
第七章 口訣
さて、おそらく、今探険期間中唯一の丸々一日自由行動日。
こいつをどー有意義に活用しようかと作戦を練る我々。
午前はイヨクくんチームと一緒にどこかで練功して、ひるめし食って、その後、「土産買ってかないとヤバイっすよー」の隊員もいるので、買い物に行くコトにする。
「おまえらだけで行動すると心配だから、ついて行くぞぞぞっ!」とおっしゃる王師兄には
「いえいえ、王師兄も大変お疲れでしょうから、今日はゆっくりお休み下さい。ぼくらだけで大丈夫でーす。」と言って、おやすみいただく。
これは「たまには、王師兄抜きでのびのびしたいぜぇ~」なんて訳では決してないのである(タブン(^-^;)。
イヨクくんチームは、イヨクくん、片桐クンを筆頭に、闇のキカイ商人Pくんとその仲間達、さらには少林拳士カワグチくん、あと「昔はマジメそうだったのにぃ」の谷口クンなどなど、結構大所帯であった。
彼らはみな一癖も二癖もあるような連中である(ヒトの事言えるか(^-^;)。
さらに昼には、遼寧師範大に武術留学(ぉお~)しているお友達も合流するとのコト。
午前の練功場所をどこにしようか?と、話し合った結果、結局、あぁ思い出の(^-^;労働公園に行くコトにする。
朝の記憶を頼りにぷらぷら歩く。
が、道に迷う(^-^;(朝行ったばかりだろうが(^-^;>ボクら)
しばらく行くと、ロータリーの真ん中が広場になっている所に出た。
そこを掃除しているおばちゃんがいたので、道をきく。
実はそこがレイの「中山広場」であった。
しかし、どー考えても「こんなところでは練習しないだろ、おい」って感じのそれほど広くない広場(ヘンな日本語)であった。
まぁ、民間武術家の活動する時間帯ではなかったので、真偽は定かではなかった>通背モノ多しの
そんなこんなで、ようやく労働公園に着いた。
入園料は、朝と同じくやっぱり10元(トーゼン)。
どっかタダで入れる入口ないかなーと違う入口を探す我々。
日本円に換算すると、大した金額にはならないかもしれないが、中国に来てしばらくすると、なんだかケチになる我々であった。
公園の周りをぐるりと歩いて、違う入口にたどり着いたが、やはり10元とられた(クソッ。しかし、これまたトーゼン)。
そこは、今朝、夏老師一門が練習していた場所のそばだったので、
「じゃぁ、あそこで、練習すればいいじゃん」とレイの場所へ行った。
当然、夏老師はいなかった。
適当に散らばって、各自やりたい練習を自由に始める。
「しかし、なんで怒っていたのかなぁ」いくら考えても原因が思いつかない。
クヨクヨはしないが、やっぱ気にはなる。でも、わからない。
昼ちょっと前に、労働公園の練功をきりあげ、金碧大酒店に戻る。
イヨクくんチームは、ホテル前で留学生チームと待ち合わせの約束をしていた。
ホテル前の木陰で、留学生チームを待ちながら、ぶどうを食べる。
あまくてウマイ。
中国のメシはウマイのもあるけどそうでないのもある。
見かけからは想像もつかないような味のものもめずらしくはない。
その点、果物は安心して食べられる。西瓜とか桃とか安くてウマイ。
ただ、食べ方が、ちょっちなぁ、ってのもある。
通背海の家で出た西瓜は、ちょ~甘かったのであるが、それもそのはず、なんと砂糖がかけてあった(^-^;
あと桃とか皮をむかずにそのまま食べるのが民間流らしい。
しばらくすると留学生チームが来た。ぉお、小姐もいるじゃん(内一名は少林拳士カワグチくんのカノジョ。って書いていいのか?(^-^;)
みんな秘宗拳とかを学んでいるらしい(流石大連!)。
レイの大会にも参加するとの事。
人数がかなり増えたので、我々通背チームはイヨクチームと分かれて、食事。
昼飯食いながら、買い物に行く場所を検討する。
とりあえず、無難なところで友誼商店に行って、あとは前に来た時に素晴らしいキカイをゲットした体育用品店や、思い出の日本語学習中漂亮小姐と偶然出会った本屋などがある天津街を目指す事に決定した。
ケチモードな我々は徒歩で友誼商店に向かった。
友誼商店には、ボクの欲するようなブツはあまりない。
そこでは、友人に頼まれた人参胎盤膏なる謎の薬品を購入したのみであった。
次なる目的地、天津街は結構遠い。
歩き疲れてもいたので、流石にケチモードな我々も今度はタクシーに乗った。
天津街では、自由行動とし、終わったら適当にホテルに戻る、ということで散開した。
ボクの目的は、武術書とキカイと中華CDであった。
以前の記憶を頼りに思い出の本屋などを巡るが、収穫なし。
あいかわらずのすげぇー人混みだし、疲れていたので、早々にホテルに戻った。
ホテルに戻ると、王師兄がちょー怒って待っていた。
「おまえら、どこ行ってたんだーだだだっ!(--メ)」
って、出かけるって言ったじゃないすか~。
でも、王師兄にはそんなことは通じないのである。
なんでも明日の大会の開会式の予行練習があったそうで、我々を探していたそうである。
そんなことは誰からも聞かされていない我々。「えー、聞いてないよ~。」と言ったが、王師兄には通じない。
よくわかんない中国語でとりあえず叱られる。
あとで、常松師父に
「今日、開会式の予行練習があったそうじゃないですか~。知らなくて、王師兄にすっごく怒られちゃいましたよ~」と言うと、
「イイノ。イイノ。そんなの出ないもイイでしょ。」(ユルい常松師父)
う、う~む(^-^;でもあらかじめ言っておいて欲しかったっす。
叱られるのボクだし(/;)クスン
その日の夕飯はホテルの食堂。
大会前日で人が大勢来ていて、かなりにぎやか。
「かんべーい!」の嵐の中、李老師の教えを守って(と言うか、ぼくは酒がダメな体質)、ぼくはジュース。
みんなでワイワイテーブルを囲んでいると、王師兄がぼくらの席にやってくる。
また、怒られるか?とビクビクしていると、
「明日は大会だな。今日、おまえに口訣を授けるから、メシがすんだら、部屋で待ってろ。」と王師兄。
「ぉおお~、口訣!了解しました。」少しワクワク(^-^)ゲンキンナヤツダ
夕飯終了後、エレベータに乗る。
自分の部屋の階でおりると、廊下とかでみんな練習してる。
見知らぬ民間武術家もいたりして、すげぇー事になっている。
しばらくその様子を見ていると、王師兄が寄ってきて「部屋に入ってろ。」と言うので、部屋に入る。
続いて王師兄も部屋に入り、ガチャリとドアを閉める。
ちょっとキンチョー。
「いいか、明日の大会に備えて、おまえに通背拳の大事な口訣を授ける。」
「ぉお、謝謝、師兄」
「なんか紙はあるか?」
民間武術探険手帳を差し出すが、
「これではダメだ。もっと要らない紙だ。」と言うと、トイレに行ってトイレットペーパーをちぎって持って来る王師兄。
そして、そこにボールペンで文字を書き、「引手で構えろ。」と言う。
引手で構えると「いいか。これはなぁ・・・」とそこに書いた口訣の説明をしてくれた。
その説明を聞いたボクは「う、こ、これは・・・」とうなった。
王師兄は説明を終えると、口訣を書いた紙をトイレに流し
「わかったな?よく憶えとけよ。」と言って部屋を出て行った。
口訣は、通背の動作全体に関する事と前の手と後ろの手の使い方を述べたモノであった。
まぁ、大したことないって言えば、大したことないかもしれないが、後ろの手の使い方が、実はアノ「伸肩法の謎」を解く鍵になっているようにぼくには思えた。
だから、その説明を聞いた時、思わずうなったのである。
これを重視しているのなら、ぼくらのやった伸肩法をダメだと言うだろうなと。
とは言ってもぼくらもそれを重視していない訳ではないが、それよりももっと重視しているコトがある。
しかし、ぼくらが重視しているコトを知らなければ、ダメってなるだろう。(って、なんかよくわからないですなぁ(^-^;)
ぼくらの練習している伸肩法には四つの力が含まれている。圧、推(伸)、滾、落である。
このうち、「圧」と「推」は前に出す手、「滾」と「落」は後ろに引く手に含まれる。
一般に伸肩法は、前に出す手、腕、肘、肩が大事と言われるが、実は、引く方の手も前の手に負けないくらい重要なのである。
しかし、ぼくらと同じ引き手の伸肩法をする民間通背拳家には、いまだ出会った事がなかった。
引き手の「滾」と「落」を重視すると、王師兄の言った、口訣の中の後ろの手の使い方に少々反するかもしれないのだ。
王師兄の伸肩法は、王師兄の口訣のそのものであった(伸肩法に限らず、五行掌やその他全般的にそうであったが)。
確実とは言えないが、その時「伸肩法の謎」を解く手がかりをもらった気がした。
第八章 表演会 に続く
語句解説
○口訣
口頭で伝える技の要領、秘訣。
○土産買ってかないとヤバイっすよー
結構、無理して休みをとった社会人(特に就業年数が浅い場合)が、よく口にするセリフ。しかし、これのおかげで、次回からの探険が、行きやすくなる事もある。
○闇のキカイ商人Pくん
日本武林盟友会一員、一応、名を秘す(^-^;。キカイとはキカイの事である。多くは語れない。
○少林拳士カワグチくん
遼寧師範大に武術留学中に単身河南省少林寺に乗り込み、少林拳を学び、遂には拝師までしてきたツワモノ。
○「昔はマジメそうだったのにぃ」の谷口クン
日本老螳螂拳研究会市川分会所属。現在、ハルピン(たぶん(^-^;)に武術留学中。以前、市川分会の見学に行った時に会ったことがあるが、その時は「ぉお、マジメそうなヤツだなぁ」という印象だった。しかし、久しぶりに中国で会ったカレは、なぜかずいぶんナンパ(失礼)な感じになっていた。ナニがカレを変えたのか?でも、功夫は上がってました>螳螂拳
○素晴らしいキカイ
素晴らしいキカイとは、素晴らしいキカイである。多くは語れない。
○思い出の日本語学習中漂亮小姐
初めて大連に来た時、探索のための地図を求めて、書店を巡っている我々に接触してきた、それはそれは漂亮な小姐。本屋で「地図がねーよ」と困っている我々に「大連の地図をお探しですか?私が案内しましょう。」と流暢な日本語でやさしく声をかけてくれたのであった。その時の我々は、素晴らしいキカイを山ほどゲットした直後で、みんなして、それを抱えているとても怪しげな集団であった。それなのに臆することなく声をかけてくれたステキな小姐であった。モーレツにカンドーした我々は、賑わう本屋の中、民間人の好奇の目も気にせず、小姐と一緒に記念写真なんか撮ったりしたのであった。惜しむらくは、住所、氏名を聞き忘れたことか。
○友誼商店
昔は外幣(外人用の金)でしか買い物ができず、外人専用感のあった店。値段は高いが、まぁ品数が多く、品質も良い。外幣の制度のなくなった今は、民間中国人も普通に出入りしていると思われる。でも高い。
○人参胎盤膏
名前が怪しげで謎なクリーム。塗ると痩せるとかなんとか。
○中華CD
まだ、カセットテープのほうが多く、CDはあまりない。本屋とかデパートの楽器売場とかにある。
○武術書
あるところにはスゴクあるらしいが、ボクはそういう本屋に出会った事がない。中国より神田の内山書店、東方書店、亜東書店とかの方がいっぱいある気がする。技術書より武侠小説とかの方が多い>中国
○民間武術探検隊手帳
ぼくは探険毎に新しい手帳を持って行く。主に言葉がわからない時、筆談に使用するのだ。手帳を見るとその時の探険の濃さがわかるのである。
○圧、推(伸)、滾、落
出す時には、押さえて(圧)、推して(推)引く時には、ころがして(滾)、落とす(落)
1998.01.19 民間武術探検隊 わたる