後鳥羽上皇・壱〈転生記外伝〉
後鳥羽上皇は御所の二条殿で思い耽っていた。
院近臣の平賀朝雅が討たれた。
自身の知らぬ事情にて鎌倉の勢力争いの果てに。
しかも誅殺の場は京である。
朝廷が血で穢されたに等しい。
ついこの間、頼朝の子で征夷大将軍へと就いた千幡に「実朝」という名を授けたばかりというのに。
いままで東国のことは東国と割り切っていたが、こうも殺戮と動乱を繰り返すのは不問とはいかない。
このままでは東国の乱れがいつ京に及ぶかもわからぬ。
後鳥羽上皇はすこしばかりまぶたを閉じ黙思し見開いた。
先ずは西国の強さを堅めて鎌倉への壁とする。
西国で誰が柱として相応しいかを思考を巡らせてみた。
そうだ、大内惟義がいた。
大内惟義なら清和源氏の流れを組んでおり、いまの頼朝一族と血筋の見劣りもない。
平賀朝雅は異母とは云え弟であった。今回の顛末には思うところもあるであろう。
大内惟義がしかと力をつけていく事が世の安泰をもたらす。
後鳥羽上皇は他にも手だてはないかと思い返してみた。
実朝だ。実朝はまだ幼い。ただただ鎌倉の血生臭い武士共だけに囲われているとまた頼家の様に奴等にいいように扱われてしまう。
このまま歳を重ねたところで教養もあったものではない。
そのような顛末を二度と繰り返さないためには…
ちゃんと自分が実朝に手塩をかけて育くめばいいではないか。
そして自らの近臣となり相応しい文武揃った将軍として東国を束ねる。
これこそが現世の太平である。
後鳥羽上皇の胸懐はすがすがしくも晴れやかになった。