民間武術探検隊 ~通背の郷6~
民間武術探険をしていると、いろいろな出会いがある。
懐かしい人達と思わぬところで嬉しい再会をすることもある。
が、そうでないこともある。人生イロイロイロなのである。
第六章 再会
さて、いよいよ大連市街である。
今度の宿は「金碧大酒店」。
「大酒店」と言っても大きな酒屋ではない、ホテルである。
そして、そこは結構、高級そうであった(^-^)
フロントで受け付けをしていると、クマのような男があらわれる。
日本老螳螂拳研究会草加分会の片桐クンであった。
今回の探険は、常松師父率いる本隊と茨城の趙玉祥老師の分隊からなり、趙老師隊とはココで合流することになっていた。
片桐クンは趙老師隊で参加することになっていたが、一足早く、単身山東省に乗り込み、既に一探険終えてきたとのことであった。
カレが言うには、山東省煙台の太極螳螂門張福洲老師のところを回ってきたとのことであった。
張老師とは、第三次民間武術探険で我々が接触したアノ生粋の民間武術家である。
昨年、第六次民間武術探検隊として、片桐クンと同門のイヨクくんが、張老師の元を訪ねたそうが、片桐クン自身は張老師と面識はなかった。
しかし、住所をたよりに張老師の家を探しだし、
「にぃはぉ!いぃゆぅじぃよぉだぁうぅ(伊与久大吾)の友達ですけど、張老師に会いにきましたぁ!」といきなり訪ねていったというのだ。
カレはタダモノではないのである。
その時、張老師は不在であったが、応対に出たご子息が「そうか。じゃぁ、あがって待ってろや。」と見ず知らずのアヤシイ熊のような男を親切にも家にあげてくれたそうである。
そのうち、張老師が帰ってきたので「にぃはぉ!いぃゆぅじぃよぉだぁうぅの友達ですけど、会いに来ました!」と言うと、
「ぉお、そうか。よくきたな。メシでも食ってけや。」と、やはり初対面の熊のような片桐クンを暖かく迎えてくれたというのだ。
「武林是一家」というコトか。
その後、いろいろ交流して、今朝、張老師一門と一緒に船で大連に着き、この金碧大酒店の前で、うちらの隊員と出くわしたそうである。
なんでも張老師の知り合いのおかげで船賃はタダだったとか。
ところで、なにゆえ煙台在住の太極螳螂門張老師が大連に来たかというと、なんとレイの大会に参加するためであるのだ。
あの探険以来、実に五年振りなのである。懐かしいのである。
そしてぼくも年をとったなぁ、なのである。
まぁ、そんなこんなで、受け付けを済ますと、部屋に荷物を置き、とりあえず食事。ホテルの食堂の丸テーブルを我々(通背の面々)、王師兄、片桐クンとで囲む。
王師兄が片桐クンを怪訝な目でにらむと、
「コイツはだれだ?」とぼくに聞いてくる。
「日本のぼくらの友人です。」と答えると、
「何か武術やってるのか?何門だ?」とコワイ顔で聞く。
う~む、ヤバゲな雰囲気(^-^;
「えーっと、カレ、中国語できるので。」と片桐クンに振るぼく(^-^;
片桐クンは「えっ、わたるさぁ~ん(^-^;」と苦笑いをした後、
王師兄に「実はボクはあなたがたの門ではありません。螳螂門のモノです。」と恐縮して言う。
それを聞いた王師兄
「なにぃ。何螳螂だ。オレは螳螂もやってたんだ。」と嬉しそうな顔に変わる。ホッ(^-^;
そのあとひとしきり片桐クンと螳螂談義をして、とてもご機嫌な様子の王師兄。片桐クンをとても気に入ったようであった。
片桐クン、実は見かけよりずっと若いのであるが、功夫はあるし、人柄も良いので、民間武術家に好かれるタイプである。
昼食後、部屋に戻って「ぉお~、水道の水が透明だぁ」などと当たり前のことに感動しつつ、ふかふかベッドでゴロゴロしてたら、いつのまにか眠ってしまっていた。
どれくらい経ったかわからないが、良い気持ちで寝ているところを誰かに起こされた。
「ったくぅ~、ダレだよ(-_-メ)」と眠い目をこすりながら、声のする方を見ると、ぬっと巨大なブッタイが仁王立ちしている。
王師兄である。
そしてその横には、どこかで見たようなおばちゃんが立ち、早口な中国語攻撃をぼくに浴びせかける。
寝起きにこれはキツイゾ。
「い、いったい、なにごとなんだーだだだっ」
おばちゃんは趙玉祥老師の師姐であった。
ハルピン在住の生粋の民間武術家。
ぼくらの間では「あね弟子(趙老師のあね弟子だから)」と呼ばれている。
「あね弟子」とは過去の民間武術探険で何度も一緒になり、いろいろとお世話になっている。
みかけは、ただのキョーレツな(^-^;おばちゃんだが、実は功夫のある人で、若い頃は、いろいろいろあったらしい(しかも美人であったという>若い頃今となっては信じがたい話しである)。
ここで、その「いろいろいろ」を紹介したいところではあるが、あまりにもナニで、書くのをはばかれるので割愛する。気になる人はオフの時にでも(^-^;
「ハルピンから丁度いま、ここへ着いたのだが、趙玉祥はどこだ?」と、あね弟子。
「まだ、来てません。もうすぐ着くハズです。」と言うと「そうか」と言って、王師兄と部屋を出ていく。
もう、びっくりしたな~。一発で目が覚めたぜ。
さて、通背海の家は、俗世間から隔離された地にあったため、民間武術探険はできなかったが、今度は行くぜぇ~(炎_炎)メラメラ。
そして隊員達と計画を練る。
いろいろいろと行きたいところはあったが、ナンと言っても先ずは「労働公園の夏重規老師」のところ行かねばなるまい。
二年前の「伸肩法の謎」を解く時が遂にやってきたのだだだっ!
後は、中山広場。
某氏より寄せられた
「ボクらはそこでオソロシイ光景を目の当たりにしたのです。中山広場でものすげぇー数の人々が通背をしていたのです。」
という目撃談の真偽を確かめなければなるまい。
地図で場所を確認すると、中山広場は結構近い位置にあったが、労働公園はかなり遠い。歩きではちょっちキツイかも。でも行くのだ。
その日の夕食は、外の民間中華料理屋であった。
ひさびさに常松師父とテーブルを囲む。
大会はあさってからで、明日一日は特に用もないハズなので「自由行動で良いですか?」と常松師父に聞くと
「王さんが労働公園に連れて行くと言ってたよ。」と常松老師。
なんだってぇ~。
「労働公園、新しくキレイになったよ。遊びに行くもイイデショ。」とのことであった。
なんと好都合!王師兄に「よろしくお願いします!」と話す。
で、5時に出発することになった。
翌早朝5時、みんなそろって労働公園を目指す。
さぁ、行くぜぇ~~~
テクテク歩いて、30分程で着く。
労働公園のあまりの変わりようにビックリ。
キレイになったとは聞いていたが、まるで違う所になってしまっていた。
よっしゃ、行くぞ!と、入ろうとすると、入口の係員が「有料だだだっ」と言う。
「いくらだだだっ?」と聞くと
「一人10元だだだっ」と言う。
なにぃ、たけぇよ、オイ。しかも、我々、まだだれも換金してないし(^-^;
王師兄が「なんでそんなに高いんだだだっ!」と食ってかかっている(^-^;
しばらくもめたあと、一人5元に値切って入園する(公共の施設なのに値切れるから不思議だよな(^-^;)。
そして、一昨年の記憶を頼りに、夏老師一門を探すが、景色が全然変わってしまっていて、なかなか見つからない。
園内をグルグルグルする。
途中、親子連れ通背モノや、上半身はだか通背モノとかを見かけるが、お目当ての夏老師は見つからない。
う~む、ここはやはり通背モノに聞いてみるかと、上半身はだか通背オジサンに近づく。
このオジサン、黒の功夫パンツに上半身はだかでさっきからずーーーっっと伸肩法を繰り返している。
確実に通背の民間武術家である。
「ざぉ!オジサンがしてるの通背拳ですよね?」とにこやかに話しかけるが、
「いや、ただ、勝手に動いているだけだよ。」と、とぼける。
ふぅ、「民間武術家は秘密主義である」にもほどがあるぜ。
ど~~見ても「伸肩法」以外のナニモノでもないのにさぁ(^-^;
大体通背モノの我々民間武術探検隊の目を欺ける訳もない。
そこで「実はぼくらも通背門なのですが、夏重規老師を探しているのです。どこで練習しているか知っていますか?」と、前回、夏老師と一緒に撮った写真を見せると
「なんだ、そうか。夏老師なら、あっちの入口のそばで練習しているはずだ。」と教えてくれた。
「謝謝」とはだか通背オジサンにお礼を言い、言われたところに行くと、林の中で数名のわこうどが練習をしていた。
その中の一人に話を聞くとやはり、夏老師一門であった。
もうしばらくすれば(6時頃)、夏老師も来るとのこと。そこで待つことにした。
ほどなくラッタッタに乗って夏老師が来た。
「にぃざぉ!おひさしぶりで~す。」と夏老師のところへ駆け寄るボク。
しかし、夏老師は「なんなんだ、おまえら。」とコワイ顔をしている。
アレ?わかんないのかな?と思い、一昨年一緒に撮った写真を取り出し、差し出すとコワイ顔のまま「あぁ、ありがとよ」と、ソレを受け取った。
えー、どーして??と訳がわからない我々。
「おまえら、何しに来た?なんか用か?」とぶっきらぼうに聞く夏老師。
こえー。
「一昨年とった写真を持ってきたんです。」と、とりあえず答える。
「ふーん、そうか。また表演会があるみたいだな?」
「はい。ぼくらも参加します。」
「そうか。一昨年も今年もオレのところに話しは来なかったんだよな。」と、不機嫌そうな夏老師。
そのことで怒っているのか?よくわからないが、とても「伸肩法の謎」のことなど聞ける雰囲気ではない。
「まだ何か用はあるか?」とあいかわらず、ちょー冷たい態度の夏老師。
「できれば練習見学したいんですけど」と思い切って言うも
「まだ学生が揃ってないからダメだな。あと30分くらいしないとな」と言う。
ぼくらは7時までにホテルに戻らなければならなかったので、6時半には、ここを出なければならない。夏老師にもそう言ってあった。
要は「おまえらには見せてやらんもんね」、ということらしい。
そのくせ「おまえら表演会に出るのなら、ちょっと見せてくれないか?」などと言う夏老師。
それを丁重にお断りして、その場を去る。
いったいナニを怒っていたのか、だれも思い当たるフシはなかった。
我々は暗い気持ちで労働公園をあとにした。
第七章 口訣 に続く
語句解説
○大酒店
ほかに「飯店」という言い方もある。もちろん「メシ屋」の意味ではなく、ホテルの意味である。
○片桐クン
日本老螳螂拳研究会草加分会代表。六合螳螂を専門とする。
最近は、日本武林盟友会として「武藝」に興味深いコトをいろいろ書いている。功夫あり、研究熱心、良い人柄の好漢である。
○イヨクくん
日本老螳螂拳研究会市川分会代表。常松師父は「イクノくん」と呼ぶ。(間違って憶えられてしまったのである。もう、修正は効かない(^-^;)片桐クンと同じく若いが、研究熱心で功夫のある好漢。
最近は鄒淑嫻老師の八卦掌にゾッコンである。
やはり日本武林盟友会として活動。武藝特派員でもある。「井出ヒロシ探検隊」の発案者でもあるのだが、先日「実はアレ、わたるさんの民間武術探検隊のパクリなんですよ(^-^;」とカレ。「うむ、面白いから許可」というコトで、民間武術探検隊公認探検隊である>井出ヒロシ探検隊
○いぃゆぅじぃよぉだぁうぅ
イヨク(ダイゴ)くんの中国語読み
○趙玉祥老師
山西形意、八卦、太極などを得意とするハルピン出身の民間武術家。
中国語は東北訛り、日本語は茨城訛りで、結構ヒヤリングがムズイ。
とにかく、武術好きで大酒飲み(^-^;常松師父とは古くからの付き合い。
○張福洲老師
太極螳螂門。煙台在住。詳細は「民間武術探検隊は行く」を参照されたし。
○武林是一家
「武術モンはみんな家族だよん」みたいな言葉。
○あね弟子
本名、梁佃香。生粋の民間武術家。武藝97年春号で、その逸話の一端が公開されている。独りモンの多い民間武術探検隊員に「なに?まだ結婚してない?武術のできる小姐紹介してやるから」となかなかおばさん振りを発揮する。
お店で剣を選んで貰った時、鞘から剣を抜くと、錆止めの油をキレイに拭き取り(この時店員の「あいやぁー」の声が響き渡る)剣先をぐっと柄の方に曲げた。良い剣はある程度のしなりが必要だそうだ。しかし、必要以上の力を加えるとソレは元に戻らない。そして、その元に戻らなくなった剣を「これはダメだ。」と言い放ち、ヘーゼンと店員につきかえす剛のモノである。もちろんソレのお金は払わない(^-^;
ちなみにぼくの剣はあね弟子の厳しいチェックを通過した良い剣。
○地図
その土地の地図は探険には必須アイテムである。現地で調達すれば、かなり安く入手できる。但し、結構古いモノもヘーキで売ってたりする。
○労働公園
遼寧師範大の留学生のコに「キレイになりましたよぉ~」と聞いてはいたが、実際、その変貌振りにちょーびっくり。
○中山広場
前々から「中山広場には通背モノが多い」と聞いていたが、行ったことはなかった。さて、実際のところは・・・。
○夏重規老師
祁氏通背門小架式。修剣痴祖師爺の弟子である方連徳の弟子。詳細は「民間武術探検隊再び」を参照されたし。
○ラッタッタ
むかし、スクーターが流行った頃。「らったったぁ」というCMで一世を風靡したマシンがあったが、そんな感じ。
1997.12.29民間武術探検隊 わたる