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実朝暗殺_05 千葉純胤の時空移動

純胤は重ねて話を続けた。

「実際には公暁をそそのかしたというより、公暁より凶行の談義があったと考えています」

「その刹那、三浦義村には絵が浮かんだのではないかと思います」

純胤は流石に本人を殺る気にさせるのは困難でしょうからと添えた。

「黒幕は三浦義村と考えに至った理由ですが只の消去法ではありません」

「先ずは実朝が殺されることへの三浦義村にとっての利点です」

「実朝が将軍である以上、縁者である北条義時との深い絆がありますが、三浦義村には入れる余地はないです」

「ならば三浦義村としては、はやく皇子の下向による将軍禅譲を切望していたのではないかと」

「禅譲だとしてもそれは何年後になるのかは不明です」

「ならば早めに世を去っていただけないかと頭を過るでしょう」

「でも公暁から三浦義村への協議は『実朝と北条義時誅殺』であったと推測します」

ここで公暁と三浦義村の想いが少しずれが発生してますねと純胤は付け加えた。

「三浦義村にとって北条義時が生きていてほしい理由はあるのでしょうか。そのまま北条義時も亡くなくなれば晴れて三浦家が第一の勢力になるかもしれないのに」

「おそらく公暁に北条義時が鶴岡八幡宮で討たれたところで嫡男の北条泰時が継ぐとみて、北条家の世はゆるぎないと結したのでしょう」

「三浦家が北条家を直接討って勝ち取らないと他の御家人は付き従えないのでは」

「とはいえ三浦家が北条家に真っ向から挑んで勝てる可能性は先の和田合戦を最期に潰えてしまいましたが」

「それよりは公暁の計画を利用して、北条家との関係を強めておきたいと判断したと思われます」

ではどのように北条義時を生かさせようとしたのかと相馬義胤が訊ねた。

「それはですね。三浦義村が北条義時に『不確かではあるが義時殿の命を参詣の機会を機に狙うという情報を聞きつけた』とでも耳打ちすれば事足りるのではと」

「例えば、和田合戦時に安房上総へと逃げ、行方をくらましている和田頼盛の遺児、朝比奈義秀が北条義時が命を狙っているとか」

それはあり得る話だなと千葉胤綱は相槌を打った。

「まぁ、あくまでも例えです。阿野全成の遺児である阿野時元でもいいです。北条義時を恨んでいる一族は数知れず」

「実朝が狙われているなど伝えたら参詣は中止となるでしょう。しかし北条義時が狙わているかもくらいの曖昧な情報なら流石に北条義時でも取りやめ迄は出来ません」

「自身が欠席することで回避するでしょう」

怪しげな報せ程度なら、そのまま北条義時は参賀するやもと相馬義胤が云った。

「そうですね。それなら北条義時がこの世を去るだけの話。引き続き子の北条泰時としっかりと組むのでは」

北条義時としては凶行へと至ったのが公暁であったと知った時には、この企みの深層には気づいたかもしれませんがと純胤は継ぎ足した。

「三浦義村としては公暁が成功しようが失敗しようが口封じで殺めたと思います」

「どちらに転んでも北条義時としては、結果として三浦義村に恩が残る」

純胤は謎解きは以上ですと言葉を締めた。

「胤綱、貴方ならだれが黒幕だと思いますか」

千葉胤綱は迷わず三浦義村と答えた。

純胤は貴方ならそう返答するでしょうねと返した。

千葉胤綱は続けて純胤に問うた。

「純胤。謎解きは感慨深かったぞ。あの時なにが鎌倉であったのかも、改めて熟考の価値があるな」

「それはそうと我らにはこれからが大事だ。そろそろ我が一族の進むべき道を示してくれぬか」

「そうでしたね。胤綱。これから頼朝が平家を討ち滅ぼして以来、最大限の波瀾が吹き荒れます。くれぐれも道を誤らぬよう...」

純胤はそこまで言った最中、純胤の周りに突如として濃い霞がかかり、ものの数秒で霞ごと、また忽然と消えた。






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